水上 勉の遺言
水上勉の代表作「一休」(中公文庫)を読み返しました。
とんち話のアニメ「一休さん」を見て育った私にとって、室町時代の破戒僧・一休禅師の実像を見るのは、刺激的で痛快なことでした。権力に抗し、教団を捨て、地獄の地平で痛憤の詩をうたい、肉を食い、酒を飲み、盲目の森女との愛に惑溺してはばからなかった一休。当時の禅宗は政治権力と結託し、貴族の趣味に走り、衆生を救うという仏道の本意を放棄していました。一休の「風狂の坐禅」は、堕落した禅に対する魂の叫びであったに違いありません。収奪がまかりとおり、荒れに荒れていた暗い中世にこんな快僧がいたと思うだけで実に痛快です。一休禅師は、社会の最底辺で這うように生きている人間にこそ生活があり、かれらのためにこそ禅はなければならぬ、と考えていたのです。
そして書き残した「狂雲集」が粋で、なんとも人間臭い。
たとえば
色の世界に色なき人は、金仏木仏石ほとけ
粋だなあ。
ちなみに水上さん自身も禅寺で小僧となった後に還俗しています。なんと22歳の時には報知新聞校閲部に勤務していたそうです。
俺も一休さんのように生きたい。そして頓智(とんち)で埋め尽くしたい。
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