JR北海道を立て直す(6)有能な鉄道経営者の経歴とは何か
3月の日経新聞の「私の履歴書」で東京急行会長の野本弘文さんの自伝が、ひと月にわたって連載されています。
これを見て驚きました。東京急行は首都圏で西武、東武と並ぶ鉄道です
(経営内容は首都圏で内容は一番でしょう。路線キロ数は東武が最長)
しかし、東急会長の経歴に「鉄道経営者」としての実績はありません。
不動産(都市開発)、サービス(メディア)が中心です。
鉄道は役員になってからタッチした程度です。
私の履歴書には、都市開発を進める過程で鉄道部門と衝突した場面も記されています。下記経歴をよく見て下さい。
若いころは地主、役所を説得し、ソニーなど他業界と連携し、鉄道部門とけんかして、実績を積まれました。他人と交渉し頭を下げ、現場を歩いた経緯が書いてあります。
野本弘文
早大卒業後、1971年東京急行電鉄に入社。
1986年田園都市事業部多摩田園都市部宅造課参事、
1988年東急不動産出向、
1991年東急電鉄都市開発本部生活事業部計画部ニューメディア課長、
2001年事業戦略推進本部メディア事業室長(赤字子会社立て直し)
2007年東急電鉄取締役執行役員開発事業本部長、
2008年常務取締役、同年専務取締役、2011年4月代表取締役社長。
それに比較して、現在のJR北海道の社長の経歴です。
不動産やサービス歴はない。経歴の全てが鉄道と本社の内向き仕事です
他人に頭を下げる経験は皆無と言っても差し支えないでしょう。
国鉄入社組はエリートだけの少数採用で、別枠で出世が約束されています
基本的に、交渉は部下に任せて、自分は決裁するだけです。
JR北海道の社長経歴
綿貫 泰之
1985年 北海道大学卒業 日本国有鉄道入社
鉄道事業本部 営業推進本部営業部長
取締役 総務部長
取締役 函館支社長
常務取締役 総合企画本部長
取締役副社長、代表取締役社長
なぜこんなに違うのか。ここがJR北海道の本質的問題です
同社の22年の実績は下記の通りです
売上実績のうち鉄道65%、流通サービス14%、不動産ホテル18%
利益額は話にならない大赤字です。
JR北海道も将来は「不動産、サービスでも稼ぎたい」と思っています
優良な鉄道会社は「鉄道の比率が3割程度」「7割は不動産やサービス」で稼いでいる。(JR九州、東急、東武、阪急、西武)
(JR東日本、東海、西日本は新幹線など別の比率が大きいので北海道とは比較が難しい)
ところが、JR北海道のトップは全部「国鉄マン(ぽっぽや)」ばかり。
東京急行・野本氏の入社時は、東急の不動産部門は全然未開拓でした。サービスも手探り、それを悪戦苦闘して今の東急を作って行かれました。
鉄道しか知らないJR北海道の経営陣では、不動産やサービス強化計画を実行する能力は見通せないでしょう。
そう考える根拠があります。筆者も昔、西武グループと関係がありました。
西武グループは鉄道部門と不動産部門(国土計画)が別会社でした。
不動産(国土計画)の人は「鉄道マンは脳内が時刻表で、定時運行ばかりで、ダイナミックではない」と言ってました。
鉄道(西武)の人は「不動産は大風呂敷で、先の読めないことばかりやってる」と言いました。
このように鉄道と不動産は思考回路が違います。
鉄道は今の鉄道と駅を運営するのが仕事です(農耕民族)
不動産開発は、何もない土地からビジネスを生むのが仕事です(狩猟民族)
農民と漁民くらい違います。
JR北海道の立て直しには経営陣の変革が必要です。