見出し画像

知床リベンジ!/知床ネイチャーツーリズム EP 1 シマフクロウに逢いにいく

北海道に旅行するなら1番やりたいことをやろう…それはシマフクロウと出逢うことだった。小5の夏、道東を旅して野生のシマフクロウをみたいと願い早40数年。昨年初めて訪れた知床の2日間の夜だけではシマフクロウとは出逢えなかった。ただ森の奥から聞こえる彼等の鳴き声は神聖だった。だから今年、2024年いまふたたび知床へ飛ぶ。

シマフクロウ。北海道に生息し、絶滅のおそれが極めて高い日本最大の鳥類で世界最大級のフクロウ。かつては北海道全域に分布していたものの紅葉樹の樹洞で営巣するシマフクロウにとって森林伐採などの開発によるダメージは大きく今や道東の一部にしか生息していない絶滅危惧種である。そのため多くのシマフクロウは巣箱や給餌用生け簀などに頼って生きているのが実情だ。さらにいち河川ひとつがいが原則の生態では個体数増加はなかなか難しい。人の生活圏と近ければ事故も多く、心無い人間によりその生活は妨害される。人間次第の状況がそこに見え隠れする。

シマフクロウ

羅臼の民宿、鷲の宿ではシマフクロウオブザバトリーという観察施設がある。詳しくはウェブサイトに譲るが(http://fishowl-observatory.org/index.html)人間が観察小屋から観察する際のルールを決めて、人間の存在が彼等の邪魔をしない体制を作り上げている。この宿でシマフクロウと出逢うためには、このルールに従い彼らに出来るだけ負荷をかけないよう観察する必要が私たち側にある。昨年観察した際は雨も降り長い夜となった上、とうとう現れなかった…が、今回その時は不意に訪れた。観察を始めて1時間も経たないうちだった。瞬きをして目を開けたら目の前にいる、正にそんな感じで、音も無く飛来していて「はっ」とする。翼長は180㎝といわれるように直近で見ると想像を超えて大きい。息を呑む。緊張が走る。シマフクロウは生簀の縁に陣取り湖面へと視線を送り魚を追う。しばしの静寂の中、生簀へとダイブした。

生簀に飛び込んだ


大きく羽を広げ飛び出してくれば魚を鋭い足ががちりと捕らえていた。周りを警戒し見回し動きの止まった魚を頭から飲み込む。再び警戒しつつまた生簀の縁へ向かう。これが3回ほど繰り返され不意に川上へと飛び去った。昨年、あれほど憧れた時間が、あっという間に現れ、そして消えて行った。その時間わずか数分。日常生活では味わえない極上の時間だ。飛び去った後に思わず「うわあッ」と声も出た。子供の頃の夢のひとつが叶った。なんとも形容のし難い濃密な時間。大型の野生動物との出会いは極上のエンターテイメントだ。こうしたツーリズムには大いなる魅力がある。

生簀から魚を捕らえて出てくる

この日ひと晩で3回ほどその様子が観察出来た。しかも、3回目は2羽同時に現れ交互に生簀ダイブし魚を捕らえていた。後から来た個体の方が魚獲りが下手なのも微笑ましい。今年生まれた幼鳥だろうか。翌2日目も同様な展開でやはり一晩で3回ほどの邂逅があった。人によっては2日も徹夜して観察するなどあり得ないという人もいるだろう。一方で、ある人にとっては2日徹夜してでも手に入れたい時間である。自然はいつもリズムを保ち誰も奪えない時間が流れている。それを受け入れその時間に身を委ねて楽しめるか否かは人間側の問題である。自然は常にいつも変わらずそこに在る。

警戒を怠らない

ところで2日目は金曜の夜。アジア圏の海外ツアー客が多数押し寄せていて場の空気がざわついていた。なんでもこの夜の観察者は総勢40人程いたという。前日の倍以上だ。そんな中、夜遅くエゾシカが訪れたがその際フラッシュを炊く人がいた。これは観察のルールに反する行為であり、人間が起こす問題のひとつである。なにも海外ツアー客を悪く言おうと言うのではない。ルールが正しく伝わっていない可能性もあるし、その人物の問題や国ごとの意識の差もあるだろう。そもそも日本人もこうしたツーリズムの根幹を正しく理解してるとは言い難い。人が環境負荷を減らし自然環境と共存するためには多くの要因が複雑に絡み合う問題がある。観察小屋の収容人数は30人ということだが、今回はオーバーツーリズムだった可能性もある。前日に比べ空気がざわついていた事と、出現時間が遅かったのも無縁ではないだろう。日本においてのネイチャーツーリズムは海外顧客に対する説明のクオリティ、民宿のキャパシティやガイドのマンパワーなど問題と課題は山積みしている。人間側に存在している問題はまだ多い。

一方で、共存の道を探るのもまた人間だ。この川に飛来するシマフクロウは、環境省が設置した森にある巣箱に営巣していると聞く。あえて付記するが、巣箱には生態系を守るため環境省職員以外、近付くことは出来ない。このシマフクロウオブザーバトリー自体、日本には稀有な存在で、シマフクロウに負荷をかけずに観察しようというアプローチは賞賛されるべきだ。野生動物の保全活動や負荷を減らす事もまた人間の行為である。だからこそ野生動物を観察する際は、こうした現状と保全のために努力する人が活動をしている事を知り、観察ルールを遵守する必要がある。これらを理解した上でツーリズムに参加するべきだろう。何より野生動物と共存していくためには人間側の管理こそ必要なのだ。崇高で神聖な時間がこれからも彼等の森に流れるように、正しくルールを守り観察する人が増えることを願う。

鷲の宿の晩御飯

余談だが鷲の宿では近くに住む人たちが手作りの食事でもてなしてくれる。この食事が抜群に美味しい。素材が良いのはもちろん出汁が美味い、本当に美味しい。たとえシマフクロウを観察出来ないとしてもこの食事をいただく価値は充分ある。ただし夕飯の時間は17時なのでより美味しくいただくためにはその日1日朝から食事の時間や量に注意する必要があるので注意したい。

いいなと思ったら応援しよう!