盗人エイミー
エイミーは出会った時から嫌な感じだった。人当たりも良く、いつも笑顔で、面倒見が良いという周りの評価は知っていたがなんとなく”胡散臭い”感じがして好きではなかった。本能というか、勘というか、経験からくる警報が鳴ったというか、可愛らしい笑顔でも、胡散臭い感じがした。
コロラドの大学に通っていた時に、ボーイフレンドを介して出会ったのだが、最初に会った時から彼女が彼を狙っていたのがわかっていた。あからさまな態度や言葉には出していなかったが、私は知っていた。まぁそれも女の勘だったわけだが、そんな不確かな理由で彼女を”家に連れてくんな”とも言えず、”友達やめろ”などと言った日にはこちらの神経が疑われそうなので、そのままにしておいた。
彼女はよくうちに入り浸っていた。授業が終わり、家に帰ると、彼女は既にリビングのテレビの前で彼と一緒にビールを飲んでいた。台所はタコスを作ったような跡があり、ご飯も食べたのだ、とわかる。そんなことが2−3度続いた時に、ついに彼に切り出した
”私がいない時にエイミーを連れてくるのはやめてほしい”
彼はビックリしていて理由を聞いたが、私は ”本能であの女は信用できぬと思っている” とは言えず、”嫌だから!” としか答えられなかった。そしてその答えは彼を不機嫌にさせ、私は彼の友達付き合いを制限する悪い彼女だと思われた。
次から彼女が来ている時には、私はリビングには顔を出さずさっさと自室に閉じこもるようになったが、ある日自分の部屋にあったものがなくなっているのに気づいた。
指輪、セーター、ろうそく、カップ、香水、そんな小さなものが失くなっていた。
心の中ではエイミーが盗んだのではないか、と思っていたが、100%そう思うとは誰にも言えなかった・・・部屋が散らかっていたのでひょっとしたら何処かへしまったのか紛れたのか、という可能性があったからだ。
しばらくたってエイミーが私と同じセーターを着てうちの庭でタバコを吸い、私のチワワと遊んでいるのを目撃した。その夜、彼に失くなっているもののリストを見せ、エイミーが盗んだと思う、と告白した。今日着ていたセーターも私のものだ、と主張したが彼は ”そんな証拠はない、同じものを持っていたのかもしれない” とエイミーを弁護した。
違う日は印刷しておいた私の実験のレポートがなくなっていた。
母が日本から送ってきてくれたお菓子がごっそり消えていた。
バスルームに置いてあった、彼が誕生日に買ってくれたピアスが消えた。
エイミーが関わっているであろうと疑うたびに私の機嫌は悪くなり、それを主張するとだんだんと彼との仲も悪くなってくる。エイミーはニヤニヤしている。
とうとう私は家を出た。
密かに新しい家を契約し、3年付き合った彼を捨てて、チワワ2匹と新しい家にさっさと引っ越した。彼があの胡散臭い女を”友達”だと信用し、こんなに物が失くなっているのに平気な顔をしているのが我慢ならなかった。私の中では彼女は盗人であり、それを見破れない彼もバカヤローだったので、未練はなかった。
カップやピアスやチーズが失くなる代わりに私が家から消えたわけだ。エイミーは私たちのあったかもしれない未来も盗んでしまった。
何年か後に彼と再会した時に、彼はたいそう反省した様子で ”あの時はエイミーの肩ばかり持って悪かった” と謝った。
よくよく聞くと、エイミーと一度だけ酔った勢いと一人になった寂しさでセックスしたらしい・・・それっきりで、その後は友達としても距離を置いたが、しばらくたつとストーカーのように ”妊娠したので結婚してくれ” とエコー写真を持って何度も家に来た。計算もあわずおかしいんじゃないか、とその写真を手に取ると全く違う女性の名前がプリントしてあり、問い詰めるとエイミーは逆ギレして
”子供がいる友人のアルバムから借りて来た” と泣き崩れたらしい。
それを聞き、怒って追い出したが、なんと彼女はその友人の家に黙って忍び込み、アルバムから写真を”借りた”ことが後で発覚した。というのも、友人が空き巣に入られたと通報し、盗まれた貴金属やバッグなどがエイミーの家から出て来たため、彼女は逮捕されたからだ。この友人も私と同じように本能か女の勘かわからないがエイミーが怪しいと常々思っていたのだろう。
盗人エイミー、つい最近フェイスブックで見つけた。歳をとり白髪に歯が一本なくギスギスに痩せていた。いまだに胡散臭い風貌を確認して、なぜかホッとした。
シマフィー