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特殊な性的嗜好との出会いの話

前回のnoteでも触れたように、高校を卒業するまで私は極度の人見知りだった。

しかしそんな私にも親友と呼べる女の子が数人いたのである。交友関係は狭く深く。私は本当に好きで仲良しでいてほしい子にだけデレデレして、あとは基本的に静かにしている(ツンとしていると思われたかもしれない)タイプの人間だった。

そんな親友のうちの1人に、まほちゃん(仮名)という女の子がいた。

まほちゃんは、クラスでいくつかに別れているグループのどこにも所属しておらず、でもどのグループの女子からも嫌われていなかった。優しくてハキハキして賢くて、スポーツ万能。誰かを仲間外れにするだとか、陰口を言うだとかいう女子特有の嫌な感じが全くしない。グループの枠を超越した存在で、誰からも一目置かれるような女の子だった。

私はそんなまほちゃんが大好きで、隙あらばくっついて話を聞いてもらったり、逆に聞き役になったりしていたと思う。まほちゃんは優しいけれど冷静で、偏った考えに対してはきちんと「それは違うと思う」と話してくれたし、まほちゃんのほかの人と少し違う発想を知るのが新鮮で、一緒にいるのがすごく楽しかったのをよく覚えている。

当時、例え仲の良い相手でも人と対面で向かい合って話すのが苦手だった私は、放課後にまほちゃんと初めてミスドに行ったとき「向かい合うと緊張するから横に座ってほしい」とお願いしたら、それ以降まほちゃんはいつも何も言わなくても横に座ってくれた。

「横がいいんでしょ?ねぇ、私しまちゃんの彼氏じゃないんですけどー!あはは。もー、可愛いなぁ。」とか言って照れたように笑いながら。

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そんな私たちも受験期を乗り越えて、希望していた大学に進学した。親もとを離れて、私は岡山、まほちゃんは京都へ。

初めての一人暮らし、大学での講義、サークル仲間で集まってスポーツをしたり、ときには男女グループで遠くにドライブしたり飲み会したりして、高校生の頃の生活とは全く違う日々が始まった。

そうこうしているうちに人生で初めて彼氏もできて、かなりの刺激を受けながらようやく大学生活に慣れてきた頃、大学生になってから最初の夏休み。

私はこのとき無性にまほちゃんに会いたくなり、私から連絡をとったように記憶している。

するとまほちゃんはとても喜んでくれて、「京都においでよ!泊めてあげるからさ、一緒にいろいろ話そうよー!」と嬉しい返事をくれた。


私は岡山のお土産に適当な菓子折りを駅で買って高速バスに乗り、待ち合わせの京都駅へ向かった。まほちゃんはボーダーのTシャツにジーンズ、みたいなラフな格好だったけど、もともと美人でスタイルが良いので逆に色っぽくて綺麗だった。私の姿を見つけてニコニコ笑って手を振っている。

私たちは数か月ぶりの再会を喜びながらコンビニでお酒やスナック菓子等を買い、まほちゃんが一人で暮らしているアパートへ向かった。

夏の京都は想像以上に暑かったが、まほちゃんは冷房をつけない派の人だったようで、部屋の真ん中にドーンと置かれた扇風機に2人で並んで風を受けて涼んだ。冷たいチューハイをカシュッと開ける音が響く。パーティ開きしたポテチをつまみに、私たちは自分たちの近況を夢中で話した。

まほちゃんは美術系の大学に進んでアートの勉強をしていて、スケッチブックいっぱいに描かれたカラフルなデザインを見せてくれたり、最近始めた高級ホテルでのパーティスタッフ(料理やお酒の給仕)のアルバイトの制服を見せてくれたりして、当時の私にはとても大人っぽく見えた。私はアルコールで熱くなった頬っぺたを手で冷やしながら、ほぉっと話に聞き入っていた。

あっという間にすっかり夜になり、順番にお風呂に入って、まほちゃんが予め用意してくれた布団に潜り込む。

電気を消したあともまだまだ話したいことはたくさんあって、2人とも目がギンギンに冴えて、おしゃべりは全然止まらない。

酔っぱらった女の子が2人で夜に布団のなかで話すことといえば、そう。恋バナだ。恋バナ。懐かしい響きだね(笑)

いつしかお互いの好きな男の子の話になり、大いに盛り上がった。

するとまほちゃんが打ち明けるようにぽつりぽつりと話し始めた。

まほちゃんの今付き合っている彼氏は同じ学部で講義を受けていて、留年しているので歳は1つ上。基本的に誰ともつるまず一人でいつも何かに没頭している感じの、少し変わった男の子らしい。

彼はいつも自由で、まほちゃんの家に来たいときにフラっと来て、帰りたいときに帰ってしまう。

ある日まほちゃんの家で一夜過ごし、朝2人で目覚めたときにすぐに彼が「カレーが食べたい」とつぶやいた。そのとき冷蔵庫にカレーの食材が足りなくて、まほちゃんは急いで近くのスーパーへ向かい、必要なものを買って帰ってきてみたら、なんと、部屋にはもう彼の姿はなかったというのだ。

「えぇ!?ひどっ…!食べたいって言っといて放置していなくなるとかありえん。そんな黒猫みたいに気まぐれな人おるん、、大変だね…」と驚く私に、まほちゃんは「本当ひどいよね?ね?…でもね、なんでか怒れなくてさ。惚れたもん負けかなー?」と困ったように笑っていた。

「でね、彼が、その、セックスのときも何か普通じゃなくて。なんていうか、、噛み癖があってさ。やめてって言ってるのに腕とか首とかいっぱい噛んできて、もう、歯形が残るくらい。普通に痛いんよ。」

そういってシャツをめくって見せてくれた腕には本当に人の歯形らしき赤い痕がいくつも残っていた。私は皮膚に人の歯形がついているのを生まれて初めて見た。

唖然としている私に、まほちゃんは追い打ちをかけるような驚きの事実を打ち明けた。

「こないだなんて、最中に急に私の首絞めてきて。どんどん頭が熱くなるのを感じて、しばらく息できなくて苦しくて、死ぬかと思ってちょっと本当に怖かった。」

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みなさんの周りにはそういった嗜好をもつ知り合いがいるだろうか?

私はその頃、そういう知識や嗜好が全く無くて、というか普通のセックスだって知ってるような知らないような感じだ。SMプレイとか首絞めセックスという概念も頭になかったから、もはやまほちゃんの体を噛みまくり首を絞めてくる彼氏は犯罪者一歩手前のヤバい奴としか思えなかった。どうして好きな人の体を傷つけるようなことをするのか。まほちゃんはその狂った彼氏にいつか殺されちゃうんじゃないかと本気で心配したのだった。


少し話が脱線するが、人は誰でも「S」か「M」に分かれるのだろうか?自分はどっちなんだろう、と誰でも一度は考えたことがあるのではないかと思う。

こないだお笑い芸人のキュウのぴろさんがGERAラジオで性癖の「S」と「M」について言及していたのがとても興味深かった。ぴろさんが思うに、「M」属性の人はとことん攻められたい生粋のMも居れば、ときにSっ気の出るMもいる。しかし、「S」属性の人は攻めることに快感を感じる性質なので、攻められるのは嫌がる、という違いがあるようだ。

その理論でいくと、攻められて少しでも興奮する人は「M」なのかもしれない。

ほかに新たな考えのある人がいたら教えてほしいな。

どうなんでしょう。

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そんなまほちゃんは、大学を卒業して1年後にあっさりと結婚した。

Facebookのタイムラインを何気なく眺めているときに、まほちゃんの夫となった男性を初めて目にする。そこに写っていたのは例のサディスティックな彼氏ではなく、眼鏡をかけた素朴な雰囲気の背の高い男性だった。優しそうな笑顔を浮かべてまほちゃんの隣に佇んでいる。結婚式の前撮りなのであろう、2人は着物を着て和風の傘をさし、嬉しそうにポーズをとっていた。

何よりもまず、まほちゃんが死なずに素敵な人と巡り合えてよかった。

そしてどうか、この男性が見た通りの真面目で優しい旦那様でありますように、とこっそり願った。

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