30代後半で初めて海外へ行く⑦(Day2:ニューデリー)
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さて時刻は12時過ぎ、昼食の時間も近いが、その前に買い物をすることに。訪れたのはMittal Tea House。お茶とスパイスを主に扱っているお店である。
店自体はそんなに広くないが、店員が4人くらいいる。日本の感覚だと店番が1人いれば十分な気もするので、中級から高級店といったイメージである。お茶とスパイスが所狭しと並んでいる。
量り売りというよりはパッケージされたものがほとんどで、お茶の種類も多いので選ぶ基準が全く分からない。その中にDragonBallと書かれているお茶がある。ドラゴンボールって語源あったのかー、と思いこれはどんなお茶なのかと聞いてみると、球状に固められた茶葉をカップに入れて、それにお湯を注ぐとそのボールが開いてお茶を淹れることができるものとのこと。なるほど。竜の卵というイメージそのままなのね、と妙に納得して、結果買わず。今考えると買えばよかったなと思いもするが仕方がない。
インドでお茶と言えばやはり紅茶やチャイなのかなと思って店内を見て回ると、割とGreenTeaという表示も結構ある。お茶文化といってもいろいろなんだなと思うと個人的に好きなJasmine Teaもたくさん置いてある。これは、と思い2箱購入。ただ同じジャスミンティーでもいろんな種類があり、聞いてもよくわからない。昔からショッピングは苦手である。
そしてスパイスコーナーへ。昨年友人が津和野を訪ねて来てくれた時にお土産としてもらったカレー粉もここで買ったものとのこと。確かに同じ容器に入っている。その中でもスパイス12点セットという魅力的な商品を発見。友人が欲しいなぁと言っているのを聞いていると自分も欲しくなってきたのでそのまま購入。一人暮らしの人間がスパイスを手に入れると底なし沼にハマるという言説があるが、今のところそうはなっていない。さしあたり沼の岸に腰掛けて緑色に濁った水面をぼんやり眺めているくらいの状態であろう。ということで初日からまぁまぁのお土産を買うことになった。自分用のお土産なんてほとんど買わない自分にとってはレアな出来事である。
何だかんだで12時30分頃にもなり、友人が昼食の場所を2か所提案してくれたが、その中でも面白そうな方を選ぶ。私の基準は基本的に面白いかどうか、知的好奇心が満たされるかどうかである。おいしいか、清潔か、とかは二の次三の次である。こればっかりはどこへ行こうが海外へ行こうが変わらない。
ということで昼食を食べにニューデリー中心部へ向かう。途中でインド門の脇を通る。
インド門はニューデリーでのメジャー観光スポットの1つで、よく知らなかったが後で調べると、戦争により命を落とした兵士たちの慰霊碑とのこと。フランスの凱旋門とは作られた経緯は違うようだ。
そしてそのインド門をくぐるように東西に大きな通りが作られていて、車両進入禁止となっている。何となく横浜の大通り公園を思い出したが、むしろ札幌の大通公園のイメージかもしれない。ただ規模はそれとは比べ物にならないくらい大きいが。インド門自体は近くで見るほどでもないかな…というところで通過だけしてレストランへと向かう。ただこの後も何度かこの通りを通ってインド門を目撃することにはなる。
とここまでニューデリー市内を車で1時間近くは移動しているため、車窓から外を見ていると道路事情についてもいろいろ分かってくる。
まずハノイでも覚悟したことではあるが、とにかく車線という概念がほとんどない。交通量が少ないところはそうでもないが、交通量の多い道路になると車幅ギチギチに何台も詰めてくる。
そしてクラクションも鳴りまくる。なぜ鳴らしているのかはよくわからない。
そして日本車も多い。日本の自動車産業の最盛期に思いを馳せてしまう。
そしてトゥクトゥクも多い。聞くとトゥクトゥクは原資0円で始められる商売になっているが、いわゆる貧困ビジネスの類であり、毎日返済ノルマがあってしかも高金利とのこと。自転車操業状態で働かざるを得ないような仕組みになっているようだ。ただこれだけの猛暑であれば徒歩移動したくないからトゥクトゥクに乗りたいという需要もありはするんだろうなとは思う。運転さえできればできる仕事というところかもしれないが、こんな車がギチギチに詰めてくる中で運転する仕事が簡単な仕事とは思えない。ストレスは相当なものだろうと思う。ちなみにインドには車検という概念がないらしく、ある意味いつ壊れてもおかしくない車が走っている可能性がある。実際に路上で立ち往生している車をデリー滞在中に何度か見かけた。
また交通事故に関しても頻繁に起きてはいるが、インドのルール上、過失割合とかでなくお金を持っている方が損害を負担する、と言うことになっているらしい。となると貧しい人ほど無茶な運転をすることから得られるメリットが大きくなりそうである。金を持っている人は保険で自衛しろということなのだろう。一応専門分野ではあるのでそのうちリサーチしてみようと思うが、損害賠償のベースの考え方があってそれを修正しているのか、ベースの考え方がそもそも異なるのか、興味は尽きないところである。
さらにインドの大きな特徴としては、ラウンドアバウト交差点が多いことである。ニューデリー市内でもいわゆる信号機のある交差点は少なく、ラウンドアバウトだらけである。ただ友人によると、こんだけ交通量多いのにラウンドアバウト交差点を導入するのは疑問とのことで、確かに国交省の資料を見てみても、日本でラウンドアバウト交差点を導入するのは1日の交通量が1万台未満というのは1つの基準になっているらしい。
それ以上になると信号機の交差点の方が待ち時間を減らせるとのこと。待ち時間を減らすことはアイドリングの時間を減らすことにつながり環境負荷が減るとのことだろうが、たしかに車が多いとラウンドアバウト交差点でスタック気味になることもままあったため、信号機の導入の方が良いのかもという気になった。他方で、ラウンドアバウト交差点の真ん中の円形部分にモニュメントを作ったり木を植えたりしていて、景観としてはなかなか面白いものがあるなと思った。
ちなみに津和野から一番近いラウンドアバウト交差点はおそらく徳山駅前で、その次は大田朝山ICのところだと思うが、次に通るときはなんとなく気になってしまいそうである。
そんなこんなでラウンドアバウト交差点の外周に停車して車を降り、お昼ごはんを食べに向かう。人通りの多く砂ぼこりの立つ狭い通路を進んでいくとAndhra Pradesh Bhavanというレストラン、というか食堂が見えてくる。
この食堂は、ハイデラバード等の都市を抱える、インド南東部のアンドラプラデシュ州の政府機関が並ぶエリアにあり、アンドラプラデシュ州の料理が食べられる大衆食堂である。日本の霞が関・農水省にある各地の料理が食べられる食堂みたいなものである。大衆食堂ということもあり、かなりゴミゴミしている。
建物に入ると受付兼レジがあり、店内を見回すと狭いスペースに6人掛けや4人掛けくらいの机が並ぶ、数十人が座れるような作りであり、お昼時とのことでほぼ満席に近い状態であるが、店内の奥の方のテーブルに案内される。どうも日本人が2人で来るようなことは珍しいらしく、店の人は少し気を使ってくれているようだ、との友人談。
この店は一言でいうと、わんこそば方式のカレー屋である。
席に着くとアルミ製のお盆のような食器が配られる。それは平らなプレート状の部分と、それを囲むようにカレーが注げるくぼみが6個ついた、ホテルの朝食ビュッフェで使われるようなお皿のさらに底が深いタイプの形式の器である。そのうち左側にある2つのくぼみにはヨーグルトと謎の甘いペーストがすでに盛られている。
しばらくするとカレーを持った店員がやってきて、4種類のカレーをくぼみに注いでくれる。すると次の店員がやってきて、チャパティのようなものとライスをプレート部分に盛ってくれる。ここからがゲームの始まりである。
カレーは普通においしいし、4種類の一つである、キャベツをスパイスで炒めたようなものは普通におかずとしておいしい。おまけに南東部の特徴のある酸味のあるスープ、名前はたしかサンバルと呼ばれていて、日本でいう味噌汁的な扱いらしい。本場のカレーを食べられる喜びとともに順調に食べていきライスがなくなると、それを見かけた店員がライスを盛ってくれるし、カレー係に見つかるとカレーが勝手に注がれていく。常時数人の店員が常にウロウロしていて、ライス係カレー係スープ係が店内を見回している。日本のわんこそばは未経験なのではあるが、このように贅沢にカレーを食べられるのはさすがインドといった感じである。
周りを見渡すと、カレーをくぼみから手ですくってライスのあるプレート部分に移して、そのままライスとカレーを混ぜて口へと運んでいる。カレーとライスを混ぜる際の、手を少し丸め指先を伸ばして動かし、それをつまみ上げる動きに様式美を感じた。ちょうどモノづくりに使われる道具とそれを使う身体の動きに美しさを感じるように、実用的な動きに対して感じる美意識というものを指先の動きに感じることができた。他人がメシ食ってる様子をマジマジと観察している自分の醜さも感じるところである。
スプーンがあったのでスプーンで食べていたが、自分も手で食べられるか試してみようと思ってチャレンジしてみたが、どうもうまく食べられない。上手に食べられない分味への集中力も落ちて美味しさもスケールダウンしている気がした。慣れと修行が必要なのかもしれない。
このわんこそば形式で食事を進めていると、いったい自分が今どれくらい食べたのかが麻痺してくる。自分の満腹具合がわからなくなるのである。そしてチャパティ係がサボっているのか、焼けるのに時間がかかるせいか、チャパティがほとんど回ってこない。そのため主食はほぼライスだけで終わってしまった。
おそらく30分くらい食べたところでまぁまぁおなかが膨れてきたので食事を終わらせようかなと思って少し思考停止しているとその虚を衝いてカレーが注がれてしまう。食事を終えるのにも強い意志が必要なのである。
ちなみにレストランで出される水は日本人の胃腸にはダメなのでボトル入りの水を買って飲む。インド滞在中はこれを貫かなければストマックエイクの無慈悲な犠牲者になってしまうのである。日本で生活している人とインドで生活している人の消化器系のどこに差異があるのか、腸内細菌的なものの違いなのか、調べてみたくなる。
満腹に達したのでカレー係とチャパティ係とナン係の攻撃を防ぎながらデザートをいただく。ヨーグルトはまぁ想像の範囲内だったが、甘いペーストは何を食べているのかよくわからない。食べた感じだと小麦粉を油で炒めたものに砂糖をドカドカ投入し、刻んだナッツと混ぜ合わせた、という感じだろうか。日本でいうとあんこみたいな感じではあるが、あんこだけをドカッと盛られたものを食べろというのも無粋というかなんというか、人によっては胸焼けするだろうなという感じである。ちなみに友人はそのデザートに手を付けていなかった。インド3年目になると取捨選択ができるようになるのだろう。昼食は切り上げてまた移動する。
昼食を終えて、ドライバーさんの休憩時間確保を兼ねて、これ以降のスケジュールの検討と友人の仕事の連絡をするためSTARBUCKSに入店しコーヒータイム。
津和野に住んでいる人間からしても山口市内にスタバがあるため、スタバはそんなにレアキャラというイメージはない。ちなみにデリー市内では日本に出店しているようなファーストフードやカフェ、レストランのチェーン店をたくさん見かけた。普通の日本からの旅行者なら、普段利用しているお店に海外来てまでわざわざ行かなくていいや、という感覚だろうが、日本の田舎に住んでいる人間からすると、チェーン店を生活圏内で見かける機会がないため、あぁ日本にいると食べる機会のないサブウェイ久々食べたいなぁ、とかいう訳の分からない感想を持ってしまうのである。同じ現象が空港でも発生し、デリー空港でもシンガポール空港でも、あぁバーガーキングがある、久々食いてぇみたいな気持ちになってしまった。日本の田舎に住んでいるとこんなところで海外の都市の魅力を感じてしまうことになるのである。ちなみに今住んでいる家から最寄りのバーガーキングまで車で2時間30分の距離である。まだまだ恵まれている方ではあるのは百も承知だが。
スタバの飲み物に入っている氷ではおなかを壊すことはどうやらないとのこと。外の気温が40度を超えている中で冷房の効いている店内は非常に過ごしやすい。他方、スタバはやはりインドでの感覚だと中級から高級に属する店で、そんなに手軽に地元の人が来るような場所じゃなさそうだ。大学・大学院の頃に高すぎるという理由でチェーンのカフェには片手で収まるくらいの回数しか行ったことがなかったなぁと思うと、だいぶ贅沢な暮らしをしているような気がしてくる。そして初海外旅行ということもあり海外での金銭感覚には為替レートと相まってなかなか慣れないところである。
小一時間スタバでのんびり過ごしたこの後は、何ヶ所かマーケットを覗いてみようということになった。
続きはまた次回。