雨降り
昼間に降った雨を吸い
その夜は面紗を被っておりました
傘の花束には雫が垂れ
睫毛の端に夜露が降り
土瀝青に残る足跡は
化石のように思われました
憂鬱を露わにして蝸牛が進みます
飾り窓に映された
いつかの貴方に似ておりました
嗚呼 雨が降る雨が降る
瓦斯灯に照らされた
咳に歪む顔が
誰ものもかも解らずに
瞬きしておりました
嗚呼 雨が降る雨が降る
場違いなほどに饒舌な
頭の奥に溜息が漏れ
吐き出した白い息には
煙草が染みておりました
何処かの猫の鳴き声に
誰かの重ねた歌声が
無性に心を引っ掻いて
自分も雨に溶かされて
ちいさな何かの隅っこで
生きられやしないかと想像し
なんとも知らない私を
探し彷徨い疲れ果て
嗚呼 雨が降る雨が降る
(2020.4.21日曜文芸掲載)
2024/01/07 note再掲載
見出し:mage.space使用にて作成