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兄とはほぼ絶縁状態①

うちのお兄ちゃんは優しい人間だ。

気持ちの浮き沈みが激しかったり、人との接し方が不器用だったりするが、心優しくて、根は真面目な人。だと、私は思う。

だからだろうか

とても繊細で傷つきやすくて、いつも生きづらそうで。

抱え込んだ鬱憤や苛立ち、人間関係の煩わしさを、一時的な快楽に身を委ねて誤魔化そうとするところがある。

たとえば深夜に長時間ゲームしたり、仕事帰りに暴飲暴食、たばこ。一時期はパチスロにもハマり通っていたと思う。よく分からない哲学書に傾倒していた時期もあった。

そのなかでも一番ひどかった… いや、深く救いを求めてしまったのが酒だ。

兄はいわゆるアルコール依存症。アル中だった。


アルコール、そして兄の結婚をきっかけに、家族関係は悪化するばかり。もはや引き返せないところまできてしまった。

今はもう、お互いにほとんど他人だと思って暮らしている。


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幼いころから兄はとても優しくて、私もよく懐いていた。お兄ちゃん大好きっ子だった。ブラコンともいえる。

私たち兄妹は3歳違い。同じ小学校に通っていたある日、クラスメイトにいじめられて私の上履きがなくなるという事件が起きた。

当時の私はなかなかの「現実逃避型」人間だったので、誰かが明確な悪意を持って自分の上履きをどこかに隠し、自分が困るのを見て喜んでいるだなんて思いもしなかったし、思いたくなかった。今となってはアホの振りをしていたのか、本当にアホだったのかは不明だ。

「ねぇお兄ちゃん、私の上履きがないの。」と靴下でペタペタ歩き、甘ったれの私は放課後お兄ちゃんに相談しに行った。

お兄ちゃんは一瞬顔をひきつらせたが、すぐに「”ないの”って。ドジだなぁお前。どこやったんだよ。はは。なぁ、一緒に探しに行こうか?」と、私を連れて歩き出した。

兄はたぶん、私がいじめられて上履きを隠されたのをすぐに悟ったが、あえて口にせず、まるで「上履き探しゲーム」で一緒に遊ぶように接してくれた。今思うと、なんて優しいんだろう。小学生にして気遣いの鬼だ。泣きそうになる。

私はお兄ちゃんの背中についていって学校中を歩き回りながら、心の重たいモヤモヤがだんだん晴れていくのを感じた。

校舎では見つからず、屋外に移動して探す。自分のことなのに私はすっかり疲れて飽きてしまって、階段のあたりにぽっつり座り、遠くでウロウロしている兄をボーっと見ていた。(薄々状況は理解していて自分なりにショックだったのかもしれない。)

「…あ!あった!こんなとこに」と私の名前の入った上履きを兄が見つけて指でつまんでブラブラしているのが見える。どこにあったのか明確に覚えていないが、真っ白だった上履きは茶色くなって、落ち葉もたくさんついて、薄汚れていた。

学校の入り口付近の手洗い場で、お兄ちゃんは私の上履きを黙って丁寧に洗い、立てかけて乾かしてくれた。

「ここでちょっと待っててな」そう言ってしばらくいなくなったかと思うと、自分と私のランドセルを両手に抱えて戻ってきて、

「見つかってよかったな。もう夕方じゃん。お母さんも心配しているし、急いで帰ろっか。」とにっこり笑って見せた。


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今思い返すと、兄がいなければ私はもっと卑屈になってクラスで孤立したり、心を閉ざした幼少期を過ごしていたのではないかと思う。

書ききれないので割愛するが、ほかにもこういう優しいエピソードがたくさんあるのだ。

兄の家族を想う気持ちは本物だったし、私はそんな兄の優しさに甘えきっていた。

私たち家族のなかで、兄との関係が変わっていくなんて、

あの頃は想像もしていなかった。


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(ここまで読んでくださりありがとうございます。)

(本当はもっと短く1話にまとめるつもりで書き始めましたが、思いがけずいろんな想いがでてきて自分でもちょっと混乱して長くなりそうなので分けて書くことにしました。)

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