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30代後半で初めて海外へ行く④(Day1:福岡→ハノイ→ニューデリー)

※前回の記事はこちら

 ハノイ駅からホーチミン廟まで2キロ弱と表示されていたため、「歩いて行ったれ」の精神でサンダルで歩くことに。気温は39度。さっきまで体調悪いとか言っていた人間の所業ではないが、私の魂が歩きたいと言っているのであるからしょうがない。歩いていると小さなお店がたくさん並んでいる。多種多様な店がありポップなものもあれば歩道まで机椅子を出して営業している店もありさまざまである。時々漢字が書いてあったりして日本と同じく言語的には中華圏なのだなと実感できてそれがまた面白い。

首都の中心駅のすぐ横とは思えない

 しばらくすると信号にぶち当たる。歩行者信号だが色覚特性持ちには見分けづらい人型に配置されたLED信号である。シルエットでこっちが青信号かなと思って、2,3秒目を離したらすぐ赤になってしまう。これはよく観察しなければ、と思って車やバイクの動きにも注目すると横断の仕方が分かってくる。
 結論としてはあまり信号を信用してはいけない。信号が青でも渡れないし信号が赤でもみんな平気で渡っていく。要はぶつからないように歩けるか、それだけが重要なのだということが分かってきた。機械的なルールとその外縁にあるソフトロー的なルールで社会は回っているということを思い知らされる。
 そうこうしていると線路を横断する。踏切も何もないし、線路の上を通路代わりに歩いている人がいる。しかもハノイ駅のすぐ横の線路なのに単線だし線路のすぐ横に道路が並行して走っている。日本基準で考えると思いもがけない景色だなぁと楽しくなる。

線路のど真ん中を歩いている、列車は見かけず。

 そのままずんずん歩いていくとさすがに暑すぎるやろ、となってくる。でも歩きたいので歩く。歩いているとホーチミンの肖像があちこちに出てくるし、ディエンビエンフーというフレーズもいろんなところに書いてある。ベトナムの人にとってホーチミンとディエンビエンフーというのは国の基礎なのだろうということを実感させられる。ちなみに後で調べるとディエンビエンフーの戦いからちょうど70周年で記念式典等が行われたばかりらしい。だからかと納得させられる。

 そして15分ほど歩くとホーチミン廟が見えてくる。どうも隣が国会議事堂らしいが、そんな風にはあまり見えないくらいバイクが走り回っている。

広々

 何の下調べもなく廟に入ろうとメジャーじゃない入口から入ることに。説明版を見ると手荷物検査をします、やら、肌の露出が多い服を着るな、とか英語で書いてある。

看板。右奥が入り口。

 宗教施設だということがよくわかる。入口の小屋に入ると「荷物を置け」「そのポケットに入ってるスマホはカバンに入れろ」と兵士と思しき人に英語で強めに言われる。ゲートを通るとブザーが鳴ってしまったが、全身調べてOKということで進む。これサンダルに凶器仕込めるよね、と思ったがそんなことはどうでもいい。
 ホーチミン廟は手前に広大な広場があり、その裏が資料館やホーチミンの住んでいた家等がある。復元・移設したものかもしれないがよくわからない。入場料40000ドンを払って入る。ただ時間もそんなにないので特に説明も流し見する程度で歩く。高くそびえたつ木に囲まれたエリアは日陰で多少涼しさを感じる。本当に多少だが。
 途中韓国人の団体、フランス人の団体、日本人の団体、どこかの大学生の団体などいろんな団体に遭遇する。そしてホーチミンが昔乗ってた車やらホーチミンの食事を作っていた台所やらホーチミンが本読んでた小屋だとかが並んでいる。その人の実績というよりはその人のすべてが崇敬の対象になっているんだろうなということがよくわかる。

ホーチミンがかつて住んでた部屋とかだったと思う

 ただいかんせん暑いのであまり長居もせず退散。途中に露店が並んでいるが、あまり魅力的なものを見つけられずスルーする。

 歩いて駅へと戻る途中に大使館の多いエリアを通る。各国の大使館の門前には警察官が詰めている、そんなエリアを通るとカジノキのような葉っぱをした木が生えていて実が成っている。クワやコウゾの仲間なら食べられるかもなぁ、食べてみたいなぁと一瞬思うも、さすがに異国の木の実にパクつくのは行儀が悪いと思い諦める。通り沿いにはバイクが大量に止まっているが6割くらいはHONDAと書いてある。また道路を走る車もTOYOTAやらNISSANやらを見かける。ガソリン車はまだまだ日本車のシェアがあるんだなと思わされる。
 そのまま進んでいくも途中でさすがに暑すぎるのでチェーン店と思しHighlands coffeeという店に立ち寄る。

 クーラーがガンガン効いていてようやく一息入れられる。汗だくである。そしてやたら濃い味のカフェラテのようなものをもらって店を出て再び駅を目指す。この頃になると横断歩道の攻略はもうほぼ完璧である。何となく人々の運転のルールのようなものも見えてくる。駅に到着し水を買って再びバスに乗る。正味2時間ひたすら歩いただけだったが、雰囲気を感じられたのでとりあえず満足である。そして気持ちよく汗をかいたせいか頭痛と気怠さもかなり収まっている。荒療治とはこのことである。

 バスは16時にハノイ駅発。今度は運転席と反対側の右側の最前列に陣取る。景色が非常によく見える席である。

歓声を上げながら写真を撮りまくるインド人と思しきおじさま達

 そこからハノイ市内を行きかう車やバイクを見ていると、一見無秩序に動いている人たちも、「自転車で移動している感覚」だと考えたら納得できるなと思った。自転車だと小回りも効くし急ブレーキもできるし、当たっても大したことないからぐんぐん横から入ったり曲がったりできるかもしれない。中学の頃集団で自転車で無駄に加速したり蛇行したりして帰っていたことを思い出すと、あの感覚なんだろうなと思う。ここの道路を自分で運転したくはないけど。

バスの車窓から

 そして、車線を大幅にはみ出しながら気にせず走る車やバイク、途中の一車線に幅員減少した道路の脇をすり抜けるバイクと車線もないのに無理やり逆走してすれ違おうとするバイクを見ていると、長谷部憲法の「調整問題」のくだりを思い出した。

最新は第8版らしい。

 調整問題とは、選挙時の表現の自由の規制等については、道路を左側通行にするか右側通行にするかという問題のように、どちらかに決まっていなければ制度が動かないために決められる「調整問題」で、選挙時のルールもルールが決まってなければ選挙ができないのでその内容をとやかく言うべきではない、みたいな話で、それって説得力あんのかと今になっては思うけど、ハノイの道路を見ていると調整問題どころかこれじゃあ右側通行ということすら調整されていないではないか、とかいう勝手なことを考えてしまった。ルールをきっちり守ることで安心感を得るというのが当然の社会にいると気付きづらいが、その安心とか不安は、事象の起こる客観的な確率に、それぞれの人の持つバイアスに基づくある事象が発生するかもしれないという予測下の発生確率を合わせたものであるから、バイアスや国民性と呼ばれるものが異なればその数値も変わってくるのであって、自国基準だと危ないと思ってしまうものでも、その国の人にとっては危なくはないし、むしろそれでシステムが動いているのであればそれはそれで一つの答えなのだろうと、ベイズ統計の考え方を少し思い出した。ベイズ統計には全く詳しくないけど。

 しかし海外の道路バスで走っていて長谷部憲法とベイズ統計とカジノキがどうだ褐色森林土じゃないやとか余計なことを考えている旅行者は世界で自分だけかもしれない。暇な時間は余計な思考を生んで余計な文章を産み出してしまうのである。

 1時間ほどでノイバイ国際空港へと帰還。食事を取る暇がなかったのでとりあえず何か食べよう、その前に搭乗予定の19時40分発の便のタイムスケジュールだけ確認しようと空港のモニターを見ると22時50分発となっている。

22:50 New Delhi

 あれ何か勘違いしてる?と思ったが便名が同じであるため出発時刻が変更になっているらしい。そういえば福岡空港のチェックイン時にハノイ発デリー行きのチケットも発見してもらっていたが搭乗時間が22時台になっていた気がしてみてみると確かに22時台になっている。特にカウンターで遅れる予定とも何も聞かされていなかったこともあり、これは発券した日本の時刻で記載しているのだろうくらいに呑気に考えていたが、遅れることは朝から決まっていたようである。何だそれならもっとハノイでゆっくりできたなぁと思い、とりあえずデリーへ迎えに来てくれる友人に連絡をしなければと再びモニターを見るとこの一瞬の間にestimated departure timeが0時45分に変更となっている。

0:45 New  Delhi

 5時間遅れである。ただでさえ友人には現地の夜23時くらいにデリー空港まで迎えに来てもらおうとしていたのに、これで5時間遅れとなると現地の朝4時着やんけ…と思い友人に連絡し、朝ゆっくりめの7時合流に決定。デリーの空港で3時間仮眠するプランである。
 ということでフライトまでの7時間の暇つぶしタイムの開始である。下手したらもう一度ハノイ市街地まで遊びに行けるくらいの時間はあるが、いろいろとリスキーなので空港で時間をつぶすことに。
 ノイバイ空港の国際線ターミナルはそんなに店舗も多くなく、カフェとレストランが4,5軒あるくらいである。とりあえず心を落ち着かせるためにフォーを食べる。

フォー。

 唐辛子が辛いが美味い。フォーを食べたのはいつぶりだろうなどと考えながら完食したが、暇なのでシャトルバスで5分ほどの距離にある国内線ターミナルを覗きに行く。国内線ターミナルの方が広いは広いが、同じようなカフェとレストランが入っているのみで、時間をつぶせるかと言われると微妙であった。2,30分うろつくだけうろついて国際線ターミナルへ戻る。19時を過ぎているにもかかわらず、シャトルバスを外で待っていると汗が噴き出してくる。気温は35度を超えているらしい。これが南国か…と思いながらシャトルバスで国際線ターミナルに帰還。
 時間は持て余しているので椅子に掛けながらこの文章の続きを打ち始める。合計10000字を超えたあたりでダルくなってきて、出国手続きをして搭乗口近くで残りの3時間弱を過ごそうという作戦に変更する。ノイバイ国際空港は18時ころから急激に混み始める。昼間はそんなに人がいなかったのに夜になるに連れて人が増えてくる。通路やスペースがあるとみな地べた座り込んでいて、これもあまり日本では見ない光景だなぁとか思い始める。そして両替したドンが余っているため何に使おうかと思いふと見るとバーガーキングが目に入るが、わざわざここまで来てバーガーキングじゃなくてもよかろうと思って諦める。今住んでいる津和野から最寄りのバーガーキングまで車で2時間半かかるためめったにお目にかかれないバーガーキングは非常に魅力的で本当はワッパー食べたいけど我慢。
 手荷物検査では20分ほど並ぶ。ちらほら日本人を見かけるがほとんどがアジア系の人ばかりである。出国審査官はみんな死んだような顔をしながら通している。無事出国手続きが終わり搭乗ターミナルを歩く。
 ここにもお店はたくさんあるのだが、どこの料金表示もUSドル表示になっている。使い残したドンは使えないのだろうかと少し思ってしまうが、お客さんをよく観察してみるとみんな普通にドンを使っている。それぞれのお店が決めたレートでドン換算して売っているようだ。国際線ってそんなシステムなのね、と新たな発見ができて楽しい。海外に行き慣れている人には当たり前なのかもしれないが、こういう小さいところに面白みを感じられるのはこの歳で初めて海外に来た人間ならではの感覚のように思う。
 ここからも長丁場になるので水分を多めに買い、余ったドンで夜食をと思いウロウロするもそんなに食べたいものがなく、結果2杯目のフォーにありつくことに。こちらの方が味が濃くて豆板醤やにんにく酢、パクチーがありバラエティに富んだ味だった。写真は撮っていない。しかし現地時間23時、日本時間だと午前1時にフォーを食べるのは体に良いのだろうかとか考えてしまう。
 先ほど買った、ウーロン茶に大量に砂糖をぶち込んだ謎ドリンクとスプライトを消費し、残るエビアンとともに出発を待つ。眠気と疲労でもう目が開かなくなってきている。0時20分頃にようやく搭乗開始。9列シートの座席は見たところほぼ満席で、おそらく9割以上がインド人である。そして自分の座席には女性が座っている。チケットを見せてよけてもらい着席。ここから4時間ちょっとのフライト、しっかり寝てやろうと思い、マスクをしてひたすら寝る。インド人たちは搭乗までにぎやかであちらこちらで大きな話し声がしていて、夜なのに元気やなぁと思っていたが離陸すると大人しくなった。狭苦しい座席で足を動かしながらエコノミークラス症候群に気を付けながら眠ることに。そんなバタバタの初日がようやく終了した。

Day2につづく。

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