君がそばにいてくれるということ。
「ねえ、覚えてる?」
はじめて彼女がそう言ったのは、区役所に婚姻届けを出しにいった帰りの車の中だった。
僕はとくに気負いもせず「何を?」と訊いたのを覚えている。あの日の僕は、優香が僕の妻になったことで、妙な万能感に包まれていた。天変地異がおこっても僕たち二人だけは助かるような、そして、この世に二人きりになったとしても、それこそが最高の幸せのような心持ちだった。
優香が訊ねてきたのは、小学校の入学式でのエピソードだった。
一度しか着る予定のない子供用のスーツを身にまと