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チャーターしたボートにおばちゃん2人付いてきた

ちょっと離れた島までボートをチャーターし、潜りながら行こう、と決めたのは出発の前々日だった。
この島から目的地の島までは止まらず行けば3時間で辿り着く道のりだけど、その途中には素晴らしいダイビングポイントがあるので、ぜひ2−3ヶ所潜りながら進みたい。
ライセンスを取るときにお世話になったダイブマスターにそう相談すると、

オーケーじゃあボートキャプテンに連絡して、お昼ごはんを適当に用意しておくよ

と快諾してくれた。費用は全部ひっくるめて200か300ドルくらいだったと思う。

フィリピンの学校で働いていた私の元に休暇を取って会いにきてくれたボーイフレンドだった今の夫と二人で、人里離れた小島の小さなダイビングショップを目指して小さなボートをチャーターした。
私が滞在していたところも海は綺麗だったが、観光客も多く地元民も特に環境保護には興味がなさそうなところだったので、ダイビング自体はまあまあだったから遠くの綺麗な島まで行ってみたかったのだ。

当日待ち合わせた桟橋に着くと小さなダイブポートが停まっており、ダイブマスターが大きく手を振って迎えてくれた。

ボートキャプテンに挨拶をして乗り込むと、舟先にちょこんと二人おばさん、いやおばあちゃんか、が座っている。誰だか知らないけれど、向こうの島に用事がある人かもしれないな、とあまり気にしなかった。相乗りはジープニーでもタクシーでもよくあるから、ボートキャプテンがついでに乗せていくのかな、と思っていた。
ニコニコと手を振る彼女たちに英語で挨拶すると、ニコニコで返されたので会話ができぬままに出発となり真相はわからない。

出発して1時間、一つ目のポイントにつき、私たち二人とダイブマスターは海に沈んだ。

海底で1時間遊び、ボートに上がったとき、目に入ったのは煙だった。
舟先から煙がもくもくと上がっている。

おばちゃんたちが小さなボートをくるくると動き何か慌ただしい様子だ。

タンクを置き、ギアを外してよく見ると、彼女たちは食事の用意をしていた。

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ボートのチャーターをお願いしたときに“お昼の用意をする”とダイブマスターは言っていた。だけど、まさか、おばちゃん二人のコックを連れてきて船上でお昼ご飯を作るとは思ってもいなかった。

みるみる間に竹のザルに入れられた料理が並び、おばちゃん二人が両手を突き出して

食べなさい、と言ってくれた。多分そう言った。私にはわからない言葉だったけど。

とても素敵な昼食だった。串に刺した豚肉、イカ、エビなどのバーベキューに、地元で食べられるもち米のおにぎり。そして新鮮な果物。

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私たち二人には量が多すぎるので、てっきりみんなで食べると思っていたらそうではなく、残りの4人は弁当箱にご飯を持参していた。
串に刺したおかずはなく、私たちが潜っている間におばちゃんが釣った小さな魚を丸焼きにしたのを4人で分けていた。

私たちはこっちで一緒に食べよう!と必死に誘ったけれども、いやいや、と手を振り“食べなさい、食べなさい”と言われるばかりで、誰も頑なに食べようとしなかった。

どうしても余ってしまうので、ダイブマスターに “これは余ったらおばちゃんたちも食べる?”と聞くと、みんなで美味しく食べるよ、と言われたので安心して残した。
残り物を食べさせるのは心苦しいな、と思ってはいたが彼女たちは客のものは手をつけない、と必死に抵抗したプロだったので、美味しく食べられる分を笑顔でいただいた。

食べている間に船は進み、次のポイントで潜る。そして1時間後に戻るとおばちゃんたちは残ったバナナやパイナップルを食べ終え昼寝していた。
私たちにはクーラーボックスで冷えたココナッツのジュースと自宅で揚げてきたらしいゴツゴツしたドーナッツが用意してあった。

私と彼にとっては知り合ってこれが初めての二人きりでの旅行だった。
その第一日目は美味しいご飯とおやつの記憶しかない。
海中で何をみたのか、どんな地形だったのか、透明度は良かったのか、二人とも何も覚えていない。

これが最初で最後の“ボートをチャーターする”という贅沢旅行だった。
頼んでないのにかわいいおばちゃん二人と美味しいご飯がついてきた、最高の贅沢だった。

シマフィー

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