第二十二回 書き出し祭り 紫倉紫の作品当て参加者のための、参考『書き出し集』
公式ポスト
https://x.com/kakidashi_fes/status/1791069423404745007
作者当てにも参加したいなと思い立ち……
今回、書き出し祭りに参加し、密かに第二会場におります。
せっかくなので、私を当ててくれる方を募集中です。
作者当てで正解した場合の景品
すでに、景品欲しさに頑張って予想してくれている方も、単に、作者当てにプライド? を持って探してくれている方もいます。
この後は、作者当てのヒントとして、過去に書いた私の書き出しを紹介していきます。
各作品のタイトルから小説へ飛べるようになっています。書き出しで興味を持たれた方は足をお運びください。
(R-18指定の作品も多く含まれているので、お気をつけくださいね。)
長編の書き出し
まずは、長編の書き出しから。
(下にいくほど、官能度合いが高くなるので、覗くときは注意してください。)
『赤いホタル』
夜明け前。
一日の最低気温は、きっとこの時間帯に観測される。
私は、なんとか布団から抜け出し、バイトへ行く準備を始める。
バイト中は上から制服を着るから、中は厚着できない。ダウンジャケットを着て、マフラーを巻きつけ手袋をはめ 、家を出た。
まだ、起きている人も少ない。
街灯に照らされた息が真っ白で、ため息を吐くとさらに伸びた。
『西君の皿』
ダイニングの中央に、シングルベッドほどの食卓が置いてある。他に家具はない。
わたしは何も身につけず食卓の上に横たわり、西君が来るのを待っている。
わたしたちは、同じマンションに住んでいる。西君は三階の真ん中で、わたしは六階の角部屋だ。専有面積はほぼ同じでも間取りが違う。西君の部屋のダイニングは十二畳もある。
わたしならここに、ソファと大きな液晶テレビを置く。
西君は、空間を大事にしたいという。
『3ぷらす1』
今日は、閉店後の締め上げで勘定があわず、残業になった。
銀行にとって、一円でも現金が合わないことは大きな問題だ。入金機の中を探したところ、機械の中のわずかな隙間に挟まっていた。通常は、センサーで検知できる不具合だ。今回は、そのセンサーに異常があった。
余計な神経を使い、疲れた。歳の近い同僚、加納千尋と、夕食をとることになった。
京都の四条烏丸あたりには、金融機関が集まっている。メガバンクや信託銀行、証券会社に、大手生保のビルが並ぶ。私達は地方銀行で働いている。
『理想のオトコ』
隣の席の沢村君は、仕事ができる。
うちは外資系の保険会社なので、正直、生き残っているのは仕事のできる人ばかりだ。
その中でも、沢村君はずば抜けている。
入社してきたと思ったら、いきなり、エリアの新人記録を塗り替えた。
どういう人脈か、企業の福利厚生で保険を預かって来るから、一度に何十人もの契約があった。
そんな彼も今年で入社三年目になる。それでもまだ、ピチピチの27歳。私とは親子ほども離れている。
『感じさせて……』
夫は、女にも性欲があることを知らない。
『教授の実験室』
先生は、わたしが、内藤さんのことを好きだと思い込んでいる。
どうして、そう思っているのかなんて、わからない。
だって、最初からありえない取引だった。それでものったのは、少しでも先生の気をひきたかったからだ。
先生のことは、出会った時から好きだった。どこがと訊かれてもこたえられない。
だいたい、説明できる程度の好きは、好きじゃない。
人の物であろうと、関係なく欲しくなるのが、本当の好きだ。
短編の書き出し
私は基本的に長編書きなので、短編はものすごく苦手にしていますが、時々、気が向いて書くことがあります。
まずは何かしらの受賞歴のあるものから。
第一回 週刊文春小説大賞 準大賞『ぼくらの犯した罪の半分』
この日のために、ぼくは新しいノートと万年筆を用意した。
ノートは、ハードカバーの書籍と同じつくりをしている。表紙は濃紺の布で覆ってある。中の紙について、帯にはクリーム色で目に優しいと書いてあった。ぼくにとってその点はあまり重要ではない。ただ、ずっしりと手のひらにかかる存在感が気に入ったのだ。
ここに書き記す内容を思えば、まだ、軽すぎる。
万年筆は、深紅にした。黒ずんだ赤と鮮やかな赤とがまだらになっている。色は決めていたので、あとは手にしっくりくるもので探し歩いた。ショーケースに並ぶ万年筆は、様々な色形をしていた。
第二回 yomyom短編小説コンテスト 準大賞『粉もん』
たこ焼き、お好み焼き、イカ焼きに、キャベツ焼き。いずれも大阪名物、いわゆる粉もん「本場だから」と、わざわざ大阪に粉もんを食べに来る物好きな男と会う。
「本場やからて味かわるもん、ちゃうんちゃう」
つっこみながらも本場の讃岐うどんを食べたときの感動を思い出す。今年の夏の家族旅行は「香川讃岐うどん食べまくり」だった。 一泊二日の間に、香川県内に点在する二十の有名店を巡った。
「うどんの本場いうても、オアゲさんは大阪の勝ちやった」
そう思った後で溜め息を、吐く。本場に粉もんを食べに来る。「 ええ心がけやわ」と自分に言い聞かせるものの、いくら言い聞かせても「せやけど」という単語が、モグラたたきのモグラみたいに、叩いても叩いても顔を出す。
伊佐市文学賞 佳作『ターンオーバー』
夏休みの課外授業の後、音楽部の練習があった。終わる頃には、私はたまらなくおなかをすかせていた。家までは原付で三十分かかる。高校近くのコンビニで何か買おうかと迷ったが、お財布の中身と相談して我慢することにした。
先週、単車講習をうけたばかりなので、少し慎重に原付を走らせ始めた。
一、二年は、今日で夏期課外の前半が終わった。後は、音楽部の練習に出るだけなので楽だ。入部したての頃は、吹奏楽部をなぜ音楽部と呼ぶのか不思議だったが、所属して一年以上経ち、当たり前になった。うちはとにかく部員が少ない。その分一人一人の音が大きく影響するから、全員が自覚をもって練習にのぞんでいる。
高校の門を出て住宅地を少し進む。すぐに、見渡す限りの田んぼが目に飛び込んできた。遠くに山があり、所々民家もある。しかし、視界にあるのはほとんどが青々と葉を揺らす稲の海原だ。
ジャンル応援キャンペーン ヒューマンドラマ「変わる」佳作『印象、日の出』
2016年3月、モネの描いた『印象、日の出』は、確かに京都市美術館に展示されていた。
母は、私を百音と名付けた。
「絵に音はない。だけどあなたは、音が聞こえる絵を描きなさい」
母は美術教師だ。
「あなたは絵を描くために生まれてきたの」
仕事だけではあきたらず、家に居ても私に絵を描くことを強いる。
「あなたは誰のために描いているの?」
私の絵が母の望みに届かなければ、そう問われる。自分のために絵を描いたことはないと言い切れる。強いられても、絵を描くのは好きだった。
まだ何にも描かれていないキャンバスを見つめていると、穏やかな水面に葉から滴る雫が落ちるようにして、心に波紋が広がり始める瞬間がある。そのときに私を満たす万能感。描き始める時がもしかしたら一番幸福かもしれない。
それにくらべ描き上げた後のあの失望に近い感覚。
私は何のために描くのだろう。
それは愛ではない何か
「お前は、背が低くて良かったな」
高校大学と、よく一緒に過ごした友人に言われたことがある。俺は女子の平均をなんとか上回るほどの背丈しかない。
「ちびのどこがいい」
俺は反論した。
「そんな強面で上背まであったら、誰も近寄れないだろ」
友人は百八十を超える長身で、甘いマスクをしていた。
先月その友人が癌で死んだ。まだ三十五歳だった。就職してからは、向こうが転勤族だったこともありなかなか会えなかった。それでも数年に一度は、都合をつけて会っていた。久しぶりに連絡がきたのは死の二ヶ月前だった。
僕に残された時間の半分
女から誕生日を訊かれた。ここで嘘をつく必要もないと「11月11日」と答えた。「ポッキーの日ね」と返ってきた。あのお菓子のポッキーのことかと思った後に、数字とポッキーの形が似ているせいだと結論を出した。
会話は億劫だ。
特に、女と交わすと大概がくだらない内容にすり替わっていく。
「もうすぐだから、当日にお祝いしたい」
一人の女と、二度三度と会うのは避けたい。ここ数年は、特定で特別な女はつくらないことにしている。
「仕事だから、無理かな」
僕にしてみれば、この女との関わりの大方が、さっき終わった。こちらには、声をかけた時点からはっきりと目的があり、それはすでに達成された。
note内の短編
一部、紹介。
『死の一瞬前の君へ』
結婚してから十数年、妻にひた隠しにしてきたことがある。その秘密は、どうやら守り通せそうだ。妻は今まさに息を引き取ろうとしていた。
まだ三十八歳だというのに、全身を癌におかされていた。診断されてからたった四か月で、後数日もつかわからないところまで進行した。
痩せ細った妻の手を握り、僕は秘密を打ち明けてしまいたい気持ちを抑え込もうとしていた。伝えるのなら、これが最後の機会だ。ただ、死にゆく人に真実を知らせたとしてなんになるだろう。知ってしまえば、妻がひどく傷つくとわかっていたから今まで言えずにいたのだ。
妻に隠していたのは、僕と時任智也の関係だった。
『解放、あるいは、永遠の呪縛』
母が、櫂の部屋を定期的に掃除し保ち続けるのは、それが、腐らない遺体だからかもしれない。
久しぶりに櫂の部屋をのぞき込んですぐに、そんな考えがよぎった。
十年もの間、絶対に帰って来ない櫂のために維持されてきた寝床や勉強スペース。無駄でしかないのに、わたしも「処分したら?」とは、言い出せない。
生きていればとうに、学生時代の勉強机など必要なくなっている。
現にわたしは、卒業後シンプルな物に換えた。その机も家を出ると決まった時に、捨てた。
『死にたい病』
ツイッターで『死にたい』と呟いたら『一緒に死ぬ?』と、リプライがきた。
ぼくは、スマートフォンの画面をしばらく見詰め続けた。
そのうちにぼくの中にあった漠然とした願望が確かな輪郭を得ていく。ぼくはその過程を、思考の片隅で意識していた。
これまでのぼくには多分覚悟がなかった。
「死にたい」と言いながら、実際には「生きていたくない」だった。ようは、自発的でなく、偶発的でもかまわない。
『君がそばにいるということ。』
「ねえ、覚えてる?」
はじめて彼女がそう言ったのは、区役所に婚姻届けを出しにいった帰りの車の中だった。
僕はとくに気負いもせず「何を?」と訊いたのを覚えている。あの日の僕は、優香が僕の妻になったことで、妙な万能感に包まれていた。天変地異がおこっても僕たち二人だけは助かるような、そして、この世に二人きりになったとしても、それこそが最高の幸せのような心持ちだった。
『せっかく異世界転生したんだけど秒で死にそうです。』
指先に小さな痛みが走り、爪を噛んでいたことに気づいた。みると、爪と肉との間に血が滲んでいた。口の中に残る爪のかけらをスイカの種と同じ要領で飛ばした。噛みすぎるせいで僕の爪は人より随分短い。右手の人差し指は特にひどく、元の半分ほどしかない。嚙みすぎた時は数日痛みが続く。夏にやってしまうと治りも悪い。噛まないようすべての指先に絆創膏を巻いたこともある。テープを噛んだ時の苦みと、蒸れた皮膚の臭いが嫌で数回でやめた。結局、ストレスの根本を取り除かなければ意味はないと諦めている。
僕には「不幸の星の下に生まれた」という言葉が合う。貧しくても幸せでいられるのは、人格者か頭のねじが数本抜けているやつかのどちらかだ。
直近の書き出し
『喪女の夢のような契約婚。』
『五十嵐室長はテクニシャン』は、とある小説投稿サイトで連載中の人気作品だ。毎週、月水金の午前六時に更新される。
言わずもがな、主人公は五十嵐室長。イケメンエリートな上に隠れ御曹司というよくあるヒーローではあるが、『~にもかかわらず、EDでDT?!』というサブタイトルがついていて、かなり残念なイケメンなのだ。
その五十嵐室長をこよなく愛する女性がいる。その名も浅香凡子。彼女は小説の登場人物ではなく、『五十嵐室長はテクニシャン』の熱心な読者の一人だ。平凡な子になるように『凡子』と名付けられたこの女性は、月並みとは言いがたいほどの喪女に成長した。彼氏なし歴二十四年(=年齢)の筋金入りの喪女である。
『お人好しな公爵令嬢クリスティアナ・ガードナーは、悪役令嬢になると決めた。』
まどろみながら、湯船につかっていた。体が心地よいぬくもりに包まれている。入浴剤の甘い花の香りが鼻腔をくすぐる。
『そなたは、誰なのだ?』
聞いたことのない男性の声だった。入浴中に突然話しかけられて焦りはしたが、体が動かせない。
『そなた、クリスティアナ・ガードナーではないであろう?』
日本人なのだから、もちろんそんな名前ではない。
『ああ、夢なのね』
最近過労気味だったから、お風呂につかりながら眠ってしまっているらしい。
『夢ではないぞ』
『それにしても、低くて深みのある良いお声だわ。もっと甘い言葉をささやいてくれれば良いのに』
夢も自分の思い通りにはならない。
最後に大ヒントを
私はあらすじが非常に苦手です。
どんなに上手く書こうとしても書けません。
なので、面白くなさそうなあらすじがついているのが、私の作品です。
ご参考に。