里芋

里芋といえば、煮っ転がしか煮しめだった。実家では、里芋、こんにゃく、干し椎茸、大根、人参、れんこん、ごぼうなど、多種多様な具材を使ったお煮しめを作ってもらっていたものだが、さすがに一人暮らしでそれだけの種類を集めるのは無謀だ。よって、最近里芋を買ったときは専ら煮っ転がしにしていた。

具材の種類の少ない煮しめを作ればよいという考え方もあるだろうが、里芋を主役として味わうなら煮っ転がしに軍配が上がる。対して煮しめの里芋はone of themとしての里芋だ。あくまでも私見だが。

前置きが長くなったが、今日は思いつきで別の里芋料理を作ることにした。芋煮である。

もはや解説は不要かもしれないが、芋煮は東北各地の郷土料理であり、地域によって味付けは異なるものの、里芋を肉やその他の具材とともに煮込むという点は概ね共通している。もともとは船頭たちの退屈しのぎが起源だそうだが、今日では社交の場の定番料理として市民権を得ているようだ。

手間を省くことは時に必要だが、里芋の土の付いたものを自分で洗って皮を剥く手間だけは惜しんではならない。純白の艶の美しさ、そして生命の香り、粘り。皮を剥いて真空パックに入っているものと比べると仕上がりは雲泥の差だ。

今回使った小さな里芋は産地直送のものである。大量に入っていて、袋には生産者のシールとは別に黄色のシールが貼ってあってチビと書いてある。周りの里芋より明らかに安いが、それは手間がかかるからだろう。数えてみると27個あった。一つ一つ包丁で剥いていくと30分かかった。いかにも暇人の道楽である。

里芋の処理を済ませた頃には、こんにゃくを下茹でした湯は冷めきっていた。醤油、味醂、砂糖、水に里芋とこんにゃくを入れて火にかける。この味付けは山形風である。

里芋が柔らかくなったところで、豚肉と牛肉、椎茸を入れる。冷凍庫に干からびかけた牛肉の細切れがいくらか残っており、それを買った一ヶ月以上前の自分を讃える。

それ以降は基本的に放置だ。たまに灰汁を掬ったり煮詰まったぶんの水を加えたりするのみである。その隙にキャロット・ラペの仕込をする。二日後くらいが食べ頃だろうか。こってりした主菜に合わせたいものである。

ようやく里芋に火が通ったようだ。とんすいに溢れんばかりに盛り付ける。はやる気持ちを抑えつつ、ゆっくりとそれを口に運ぶ。ほっくりというべきか、ねっとりというべきか、その味わいは包丁で剥いたときの感触の延長線上にある。素朴で実直だ。手でちぎったこんにゃくは絶妙に出汁を含んでいて、肉や椎茸もよい仕事をしている。いやはや、いやはやである。

〆はカレーうどんだとインターネットで見て、恐る恐るカレールウを投入する。そのままうどんを入れて美味しいことは想像に難くなかったが、ここは一つ賭けをしてみたかったのだ。そして、その賭けは見事に成功を収めたのだった。

いいなと思ったら応援しよう!