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選ばれない私

アメリカの大学院で燃え尽きて、中国へ渡り英語教師をしていた私(昔のお話です)。*現在はアメリカ在住です。

中国へ行った当初の話はここ↓

私は勤務先の大学から毎月のお給料とビザを貰っていたが授業は1週間に三日しかなく、残りの時間を埋めるため(と稼ぐため)にアルバイトをしていた。

教師の資格と経験のある私は、語学学校や移民斡旋の会社、お金持ちの奥さんやお子さんの家庭教師、外資系ホテルのワークショップや羽振りがいい会社の専属トレーナーなど、中国語が出来るのもあり、割と引く手数多でアルバイトには困らなかった。

そんな中、同僚教授が大学の隣にある附属中学で英会話の”外教(ワイジャオ、外国人教師)"を探しているから面接に行ったら?と教えてくれた。週2−3回の授業だし、歩いて3分くらいの学校なのでちょっとくらい時給が低くても構わないな、と思い出向いてみた。

面接の場には私を含めて3人の外教が来ていた。そのうちの一人はバイト先の語学学校で一緒だったサミュエルだった。もう一人は白人女性だが Helloと言ったっきりあまり話さない。

現場では10分ほどのデモレッスンをして質疑応答し、その場で結果を出すということだった。中学校の校長先生と英語の先生が4人、そして学習指導の先生が1人の計6人が相手だった。もちろん全員中国人で、そのアクセントから現地の人だとわかる。

1人づつ教室内に消えるので残った2人はちょっとおしゃべりが出来る。サミュエルはボストンから来た大学生で、留学生として2年中国に住んでいる。中国文学が専門なので中国語はペラペラだ。彼と話していると聡明で論理的で頭の回転が早いのがよくわかる。アルバイトをいくつか掛け持ちしないと生活が苦しい、と言っていた。

もう1人はロシアの人だった。旦那さんの留学についてきているアンナさんは、英語が流暢ではなかった。初歩的な文章や発音にも間違いがあり、おせっかいだがこの人に英語教師が出来るのかな、という印象だった。
教師の経験はないが中学生が相手なので大丈夫じゃないかな、と本人は気楽に構えていた。

この3人の中で私だけが英語を教える資格を持っており、教師としてのキャリアがある。ただ私はネイティブではなく、ネイティブ信仰が強かった現地では”ネイティブでもアジア人はいらん”とか”中国人に見えるから”との理由で仕事をもらえなかったことが過去にあった。

3人のデモと質疑応答が終わり、面接員たちは教室の中でやいのやいのと議論を交わしているのが聞こえる。3人とも外国人だから中国語はわからないだろうと思っていたのだろう、大きな声で話している。そしてそれを聞きながら私とサミュエルは顔を見合わせた。

黒人は父兄から苦情が出る、日本人はどんなにいい教師でも受け入れられない、黒人は何か問題を起こす確率が高い、日本人は信用できない、黒人には高い給料は出したくない、日本人が生徒に何かよからぬ入れ知恵をするかもしれない

そんな感じの差別発言のオンパレードだった。

サミュエルは少し笑って 僕にとってはいつものことだ、と言ったが何度聞いても理不尽で腹立たしい根拠もない暴言には傷つくだろう。
私だって またか とも思ったがやっぱり腹が立つ。
アンナさんは中国語がわからないので涼しい顔をしている。多分私とサミュエルが話していた英語も聞き取れていないんだろうと思っていた。彼女のせいではないが何も分かっていない彼女にも腹が立つ。

教室内の声はまだ続いている。誰かが出てくる前に私とサミュエルは同時に立ち上がり、出口に向かって歩き始めた。お互い無言だったが感じていることは同じだった。

どんなに努力しても、スキルがあっても、賢くても、ナイスでも、自分ではどうにもならない世界に生きている。他人の勝手なイメージに苦しんで悩み、我慢したり諦めたりすることもある。この仕事は”いらない仕事”だったけれど、本気の就職活動や結婚相手の家族を訪問やら昇給などの時にこんな思いをしないとも限らないし、する可能性は十分高い。

後ろから誰かが 結果を言いますよーーーー聞かないんですかーーー と叫んだが私たちは振り返らずにそのまま出て行った。


シマフィー 

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