二つの“新しい主義”の闘い
新しい資本主義と新しい社会主義――。
バイデン米大統領と中国共産党の習近平総書記の対立・論争は、どちらの思想・理念が豊かな社会を作る上で優れているか、という基本的問題に立ち返っているようだ。かつての資本主義と社会主義の対立は、20世紀末にソ連邦が崩壊したことで決着がついたようにみえた。
しかし近年、大国・中国の習近平総書記が“新しい社会主義”の理念を声高にしゃべり、国民総生産(GDP)で日本を抜き世界第二位の経済大国に躍り出てきたことによって米中の唱える新しい主張・主義は、20世紀の“米ソ時代”の論争、対立の質を一変させている。20世紀の米ソの対立は、米国型の方が豊かな中間層の社会を作り出したとみられた。だが、新しい資本主義は、モノ作りより金融の自由化や規制緩和の方向に走り出し、大企業や富裕層は大いに潤ったものの、非正規労働者が4割近くに増え、貧困層との格差を大きくした。特に日本では成長率が伸び悩み、目標とした成長と分配の好循環を果たせなかった。中間層の増大をはかって消費の活発化を図ろうとしたが、コロナ禍の影響もあり分配政策は不十分で賃金がほとんど伸びることはなかったのである。
この間に中国は、国民総生産(GDP)で2010年に日本を抜き、アメリカと肩を並べる勢いとなっている。さらに今年7月の中国共産党結党100年の式典で「中国は“小康社会(ややゆとりある社会)”を全面的に築き上げた」とした上で、中国は絶対的貧困問題を歴史的に解決し次の100年の目標に邁進していることを宣言。「中国は大股で時代に追いついたのだ」と習近平主席が近代化に成功したと演説した。そして次のステップとして格差を縮小して社会全体が豊かになる“共同富裕”の実現を打ち出している。建国100周年となる2049年頃に世界最高水準の総合的国力を持つ「社会主義現代化強国」になると言い、2035年をその中間点に位置づけて、28年頃にGDPでアメリカを抜き世界最大のGDP大国になると見立てている。マルクス主義に基づいた特色ある中国式社会主義社会の建設を行なうのが習近平政権の役割であり、思想であるというのだ。
バイデン大統領は「我々は衝突を望んでいないが競争を歓迎する。習近平主席は、中国を世界で最も重要な国にすることに熱心だが、将来において専制主義国家が勝つことはない。未来は米国の手中にあり米国が勝つ」と強調し、強力な財政出動と市場介入、格差や差別などの構造的課題にも取り組むと訴えた。
はたして、新しい資本主義と新しい社会主義の競争は、どちらが豊かな社会を築き世界の人々と社会を惹きつけるのだろうか――。
米ソ冷戦後の21世紀の新しい時代を開く競争が、米中を中心にまた始まったと言えそうだ。
画像:写真AC DragonOneさん
【TSR情報 2022年3月7日】