増税魔

好事魔多し
世界
大和総研 経済調査部長 山﨑 加津子
IMF は 4 月 6 日公表の最新の経済予測で 2021 年の世界の経済成長率を 6.0%と 1 月の予想か ら 0.5%pt 上方修正した。大型の追加経済対策に加え、ワクチン接種が順調に進んでいる米国 の成長率の上方修正が目立つが、米国の消費拡大が他の国々にプラスの波及効果を持つことも 期待されている。すでに 1 月に世界の財貿易量はコロナショックによる落ち込みを克服し、過 去最高を記録した。人の移動や対面でのやり取りを前提とすることが多いサービス業の回復は 遅れているが、米国、英国、中国では徐々に制限緩和が進められている。行動制限とワクチン接 種の組み合わせで感染を抑制したのち、大胆な景気刺激策を講じることが、コロナショックに対 する有効な処方箋になりつつある。ただし、感染力がさらに高い変異株の出現、歳出拡大を阻む 金利上昇、あるいは資源価格上昇や地政学リスクなどの懸念材料への目配りも必要であろう。
日本
10 都府県に適用された「まん延防止等重点措置」は実質 GDP を 1 カ月あたり 0.4 兆円程度下 押しすると試算される。大阪府は国に対して緊急事態宣言を要請する方針であり、東京都も本格 的な検討に入った。感染力の高い変異株の流行によって多くの地域で感染爆発が発生すれば、 2020 年春の緊急事態宣言のような厳しい措置を余儀なくされ、4-6 月期の景気は大幅に悪化す るとみられる。変異株の流行には引き続き細心の注意が必要であり、ワクチン接種を迅速に進め る重要性が一段と増している。当面の景気見通しという観点からは、半導体不足によって自動車 の国内生産が抑制される影響に留意する必要がある。仮に国内の自動車生産が半導体不足によ って 50 万台減少すると、実質 GDP への直接的な影響は▲0.2 兆円程度であり、他業種への短期 的な影響分を合わせると▲0.5 兆円程度となる。影響が長期化すれば、サプライチェーンを通じ て幅広い産業に悪影響が広がり、実質 GDP の押し下げ幅は▲0.9 兆円程度まで拡大する。
米国
4 月末で誕生 100 日となるバイデン政権のこれまでの取り組みを振り返ると、新型コロナウイ ルス対策や経済政策で成果を上げ、世論の支持も高いことから上々の立ち上がりといえる。こう した中、バイデン政権は 3 月末に肝いりのインフラ投資計画 2.7 兆ドルと、その財源として法 人増税案を公表した。民主党は 7 月初旬のインフラ投資計画・増税法案の成立を目指している が、大規模な財政支出や増税に消極的な共和党との協働は困難といえる。そのため、当初のイン フラ投資計画を 2 つに分け、議会通過を目指す動きもある。ただ、議会を通過できたとしても、 法人増税でインフラ投資計画を賄う場合、経済への悪影響が大きいとの試算もある。本来であれ ば、財源として他の歳出削減を通じた方が経済への悪影響は少ないが、増税は世論の支持もあ り、バイデン政権にとってハードルは低いのかもしれない。しかし、ビジネス界からは増税によ って経済活動が抑制されると反対の声が上がっている。米国の分裂阻止を掲げるバイデン政権 にとって、世論だけでなく企業や共和党も十分に考慮し、バランスの取れたインフラ投資計画を
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実現できるか、今後のバイデノミクスの行方を占う試金石といえよう。
欧州
依然として、欧州の多くの国で行動制限措置が実施されているが、一部の国では新型コロナウ イルスの新規感染者の増加ペースが再び加速し、規制内容を強化したり、期間を延長したりする ことを余儀なくされている。対照的に、英国では新規感染者の増加ペースを抑制することに成功 し、厳格なロックダウンをスケジュール通りに緩和している。経済正常化を担保するカギになる と考えられているのがワクチン接種であり、英国では、接種完了者が 1,000 万人を超え、遅れて いた EU においても接種ペースはやや加速している。タイミングは多少後ずれするとしても、今 後、景気が加速していくという従来のシナリオは維持されている。成長が加速する際に、牽引役 として個人消費の動向が注目される。コロナ禍で積み上がった過剰貯蓄は年間消費額の 1 割弱 に相当する規模とみられ、支出に回るタイミングやその勢いが成長を左右するだろう。もっと も、欧州と米国では、過剰貯蓄の形成要因がやや異なることから、過大な期待は禁物である。先 行きのプラス要素とマイナス要素が交錯する状況下では、それぞれの不確実性が解消されるま で、現状の財政・金融政策のサポートが肝要となるだろう。
中国
「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を 促す」とした日米共同声明に中国は内政干渉だとして猛反発をしている。今後、中国がどう出る か、不透明であるが、今回に限らず、中長期的な観点からも日中関係悪化への備えをしておくこ とは重要だと思われる。2021 年 1 月~3 月の実質 GDP 成長率は前年同期比 18.3%(以下、変化 率は前年同期比、前年比)を記録した。前年同期に落ち込んだ消費が大きく回復し、寄与度を高 めた。実質 GDP 成長率は、2020 年の 2.3%から 2021 年は 8.8%程度に高まろう。従来の 8.0% 程度から見通しを引き上げたのは、11 月~3 月の実績が 18.3%と、当社の想定(16.0%)を上 回ったこと、2米国の大規模経済対策が世界の需要を刺激することが、中国経済の押し上げ要因 となること、などを反映させた。2022 年については、2021 年の高成長の反動もあり、5%程度の 実質成長を想定する向きが多い。ただし、秋には 5 年に 1 度の党大会が開催される予定であり、 大和総研は政治的な要請でもう少し高い成長率が期待できるとみている。2022 年は 6.0%程度 となろう。
主要国実質 GDP 見通し<要約表>
(%) (前年比%)
2020年
2021年
2022年
2019年 2020年 2021年 2022年 (日本及びインドは年度)
4-6 7-9 10-12
1-3 4-6 7-9 10-12
1-3
日本
-29.3 22.8 11.7
-5.1 4.8 2.4 2.2
2.3
-0.3
-4.9 3.7 2.3
米国
-31.4 33.4 4.3
6.5 15.4 6.0 4.1
3.2
2.2 -3.5
7.5 4.0
ユーロ圏
-38.8 60.3 -2.7
-3.2 4.8 8.4 5.3
3.4
1.3 -6.7
3.7 4.1
英国
-57.9 87.1 5.2
-6.6 12.9 9.7 6.5
5.0
1.4 -9.8
5.3 5.5
中国
3.2 4.9 6.5
18.3
8.0 6.5 5.0
5.2
6.0 2.3
8.8 6.0
ブラジル
-10.9 -3.9
-1.1
N.A. N.A. N.A. N.A.
N.A.
1.1
-4.1
3.7 3.0
インド
-23.9 -7.5
0.4
N.A. N.A. N.A. N.A.
N.A.
4.9
-7.7 11.1 5.5
ロシア
-8.0 -3.6
-1.8
N.A. N.A. N.A. N.A.
N.A.
1.3
-3.1
3.5 3.0
(注)グレー部分は予想値、それ以外は実績値。四半期伸び率は、中国、ブラジル、インド、ロシアは前年比、それ以外は前期比年率 (出所)各種統計より大和総研作成

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