ハンドスピナー
実家には21歳になる老猫「サスケくん」がいる。
私が10歳になった時から一緒に住むことになったので、
私の年齢マイナス10歳。
覚えやすい。
年寄りらしく、ボケてもきた。
食べ終わったと思ったら飯を催促するわ、訳もなく壁に向かって鳴き続けるわ。
母親も疲弊した時期もあり、積極的に実家に帰ったりもした。
季節の変わりめ、気温が下がる。ふと心配になり、母に連絡すると
ウルトラライトダウン的な猫用の服を着た写真が送られてきた。
似合ってた。着こなしていた。
この前、実家で就寝する時のこと
猫は前腕で私の布団をチラチラめくり、中に入りたがっていた。
こちらからめくってやり、招き入れた。
昔だったら布団の中でUターンを決め、枕側に頭を出し呼吸を確保していたが、今になってはそれすら忘れてしまうらしい。
様子を伺っていると、息苦しいのか鳴き始めてしまったので
私から頭を枕側に出すように身体を促した。
そうすると。彼が赤ちゃんだったころ私によくしていた
”ゴスロリ”を始めた。
(私の実家では猫が額を強く人間に押し付け、ゴスゴス擦る甘え方をそう呼んでいた)
懐かしさと確かにそこで生きている愛猫の存在に安心し、
ぐっすり眠れた。
ひとりで暮らす家に戻る。
いつも通り椅子に座り、いつも通り酒を注ぎ、うだうだしている。
ふと隅に目をやるとハンドスピナーがあった。
金属で作られていて、一般的なハンドスピナーより重め
モータルコンバットのロゴのような龍があしらわれたデザイン。
かなり修学旅行のお土産感がある。
確か立川のガストのガチャガチャで手に入れた。
理由は「なんかかっこよかった」から。
なんとなく回した。
そうすると、わたし以外に物質的エネルギーの働かない部屋に
ひとつの動力が生まれた。
安心した。なにかが回っているだけで、動力があるだけで、それでよかった。
ふと、その金色で龍があしらわれたハンドスピナーを回転させながら
膝の上に乗せてみた。
絶妙な重さと回転から生まれる振動
ごくわずかではあるが、あの”ゴスロリ”の感覚があった。
脳で研ぎ澄ませば、、あの布団の中の安心感がフラッシュバック出来なくもない。くらいの距離感ではあるが
目を瞑り、心で探り続ければその向こうで”ゴスロリ”に出会える。
くらいの感じ。
それ以来、私の酒のアテはもっぱら、ハンドスピナーになりました。今では自分の腹に乗せたり額に乗せたりバリエーションも楽しんでいます。