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#6「島守のうた」脚本

●【場面九、島田行政】

島田「…ところで、県庁にいる職員が少ないようですが…?」
浦崎「いや…。」
島田「先ほど県庁内を覗いたのですが、空いたままになっている部屋も多い。あれは…?」
内政「はい…非常事態に備えて県職員も分散疎開を…。」
島田「分散疎開?」
内政「大きな建物は狙われやすいので、各部を分散して民家に配置しております。」
島田「そういうことですか。…内政部長、それはあなたの指示ですか?」
内政「まあ…。」
島田「我々は県民を守る為に尽くすのが第一であって、まっ先に己の身の安全を図ってはなりません。県庁機能が分散していて、どうして沖縄県民の命を守れますか?」
内政「いや…緊急時には、使いを出しまして…。」
島田「指示の遅れは県民の命に係わる。すぐに職員に対して、県庁に戻るよう、指示を出してください。」
内政「いや…しかし…。」
島田「すぐに指示を出すように!」
内政「…承知いたしました。…浦崎君!」
浦崎「はい!」
内政「私は出張の準備があるので、君から皆に伝達しておくように!」
浦崎「出張?この状況で必要なのですか?」
内政「いいから、頼んだよ。」

(いそいそとはける内政部長)

具志堅「前知事や那覇市長のように内政部長までもが。」
浦崎「…高官が次々と醜態をさらし、県民を置き去りに逃げていく…。」
具志堅「知事…彼はきっと帰ってきませんよ。」
島田「誰だって命は惜しいから仕方ないよ。さあ、我々が暗い顔では、県民がますます不安になる。ここから!県庁が一丸となって、この難局を乗り切りましょう!」
浦崎「はい。」
荒井「ところで、先ほど陸軍参謀からは何と…?」
島田「はい。軍の見立てにより、米国…敵機機動部隊が沖縄に向かっていると。」
荒井「やはり来ますか…。」
具志堅「それは…いつ頃?」
島田「早ければ一週間後。」
浦崎「一週間!」
島田「そこで、参謀長から、県に、こう…依頼がありました。
一つは、老人、幼子、婦女子の県北部への疎開を早急にすすめてもらいたいということ。
そして、もう一つが半年分の住民の食糧を確保するように…と。」
浦崎「そんな無茶な…。」
島田「そこで…これより、県職員は、疎開と食糧確保の二つの業務に専念いたします。
荒井さん、警察部は、住民の保護と非難誘導、治安維持と軍作戦への協力をお願いいたします。」
荒井「かしこまりました。」
島田「浦崎室長。」
浦崎「はい。」
島田「これより、疎開業務は警察部から内政部に移し、進めてもらいます。県外疎開業務に尽力したあなたのお力をお借りしたい。」
浦崎「…わかりました。」
島田「やれ…産めよ殖やせよ…と国策とは裏腹に、夫婦を離ればなれにしなければならない役目は辛いだろうと思います。
しかし、戦場態勢を整えるための至上命令だし、命を守るための緊急措置であるから、一生懸命頑張ってください。」
浦崎「力の限り尽くします。」
島田「そして…そうだなぁ~。戦争が終わったら、北部に疎開した人口を南方に移したりしなければならない。ですから…。」
浦崎「知事…戦争が終わったら…ですか?」
島田「そうです。戦争が終わってからも、あなたには働いてもらいますよ。浦崎さん、そして、他の皆さんも。
だから、生きて!決して、命を無駄に捨ててはならない。我々だけは、決して希望を失ってはいけない。さあ、明るくやりましょう。」

(笑顔でうなずく職員)

上里(老)
「こうして、着任早々、島田叡知事は精力的に戦場行政を執り行っていくのでありました」

荒井「知事、県内にある食糧米は、三か月を支えるのが精一杯。
芋の作付けもございますが、軍への提出が優先のため、確保できるのはごくわずか。」
島田「う~ん…。芋の生産には重点を置かねばなりません。昼夜を問わず、芋の植え付けには力をそそぎましょう。
そして、雑穀もできるだけ確保し主食にあて、ソテツも採取し備蓄するよう指示してください。」
荒井「あとは米。台湾米確保の為、既に真栄城食糧営団理事長と呉我内政部食糧配給課長が台湾総督府に飛んだのだが、交渉は難航している模様。」
島田「仕方ありません。台湾米の確保、それは私が直接交渉に参りましょう。」
荒井「しかし知事、知事に万が一のことがあったら…。」
島田「断而行鬼神避(だんじておこなえばきしんもさく)!
県民を飢えさせるわけにはいきません。…まあ、なんとかなるでしょう。」

上里(老)
「一九四五年二月二十七日頃、島田知事は、その当時日本の一部であった台湾に飛んだ。
しかし、沖縄近海の空も海も既に敵国の手に落ちており、あの時期、台湾に飛ぶということは、どれだけ無謀…大胆というべきか。
そして、島田知事の必死の交渉もあり、台湾米三千石を沖縄へ輸送する確約に成功した。」

島田「断而行鬼神避(だんじておこなえばきしんもさく)…。よし、これで食糧はなんとかなった…。」


――次章へ続く――

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