「味方のふりしないで」
下町のカフェ。若いカップルが話をしている。
男「その子はさ、ちょっと変わってる男の子なのよ。なにが変わってるって一番、わかり易く言っちゃうとさ、たぶん、軽い障害がある。うん。たぶんて言うのは、物言いを柔らかくするために咄嗟につけたんだけど、、、」
女「まぁわかるよ」
男「小学校のときに同じクラスになってさ。周りにイジられてるわけ、本人にしたら、『いじめだ』って感じもあったかもね。小学生って残酷だからさ。ただ、俺の目線だけの言えば、イジられてる範疇に見えたし、本人も活発なクラスの男子たちを追い回しながら、笑ってたりもしてて。クラス自体にはそう言う感じで溶け込んでたのよ」
女「まぁでもよくあるイジメの構造だと思うけど。その子自体は嫌がってたんでしょ?基本は」
男「...まぁ、最後まで聞いてよ。ある日ね、体育の授業があってさ。みんなが準備体操の掛け声に合わせてその子の名前を大声で言うみたいな「ノリ」が始まったの。その子の名前を仮に〇〇君だとすると「一二、三四!五、六、〇〇」みたいな。掛け声とか、大声とかって一種のさ、快感みたいなものを伴うでしょ?カラオケの気持ち良さと近いんだけど。それをみんなでやって、ギャハギャハ笑う流れになってさ」
女「最低だね」
男「そうだろ?だからさ、そん時、俺はませたガキだったのもあって、みんなにね『やめろよ』みたいなこと言ったのよ」
女「うそー。絶対言わなそうだけど、、、」
男「いや!その時の俺は確かに言ったんだよ。「やめよーよ、こう言うの」って。まぁ周りも楽しかったのに、水差されてやめる空気になったんだ。準備体操が終わって、散りじりになった時にその〇〇君がさ、俺のとこにきて、耳元でコソコソ話するみたいね俺に言うの。
『味方のふりするのやめて』って」
女「ウソっ!へ〜バレたんだね、あんたの偽善」
男「顔見たらさ、真剣な顔してんだよー。もう次の言葉が出てこなくてさ。その後に読んだ有名な小説にもそう言うシーンが出てくるんだけど。俺にとっては忘れられないことだし、その子のことを時々、今でも思い出すんだよね。〇〇と話した記憶なんて他に全くないしさ、20年以上も前のことだけど...その時の出来事と一緒になってその〇〇くんのことはよく思い出すんだよなぁ」
女「・・・」
男「どうしたの?」
女「なんか昔話みたいに話してるけどさ」
男「なに?」
女「私もあんたと一緒にいると、時々思うよ、、、『味方のふりしないで』って」
fin
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