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30代後半で初めて海外へ行く③(Day1:福岡→ハノイ→ニューデリー)

※前回の記事はこちら

 前回書いたような余計なことを考えながら飛行機に乗る。今回は福岡からハノイへ4時間飛び、その後デリー行きへと乗り換えてまた4時間飛ぶ予定である。最初の飛行機の席は窓際が取れてラッキーではあるが、LCCだからか搭乗後の機内で離陸まで数十分待たされるのはなかなかの難儀である。
 その間に座席の前に挟んである雑誌を覗く。9割ベトナム語なので意味はよく分からない。1割は英語なので読めはするが内容的に大して食指が動かない。日本国内の観光スポットを紹介するもので厳島神社や広島について英語で書かれてあったが読むのをやめてしまった。
 今回乗ったVietjet社の広告ページを見るとファーストクラスと思しき広告ページがあり、そこにはビジネスマン風の男がスーツ姿でラップトップに向かい作業をしている隣で、薄着の女性が横になってうつろ気な表情をしている写真が載っている。この会社の考えるアッパークラスのステレオタイプはこのようなものなんだな、と理解する。日本のステレオタイプも似たようなものかもしれないが。

 そんなことをしていてようやく福岡空港から離陸すると、飛行機は佐賀県、長崎県を通って東シナ海へと抜けていく。長崎の島々がやがて見えなくなると窓から目を離し一息つく。少しだけ本を読んでみるも、連日の疲れとこの2年くらいでゲットした偏頭痛特性のために気圧が下がると頭痛がひどくなる。バファリンを投入して一眠りするが、1時間ほど経ってふと目が覚めると、得体の知れない不快感と頭痛と身体の火照りを感じて、冷房の効いた機内でも少し汗ばんでくる。明らかに体調不良である。
 こんな状態であと2時間狭い座席で体が持つんだろうか…と不安になるが、そのまま我慢して20分くらい仮眠をして目覚めると汗も引いて少し頭もすっきりしている。体調は良くないようだが、体調は旅をしながら良くしていく、それも旅のスキルだと思い自分の精神力を奮い立たせる。
 その後も1時間ほど眠り、目覚めるとだいぶハノイに近づいてきている気配がする。窓から外を覗くと、雲の合間から時折田畑が広がっていてそのところどころに家が見えてくる。おそらく中国の上陸であるが、やはり雰囲気は日本国内で飛行機に乗った時とは異なる。
 その中でも大きく異なるのは川の色と流れ方である。川はどれも赤土みたいな色で濁っているし、蛇行して流れていて地理の資料集でしか見たことない三日月湖が見えている。島国と大陸の違いはこんなところにもあるんだなぁという感慨に耽る。

川が蛇行している。素晴らしい。

 しばらくするとハノイが近づいてきて高度がぐんぐん下がっていく。やはり田んぼは多いものの、日本のように水田が整然と並んでいるわけではなく、歪な形の水田が組み合わさった結果ほんのり緑の大地が広がっている。同じ稲作文化でも国が違えば育て方も違うんだなぁなど思っていると険しい山地が出てくる。それを横切ると走っているバイクの姿もはっきり見えるようになり、家の形の特徴も見えてくる。四角くて窓が多い家が多いなぁと思いながら着陸。ハノイにあるノイバイ国際空港に到着である。
 滑走路を走りターミナルの外れに停まると機体の前後にタラップ車が設置され、それを伝って降りていく。タラップはトンネル状になっていたが、下っていくとむせかえるような熱気が駆け上がってくる。これが東南アジアの夏か…と思いながら最後の1段を下り、人生初の海外への接地を果たす。気温38℃。暑さのせいで感慨もあまりないままバスへと乗り込む。
 バスは空港内を走っていくが、空港内でもバスは他の車や人と相当距離が接近していても気にせずハンドルを切っていく様を見て、人も車も整然と動く羽田空港なんかとは少し様子が違うなぁと思わされる。ターミナルビルに到着するとアジアン料理の香りがフワッとして来て、おおっ海外に来てしまったなと感じる。
 エスカレーターに乗るとみな左一列に並んで乗っていて、日本から来たの丸わかりだなぁ、しかも関西じゃないなぁとか思いながら進んでいく。途中トイレに寄るとTOTO製の便器で、説明書きは日本語である。メイドイン福岡の影響力は伊達じゃないが、日本語でいいのかと思ってしまう。

 そして入国審査である。なるほどこれが出入国管理法が執行されている入国審査の様子かあ、と実物を初めて見た感慨に耽ると同時に、中川家の礼二がよくやる入国審査官のモノマネを思い出して少し笑いそうになる。

 ベトナムではトランジットの時間があまりないと直前まで勘違いしていたが、よくよく見ると8時間弱あるため、これなら出国してハノイをウロウロできるなと思いながら、入国審査を受ける。ベトナムへの入国はビザが不要である。入国審査は色々聞かれるのかなと思いきや何も聞かれず顔だけ確認されてスタンプを押して終了で、あ、ビザがないとこんなもんなのね、と思い無事出国。人生初海外はインドになると思っていたがベトナムになってしまった。結構レアケースのような気がする。あとは税関で機械に手荷物を通して終了。空港ビルの到着ロビーへと解き放たれる。

 まずデリー便のフライト情報を見ようと空港内を探すも、出発時間が遅すぎてフライト情報が見られない。後から振り返るとこの時点で確かめておいた方が良かったのであるが、それはそれとして、少し外に出てみる。
 暑い。
 晴れ時々曇りといった天気であるが日本の夏で一番暑い日くらいの感覚である。38℃、だいたい津和野の年最高気温くらいである。そして「タクシー!タクシー!」とめちゃくちゃ声を掛けられる。無視して歩いても1分くらいついてくる。なるほどこれがベトナムのタクシーに気を付けろという意味なのか、と理解する。
 ざっと道路を見渡してもバス乗り場がどこかがよくわからない。とりあえず後回しにして涼しい空港内に戻り、SIMカードを入れ替える。e-SIMでもよかったがe-SIMが何かトラブったら面倒だと思い、海外旅行用SIMカードを第1候補にし、それがダメだったらe-SIM、それもダメならケチりながらローミング、という三段構えにしていた。SIMの設定がよくわからず数分いろいろ試したところで設定が無事完了。これで後顧の憂いが1つなくなる。

 あとはベトナムの通貨ドンとの両替である。これについては空港の到着ロビーを歩いているとExchangeと書かれた店からの強烈な客引き合戦がずっと続いていたため、どっか静かなところはないのかと空港をウロウロするもどれかを選ばないといけないので儲かってなさそうな奥まった店舗を捕まえて5000円分交換。1円が160ドンくらいとのことで、80万ドンくらいもらう。ベトナムでのいろんな支払いは単位が大きくていまいちわからないことが多々あった。飲み物一本で1万の桁が出てくると頭が混乱する。慣れるまで時間がかかりそうだ。チアシード&パッションフルーツと書いてあるお茶を買ってみる。死ぬほど甘い。チアシードなんて言葉久々聞いたなぁと思う。
 そして空港を出てとりあえずハノイ市街地を目指すことにする。空港からハノイ市街地までは約30キロ離れている。萩石見空港から津和野までみたいなものである。45分ごとに出ているシャトルバスがあり、観光客にはわかりやすくおススメとあったのでそのバスを探して乗る。片道45000ドンである。高そうに見えてしまうが日本円でいうと300円弱だろう。後払いのためとりあえず乗車し5分ほど待っているとどこからかスタッフが現れてバスの乗客全員に、真後ろに停車している別のバスへ移動しろと急かされる。理由はわからない。そして移動後すぐ出発である。

 車内を見回すと席は6割くらいしか埋まっていない。空港から市街地への直通バス、45分おきに出ているバスが満席でもないということが意外だった。パッと見たところ半分くらいはインバウンド、半分は地元の人のように見える。首都と空港とのバスが満席にならないのは観光客が少ないのか、移動手段として不便な何かがあるのか、理由が気になるところである。席は運転手の真後ろの高い座席にした。東京に住んでたこと路線バスが好きでよく乗っていたが、その時も運転席の後ろが好きでよく乗っていた。ベトナムは右側通行左ハンドルのため左の最前列になるも、運転席と前はよく見えなかった。残念である。

何てことのない写真

 そして空港を出てすぐにバイパスに入るのであるが、運転手がとにかくクラクションを鳴らしまくる。他の車がそんなに鳴らしてないのにとにかく鳴らしまくる。どんな意味合いのクラクションなのか気になって前後を見回し、じっと観察してみたもののイマイチどんな理由でクラクションを鳴らしているかがわからない。そして運転中に平気でスマホを見るし、意味もなく車線変更を繰り返す。私には何もわからない。
 そんなことを考えてはいるものの、周りの車も車線変更しまくるし、車線の真ん中を通るし、バイクはウロウロしているし、原付に3人乗ってるし、片道5車線のバイパスで70キロ80キロで車が走っている中を平気で歩行者が横断してるし、すごい世界だなぁと思ってしまう。以前住んでいた、横浜市鶴見区の自宅近くにある、片側3車線の広い道路を含めた五差路のど真ん中を信号全無視で駆け抜けていった近所の100円ローソンの副店長の人外のスゴ技を思い出してしまった。日本では神業だと思っていたが、ハノイでは日常茶飯事のようである。あのサーファー風味の副店長はハノイで生活するのに向いているかもしれない。
 しばらくバイパスを走る間、ただただ車窓から景色を眺め続けていた。見たことない景色が次々と出てきて全く飽きない。一生見ていられるような気分になる。
 そんな中でも細かい点に注目するといろいろ見えてくる。やはり気になるのは植生。常緑広葉樹がほとんどで針葉樹はほぼ見かけない。広葉樹もマメ科と思しき羽状複葉の葉っぱの木が多く目に入ってくるのと、日本でいうとクリやシイとよく似た形の木が似たような黄緑色の葉を枝の先につけている。またマメ科の植物でもアカシアのような木の先に黄色い花がたくさん咲いていて、あの木の名前は何だろうとすごく気になる。後で調べようと思っていたが忘れてしまった。つる性の植物も日本では見かけないような花が咲いているし、一方で路肩や中央分離帯にはセイタカアワダチソウと思しき草も生えていて、特定外来種ハンパないなぁと思ってしまう。見たことのない草も生えている一方でヨメナやノボロギクに似ている草も生えていて、雑草を見ていても飽きない。
 
 そんなこんなでバナナのような木が河岸に生い茂る大きな川を渡ると高層ビルが見えてきて、市街地に近づいてきたことを実感する。そこを抜けて進んでいくと、途中バイパスのど真ん中を工事している箇所があり、バスの横幅ギリギリに作られた端の1車線をバスがぐんぐん進んでいく。スレスレで運転手も気を遣うだろうなぁと思っていると、平気でその横の数十センチメートルの隙間をバイクが追い越していく。ある種の様式美を感じる。
 そして工事中の道路の真ん中で掘り起こされた土を見ると赤っぽいのと白っぽいのが目立つ。日本のような褐色森林土ではないので、やはり南国だなぁ、アルカリ性の多い土なんだなぁと思わされる。栄養素が少ない分、根粒菌がついてそうなマメ科の植物が良く育つのだろうか、などと考えていると中心部に近づいてくる。バスは何ヶ所かで停車しながらぐんぐん進んでいき、中央分離帯に生えている木にハンモックを掛けて寝ているおじさんの横をすり抜け、バス停のあるエリアに差し掛かる。
 事前に得ていた情報のとおり、ドアが開いた途端に降りなければ「降りる人なし」と即判断しそのままのスピード感でバス停を一瞬で通り過ぎていく。どこで降りるかは決めていなかったため終点のハノイ駅で降りることにする。ハノイの中心地に近づくと一方通行も多く、こんなところ絶対運転できねぇと思ってしまう。途中突然カタカナで「スーパーマーケット」と書いている店があったり、店頭に扇風機だけ並べている扇風機屋さんと思しき店があったり、なぜかビリヤード屋がたくさんあったりと、都心に入っても車窓の景色は全く飽きさせない楽しさに溢れている。
 そのままハノイ駅に到着。駅前はどんなもんかと期待していくも、日本の駅前を想像すると少し違っていて、駅前はそんなに人がいないし、駅の中もそんなに人がいない。鉄道という移動手段があまり重要でないのかもしれないが、その辺りは見ての感想で実態はわからない。とりあえず降りてみて、観光スポットと思しきホーチミン廟を目指すことに。

ハノイ駅。暑い。

 次回に続く。次でDay1がようやく終わります。


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