芙蓉(からくり家政婦)編 クロスオーバー・シティ
全ては、一人の男”プータローorダメ人間”が拾って来た壊れたロボット”ガイノイド”がすべての始まりだった。
新八のいうとおり、エツ子ちゃんは大江戸だけでなく、隣接するもう一つの街、異なる歴史をたどった江戸ー東京でも各所で普及していた。
私立駒王学園。
その旧校舎に一室、オカルト研究部の部室。
「うおー!!!マジでメイドロボットだ!!!」
同部員、男子高校生の兵藤一誠は目の前に現れた存在に興奮していた。
帰りのホームルーム直後、部長のリアス・グレモリーから「見せたいものがあるの」と招集を受けたのだ。で、見せてもらったのがこれ。
「まあ!どうしたんですか部長、これ?」
メイド・ロボット、ある意味で自分の周囲にいる悪魔や魔族、吸血鬼以上に「空想上の存在」と言っても過言でないそれ、まさに夢のような存在を生きてるうちに目にするとは(もっとも悪魔に転生しているので彼の寿命は人間よりはるかに伸びているのだが)思ってもみなかっただけに、悪魔や天使を見た以上の感動であった。
からくり家政婦エツ子ちゃんの暴走は超空間ゲートを隔てた東京でも起きていた。東京にも大量に流入していたのだ。市内では警視庁機動隊から自衛隊第一師団まで出動し、激しい市街戦の様相を呈していた。
一方、ここ神奈川武偵校(武偵校は学校の埋め立て地が転移し、超空間ゲートに向かって伸びたモノレールにより元の世界と行き来する)でも騒ぎは起きていた。
武偵高校教務課”マスターズ”。ここは最早、野戦本部と化していた。電話では警察や自衛隊からの応援要請が鳴りっぱなしで、教官や教師たちは電話にかじりつきそれらへの対応をしつつ郊外に出ていた生徒の安否を確認しており、また各学科では諜報学部と通信学部の教師たちが生徒たちに郊外の情報を集めるように指示を出していた。一方の強襲学部は探偵学部と協同して学校の守備隊と警察・自衛隊への応援部隊の編成を行おうとしていた。
「そうや!B装備や!強襲科学生は全員B装備で集合。自動小銃やショットガンも持っていけ!持ってないやつは学校の備品貸しちゃる!銃も弾代もこの際学校持ちやっ!!」
強襲科の教官である蘭豹も内線電話にかじりつき、生徒たちに指示を出していた。その時、
止まれっ!撃つぞ!!
来るなっ!来るなぁ!!
直後に銃声が複数。
教務課オフィスの前で警備についていた3年生の生徒たちのものだった。
教師たちが手を止め、オフィスに一時沈黙が流れる。そして次の瞬間、教官たちは一瞬で机や懐に収めていた銃を取り出し、薬室に初弾を装填しドアに銃口を向けた、直感的に状況を把握した教養学部の教師たちは床に伏せたり、机の陰に身を隠す。その直後
引き戸”スライド”式のドアが2枚とも倒された直後に無数の白黒ーからくり家政婦”メイド”が飛び込んできた。
号令もなく誰かが引き金を引いた。それが戦闘開始の合図となり教師たちは次々と発砲。教務課オフィスにこだます銃声、発射される各種口径の弾丸、宙を舞う書類や課題のプリント。
弾丸はからくり家政婦”メイド”たちに命中。しかし、それでも家政婦”
”メイド”達はひるまなかった。運良く頭や胸の動力中枢に当たれば一撃で倒せるが、手足や腹部ではそうはいかない。血液のようにバッテリーの溶液が流れ、時間がたてば動かなくなるが、人間のように死を恐れないため動きを止めることなどなかった。
銃撃にひるむことなく、リミッターを解除されたことにより人間離れした機械仕掛けの脚力をフルに発揮しとびかかる。
教官たちは次々と機械仕掛けの腕力で投げ倒され、取り押さえらえていった。
尋問課”タギュラ”教官の綴梅子はくわえタバコで愛用のグロック19を抜き応戦。腕を突き出すのではなく両手をまげて拳銃を身体に引き寄せて構える。CARシステムと呼ばれる近接戦に特化したかまえだ。
梅子は近づいてきたからくり家政婦”メイド”に冷静にダブルタップを叩きこんでいった。
デスクに飛び乗り資料や書類を派手に蹴散らしながら突っ込んできたやつの心臓に2発。
跳躍し、フリル付きのスカートを派手に広げて飛びかかてきたやつの心臓に2発。
足を撃たれバッテリー溶液を血のようにたらしながら雲のごとく床を這って接近してきたやつの頭に素早く2発。
一カ所にとどまらずそのままゆっくり後退する。
猶も追いすがってくるからくり家政婦”メイド”を撃ち続けるが8体目を倒したところで遊底が元の位置に戻らなくなった。
ヤべぇ、弾切れだ。
グロッグのマガジンリリースボタンを押し弾倉を落とす。それから腰のホルスターに収まっている予備の弾倉をとろうと左手尾腰に回すが直後に誰かが物凄い力でグロッグを持った右手を掴んだ。
驚いて手を掴んだ相手を見た。いうまでもなくからくり家政婦”メイド”だ、人間なら息遣いを感じられる距離だが、人形なので当然そんなものはない。表情が一切無いのはこの状態ならなおさら不気味だった。なんといっても普通の人間なら目に宿る殺気や敵意も一切無いのだ。尋問官として様々な人間と至近距離として対面したことがある梅子もこんな相手は初めてだった。思わず加えていたタバコを取り落とした一瞬の時間、本来なら反撃に回れる彼女が何もできなかったのは機械仕掛けの腕力で手を掴まれていただけでわな勝った。
「くぅっ!!」
そのまま手を掴む力を強くされ銃を取り落としてしまった。
床に引き倒される。反撃し起き上がろうとしたが、他複数の機体にのしかかられ身動きが取れなくなった。一見すると人間の少女と変わりないとはいえ、機械の塊でありその重量は大型の業務用コピー機や原付自転車なみである。
「クソっ!むぐg......」
一気に手で顔を抑えられる。
「綴!!」
机の下からフランキ・スパス‐12オートマテックショットガンを取り出し応戦する蘭豹。同僚の綴りが押し倒されたことに気付くもなかなか助けにはいけそうにない。
とびかかって来た奴を腰だめに撃つ。スラッグ弾(散弾じゃなくてドリルみたいな形の弾)が放たれからくり家政婦メイドの身体に大穴が空いた。
スライドを引く”次弾装填”。
次に低姿勢で突っ込んできたやつにも同様に見舞う。
再びスライドを引く”次弾装填”
そうしつつも弾が切れる前に何とか梅子を助けようと思っていると。後ろでガラスが割れる音がした。
「後か!」
差っと反時計回りに振り返り、窓から飛び込んできたと思わしき奴がかかってきた。しかし、まだ間合いがある。そいつにやや腰だめの姿勢でショットガンを向けた。
「惜しかったな」
肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべ引き金を絞る。
しかし、そいつの身体に風穴があくことは無かった。
そのらくり家政婦”メイド”は発砲する直前にショットガンの銃身に左手を伸ばし掴んで、銃口の向きを変えたのだ。強力なスラッグ弾は虚しく空を切ることになった。
「あ.......」
惜しかったのは私だったか....。そのまま散弾銃を奪われた上に、前に引っ張られたところを右手でポニーテールを掴まれ顔面から床に倒された。
教務課オフィスの惨劇はかけっぱなしになっていた内線の受話器により、彼女を支持を受けていたすべての教室に知れ渡ることとなった。