見出し画像

本好きを引きつけて止まない、台湾・台北の魅力的な書店を巡って来ました

ちかごろ日本国内で注目されている、大手チェーンとはひと味ちがう街中の個性的な書店たち。個性派書店の波は、お隣の韓国や台湾でも拡がっています。今回、台北を訪れた機会に市中の新世代書店と、今年の秋に日本へもやってくる大手の誠品書店とを巡ってみました。

今回の旅のガイドブック『本の未来をさがす旅 台北』と、43もの台湾書店物語を集めた『書店本事』(2014年台湾で刊行。日本語翻訳版が6月発売予定)。

田園城市(Garden City)

台北の独立系書店の草分け的存在。代表のヴィンセント氏は、出版社と書店の両輪で経営をしています。本棚のコンセプトは市場で、気軽に買いにきてほしいと、『本の未来を探す旅 台北』掲載の代表インタビューにはありました。日本の書籍も多様なジャンルが置かれ、代表が定期的に日本に行って神保町などで買い付けているそうです。奥のギャラリーでは世界の建築ミニチュアを集めた日本の書籍の翻訳版を、掲載された実物のミニチュア建物といっしょに展示中でした。

誠品R79

雑然と古書が並ぶ昔ながらの地下街を、リノベーションした書店です。各部屋をつなぐアーケードが、往事の雰囲気を残しています。創業者・呉清友さんの本への熱い想いが形になった店舗だそうです。

訪れた時には、ちょうど新しい日本文化の創造をかかげる京都の「SOU・SOU」とコラボした、期間限定ショップと特別展を開催中でした。誠品書店は全店でこうした大型企画や書籍イベントを、年間5000ほども行っているとのことです。

朋丁(pon ding)

日本人もよく訪れる、デザインやアート系の本が充実した書店です。出版社の本だけでなく、個人出版の雑誌やアートブックなど、個性的な書物が充実。オリジナルの雑貨販売や、アーティストが個展を開けるギャラリーも併設しています。

朋丁では、台湾で発行されている日本カルチャー専門誌の『秋刀魚』を購入。日本人が気づかない新しい視点から、日本の今をとらえ直すユニークな雑誌です。

小日子(シャオヅーズ) 華山店

2012年から刊行されている、デザインやカルチャーが好きな若者向けの雑誌『小日子』の出版社が運営しています。小日子の発行人のローラ・リーさんには、『本の未来を探す旅 台北』の出版記念セミナーで来日した際にお話を聞きました。お店の運営とオリジナルグッズの開発は、元々雑誌の発行だけでは会社を経営していくのが難しいために始めて、今では雑誌販売と店舗売上げの比率は半々とのことです。華山店は中国人ほか観光客や若者に人気のスポットにあり、お店を訪れた人に初めて雑誌を知ってもらえるというメリットもあるそうです。

閲楽書店

このレトロな建物(元は日本統治時代のタバコ工場の託児所だったそう)が、独立書店を舞台にした恋愛ドラマのロケ地になったことで、その場所に新しく生まれた書店です。「思想とクリエイティブ」を軸に選書された書籍が並び、『東京下町古書店』など書物に関する翻訳本も多く見受けられました。

誠品書店 松菸店

台北の松山文化創意地区に位置し、同じ建物内にコンサートホールや、ショッピングモール、映画館なども併設する大型書店です。書店内にも写真のようなキッチンスタジオがあり、様々なイベントがここで行われると共に、食材やお茶、料理本などが販売されています。

隣には製品書店が運営するホテルがあります(私もここへ泊まってみました)。ロビーはまるで図書館のような雰囲気で、部屋にも最新の雑誌が備え付けられていました。

誠品書店 敦南店

1989年に開店した、誠品書店の第一号店です。日本の大手書店であれば、最新のベストセラーや話題のビジネス書、自己啓発書がところ狭しと並んでいるはずの店の正面入口に、『花森安治伝』とか、梅棹忠夫や小泉八雲の本がこうして整然と陳列されているのには、驚かされました。

翻訳されたもの、されていないものを含めて、日本の書籍が台湾訪問前に思っていたよりも相当多いです。「少女美術学」のコーナーには、『君の名は』から、『セーラームーン』や今敏の『パプリカ』まで並んでいました。

誠品書店 信義店

ビジネス街の中心にある信義店は、さすがにビジネス書も充実していましたが、雑誌の品揃えと、表紙を出してのこの陳列はすごかったです。面白かったのは、椅子からあふれた人々が直に床に座り込んで立ち読み?をしていること。この風景は、他の誠品書店でも見られたので、定着しているスタイルなのでしょう。

児童書コーナーも、年齢別の玩具を含めて広々ゆったり。自分が子ども時代にここへ来たら、帰りたくなくなったろうなと思わせる、素敵な空間でした。

<台湾書店を巡る旅、まとめです>

(1)雑誌の充実こそが、書店への集客のカギになる

中心街の敦南店(24時間営業)の雑誌コーナーでは、夜の10時を過ぎても続々と人が訪れ、立ち読み(座り読み?)の人々でお店は活気づいていました。日本ではいま雑誌の売上げが低迷していますが、今回台湾の書店を巡ってみて、やはり雑誌をもっと活性化させて書店への来店動機を増やすこと、若い年代に対して雑誌を読んでもらう習慣を(子ども時代から)つけてもらうこと、が早急に必要ではと感じています。

(2)日本でも避けて通れない? 新刊書籍の値引き販売

上の画像は、誠品書店チェーンでの「女子行為学」(女子力アップ?)フェアの様子です。79折とポップにあるのは21%という通常より大きなディスカウントをするということで、フェアの書籍自体の魅力とあわせて、値引きで購入意欲を盛り上げています。いま日本でも書店の利益率を増やすために、返本の無い買い切りならば、書店への卸し値を安くする試みがされています。ただ、この買い切り制度は、本を買い切った書店が売れのこりを値引きして販売する自由とセットでなけければ、という議論もあります。台湾で見られるような、フェアと値引き販売の効果的な連動というような施策は、今後日本でも避けては通れない検討課題かもしれません。

(3)台湾と日本、書籍で結びつく強い絆

台湾に来て感じたのは、流れる時間のゆったりさとか、持続性というか、街並みでも古い建物と新しいものとが調和をもって共存している、ということでした。誠品R79のお店は古い地下街を改装して生まれ、小日子のショップも築80年の建物をリノベーションして使っているそうです。日本統治時代の建物がまだ数多く残っているから、写真のような「日本建築的覚醒」というテーマも、台湾の本好きな読者層の関心を呼んでいるのかもしれません。台湾と日本、お互いの文化的な良さをこれからも認め合いながら、持続的にじっくりと交流を深めていく。その仲立ちの手段のひとつとして、書籍がこれからも役立てばと思った次第です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?