フライトログの集計をハックしよう
今回は、パラグライダーのフライトログ、特にフライトタイムの集計について記載します。
下記の「Photon に乗るパイロットに求められる適正条件」で、Ozone Paragliders が製品マニュアルで指定している条件の一つである「コンスタントに行う平均的年間飛行時間(フライトタイム換算)」を取り上げました。
言葉が長いので、以後、「フライトタイム」と呼びます。コンスタントに行う平均的年間飛行時間なら「平均年間フライトタイム」、月間なら「平均月間フライトタイム」という具合です。
オゾンが製品マニュアルで指定する「平均年間フライトタイム」は、そのクラスのグライダーにのるなら、最低限、指定されいてる時間はクリアしたい、最も定量的は適正条件の一つです。
経験上、一定レベル以上のパイロットの方の多くは、自分の年間フライトタイムを把握しています。でも、その多くは、パラグライダーに関わることなら労を厭わないタイプのストイックな方が、自ら習得した方法で自発的に行っている行為なのです。
定量的は適正条件として「平均年間フライトタイム」を挙げるのであれば、ストイックな方の自助的行為だけに依存するのはあまりに投げっぱなしに過ぎ、レジャー指向なパイロットの方も含めて誰もが簡単に集計が出来る方法を示しておかなければ、そもそもの制度設計として画竜点睛を欠くと思うのです。
日本のPL法では、輸入販売や OEM 等による自社名称での製品販売をしない限り、販売者が製造物に関する法的責任を負うことはありません。それでも、グライダーも一体型GPSバリオも販売する立場で、かつスクールという教える立場を標榜するなら、一般的なパイロットの方にできる方法を伝えられなければ、果たすべき責任と役割を担いきれていないようには感じます。
そんな理想ばかり言っている余裕はないのも正直なところでもありますが。
ということで、今回は、まだフライトタイム集計をしていないパイロットの方に向けた情報であり、テーマは「ハックする」です。
ハッカーの語源「ハック = Hack」は、「鉈や斧などで叩き切る」という意味であり、コンピューターエンジニアの世界では、「手早くラフな作業で期待に沿った機能を実現する」という意味合いを経て、「最小限の努力で最大限の効果を上げる」といった意味で用いられるようになった言葉です。
昨今これが広がり、「ライフ・ハック」といえば、仕事や日常生活で役立つちょっとしたアイデアやテクニックのことを表し、「グロース・ハック」といえば、企業がデータを集めながら改善策の仮説を立てて効率的に商品やサービスを成長させることを表します。
「フライトタイム集計をハックする」ということで、最小限の努力で最大限の効果を上げるフライトタイムの集計方法を考えましょう。
もちろん、最早、ログブックという名前の紙のノートにログを記載する時代でも、それを手で集計する時代でもございません。
いくつかの方法を挙げますので、「自分でできる」「ここまでやりたい」と思う方法を選んで、フライトタイムの集計をしてグライダー選択時の指標としてお使いください。
1. Skytraxx 3.0 / Skytraxx 2.1 でのフライトタイム集計
グランボレで近年 GPSバリオを求めるお客様に標準的に推奨していた、 Skytraxx 3.0 と Skytraxx 2.1 には、標準で筐体内でフライトログを集計できる機能があります。
この機能を利用する方法が、今現在「平均年間フライトタイム」の集計をする際の究極のハックです。なーんにもしなくて大丈夫ですよ。
(1) 実際の集計表示例
Skytraxx 3.0 と Skytraxx 2.1 では、特別なセッティングを必要とせず、フライト時に電源を入れて飛べば、原則として勝手にフライトログを GPSバリオ筐体内に蓄積し、その蓄積したログを年毎・月毎に集計表示することができます。
Skytraxx 3.0 の画面上での実際の集計表示例は下記の通りです。
こちらは、2023年のフライトタイムの集計表示。上部の「Total: 87h 56min」が年集計で、その下の「Jan Feb…Dez」が月毎の集計表示です。
下記に Skytraxx 2.1 マニュアルから同機能の説明箇所を抜粋します。
ややわかりずらいですが、右下の画面表示例の通り、Skytraxx 2.1 でも、概ね Skytraxx 3.0 と同様の表示が可能です。また、上部と左のマニュアルの記載の説明文を見ていただけるとわかる通り、その年の月ごとの合計を、「フライトタイム」「XCポイント」「フライト本数」の三項目で集計表示することができ、これも Skytraxx 3.0 と 2.1 で共通の機能です。
この方法は、オンラインへのログのアップロード等も必要とせず、最も効率的かつ効果的な方法と言えます。
画面上の表現も極めて洗礼されており、年間フライトタイムが一見で確認でき、目標とする年間平均フライトタイムに対してどれだけの達成度合いかを把握できるだけでなく、月間集計の表示があるため「あれ!?毎年のように 2-3月と10月が全然飛べていない」とか「結局、海外のキャンプに参加した時しかフライトタイムを稼げていない」等々、目標に対する自分の課題と改善策を練るための思考に直結する気づきを即時に得ることができます。
(2) 集計表示をさせるための操作方法
既に Skytraxx 3.0 と Skytraxx 2.1 をお持ちの方の為に、集計画面を表示するための具体的な操作方法を記載します。それぞれ下記の通りです。
〇 Skytraxx 3.0
【操作】Main Menue(左ボタン)> Program > Flight Statistics > 2024、2023等々と年が表示されるので、上下ボタンで見たい年を選択して右ボタン
〇 Skytraxx 2.1
【操作】Menu(左ボタン)>Flight Log > Analysis > 2024、2023等々と年が表示されるので、上下ボタンで見たい年を選択して右ボタン
(※ 補足:2.1 については手元に機材がないので、うろ覚えです。記載した操作方法に誤りがあれば申し訳ありません。グランボレにデモ機はあるので、確認後に修正いたします。)
やや話がそれますが、Skytraxx シリーズは、基本機能が高性能なうえ、この集計解析機能も含め他にも様々な有用な機能があります、品質は安定しており、かつ、価格は決して「ハイエンド」ではなく「ミッドレンジ」。極めてコストパフォーマンスに優れた製品です。だからこそ、グランボレでは GPSバリオにナビゲーション機能と GPSログの扱いを求める方へ、Skytraxx シリーズを推奨をしていた経緯があります。
両製品とも、既に製造元での販売は終了となっており、SIM 搭載に対応せずスマートフォンとのコネクティビティが弱いという点では、既に 1~1.5世代前の旧世代の GPSバリオとなりつつありますが、まだまだ有用に使えます。せっかく購入した方は、GPSバリオをフルに使い、ばんばんハックしていきましょう。
Skytraxx 3.0、Skytraxx 2.1 とも、フライト直後にそのフライトの飛行時間や距離や XC ポイントの統計情報が表示されるだけなく、後からフライトログの統計情報やフライト軌跡を筐体画面上で振り返ることができる「Play Back」の機能があります。
もし、年間フライトタイムの集計に留まらず、個人でフライトログの解析をしたくなった場合でも、ある程度の作業はこの筐体だけで完結して行うことができます。
なお、Skytraxx 2.1 は標準で WiFi 対応をしており、設定をすれば、後述するフライトログの XContes への自動アップロードを、スマートフォンや PC を通さず筐体から直接行うことが可能であり、また Bluetooth BLE 4.x をサポートし一部のスマートフォンアプリへの GPSと気圧データの送信が可能なため、まだまだバリバリ現役で使える製品です。
(※補足:Skytraxx 3.1 は、製造元が販売する WiFiドングルを USB ポートに刺すことで WiFi 対応をしますが、グランボレの会員様でドングルを購入された方はいらっしゃらないこと、また、すでに販売終了ともなっているため、ここでは取り上げないこととします。国内輸入代理店様に在庫があるという話をチラっと聞いたことがあります。ご興味がある方がいれば、問合せはしますのでご連絡のほど。Skytaxx 3.1 は Linux ベースのため、正規品の WiFi ドングルでない市販のものでも恐らく動きますが、確実に動かすためには仕様やドライバを細かく確認しなければならずやや難しいので、グランボレでは非サポートとさせていただきます。Skytraxx 3.1 については、PCに接続してフライトログファイルを取扱いください。)
(3) 現行機種 Skytraxx 5 での同機能
現行製品の Skytraxx 5 については、手元に製品が無く詳細の確認はできておりませんが、下記のマニュアルに記載がある通り Skytraxx 3.0 ならびに 2.1 と同様の集計・解析機能らしきものがあることは確認をしています。
Skytraxx 5 を使っても、この究極にハックな、何もしなくても良いフライトタイム集計の手法は、引き続き利用可能だと考えていただき問題ありません。
2. SeeYou Navigator と SeeYou.Cloud での集計
SeeYou.Cloud には、フライトログを集計する機能があります。これは、Naviter が現在製造販売する GPSバリオとスマートフォンアプリの全てで、フライトタイムを自動集計することができることを意味します。
ご存じない方にまず Naviter という企業から簡単にご説明をすると、Naviter はスカイスポーツ用のフライトコンピューターとフライト解析用のソフトウェアでトップシェアを持つ企業です。特に、グライダー(セールプレーン)市場でのシェアは寡黙的といえます。
ハイエンド GPSバリオ製品の「Oudie N」、ミッドレンジでパラグライダー用設計といえる「Omni」を製造販売しており、これらは Android OS を採用し「SeeYou Navigator」という共通のアプリケーションが稼働します。
また、この「SeeYou Navigator」を一般の iPhone/iOS また Android スマートフォン用アプリとしても提供しており、一体型GPSバリオ製品もスマートフォン用アプリも含め、これらすべての製品は、「SeeYou.Cloud」という、 Naviter が提供するクラウドサービスと連携をさせることで、充実したフル機能を使える設計となっています。
SeeYou.Cloud について具体的な説明をする前に、まず Naviter が現在製造販売する GPSバリオとスマートフォンアプリでの集計方法を見てみましょう。
(1) SeeYou Navigator での集計表示
元々、SeeYou Navigator には Version 1.0.0 以降「Logbook」という機能があります。近年のバージョンの「Logbook」では、画面のトップに、その年の年間フライトの集計が表示れます。集計項目は、「フライトタイム」「距離」「本数」です。
バージョンアップ毎に様々なエンハンスが行われており、どのバージョンから表示されるようになったかの把握できておりませんが、もしお使いの SeeYou Navigator が稼働するデバイスで集計が表示されない場合、バージョンアップをお試しください。
現在ベータ版がリリースされテストが行われている SeeYou Navigator 3.0 では、「Lobook」 機能のエンハンスがあり、元々あった年間集計の表示だけでなく、フライト直後にそのフライトの飛行時間や距離や XC ポイントの統計情報が表示される Skytraxx 同様の機能が実装される予定です。
また、SeeYou Navigator 3.0 では、トップ画面が洗礼され、Logbook 機能はアプリ立ち上げ直後にフロントアクセスできるようになり、すぐにフライトログや統計データの一覧を見ることができる仕様となります。
これらのエンハンスにより、SeeYou Navigator 3.0 が稼働する Oudie N、Omni、またスマートフォンでも、統計と集計の機能が有用となり、概略であれば SeeYou.Cloud を見に行かなくても把握できるようになる大きな期待ができます。
「年間フライトタイム」の集計としては十分な機能であり、飛べば勝手に集計してくれるという点でハックといえます。
ただ、正直に言うと、Skytraxx ユーザーである私個人の感想としては、フライトログの集計画面については Skytraxx 3.0 と 2.1 の方が一見で得られる情報が多く表現が洗礼されていると感じることを否めません。SeeYou Navigator で見ることができるのはあくまでも、その時点での年間の集計だけで、月間集計を見ることも、違う年の集計結果を見ることもできません。
Navitor 3.0 で実装される予定のフライト後の統計表示も、最近、一部で静かに人気がある XC スコア(XContest でも勝手に計算してくれる、直線 XC だけでない XCフライトのスコア計算)の表示はしてくれません。Skytraxx 2.1 と 3.1 だと、フライト直後に XC スコアが即表示されるのです。もっとハックしたい。
やや話がそれました。マニアックな機能はどうでもよいのです。とにかく、まず、「年間フライトタイム」の集計をしましょう。十分です。スマートフォンでも、Android でも iPhone/iOS でもできます。変な機能を付加すると、アプリが重くなり消費電力もあがることも確かで、これで良いのだと思います。Skytraxx も、集計表示させるときは、処理にやや時間がかかりますからね。
(2) SeeYou.Cloud での集計表示
「SeeYou.Cloud って何?」という方に改めてご説明をすると、Naviter が提供するクラウドサービスです。XCプランナー、ウェイポイントとタスクの作成と管理、ログブック、フライトログ解析等々、昨今のスカイスポーツで一般的なパイロットがしたいほとんどの机上作業を SeeYou.Cloud 上で行うことができます。
先に書いた通り、Naviter が製造販売するハイエンド GPSバリオ「Oudie N」、ミッドレンジでパラグライダー専用の「Omni」、そして下記 note 記事「iPhone ユーザーの為の XCTrack 代替マニュアル」でも取り上げたスマートフォンアプリ「SeeYou Navigator」は、すべてこの SeeYou.Cloud と連携する設計となっており、フライト後にデバイスがオンラインになると、機能をあえてオフにしない限り、自動的にフライトログが SeeYou.Cloud にアップロードされます。
(補足:上記のマニュアルは、書いている途中で SeeYou Navigator のアップデートが発表され「3.0」のベータ版がリリースされてきたので、一時中断して「3.0」が GA となってから再度残りの章をまとめます。)
つまり、Naviter 製品を使えば、自動的に SeeYou.Cloud で集計され、スマートフォンや PC で結果の閲覧や解析をすることができるのです。
上に書いた「(1) SeeYou Navigator での集計表示」は、厳密に言うと、この SeeYou.Cloud のログデータと処理した情報を同期して、SeeYou Navigator 側で一部を表示をしているということなのです。
実際の PC での SeeYou.Cloud での集計画面を以下にご説明します。
まず、SeeYou.Cloud では、ログインをするとダッシュボードが表示され、その上部にはフライトログの集計が表示されます。集計項目は、「Flight Time」がフライト時間の集計、「Flights」が本数集計、「Odometer」が飛行距離となり、SeeYou Navigator と異なり「今年」「最近12カ月/24ヵ月」「昨年」「一昨年」等の単位で切替をして集計を表示することが可能です。
「Logbook」の機能では、アップロードされている全てのログが一覧表示されますが、この機能ページの上部には、ダッシュボード同様に「Flight Time」「Flights」「Odometer」が集計表示されます。
「Logbook の機能」のページでは、下記のスクリーンショットの通り、「フリーワード」「時間(最近12カ月や24ヵ月、2023年、2024年等々)」、「月」、「テイクオフした国」、「テイクオフ場所」、「距離」の項目での詳絞り込みができ、検索をすれば、最上部の「Flight Time」「Flights」「Odometer」は絞り込んだ条件での集計が表示されます。
御覧いただいている皆様、どうでしょう?
私は、正直、検索による絞り込みが無駄に多機能で、Skytraxx の集計画面の表示の方が洗礼されていると思います。Skytraxx は一発で自分の課題が見えるのに対し、SeeYou.Cloud 絞り込んで表示させても、データを表計算等に落とす等で過去情報も含めてグラフ表示させない限り、課題がなかなか見えてきません。ひと手間必要。
Skytraxx は、検索による絞り込みはできないものの、必要な切り口で一発で見ることができ、オンラインにしなくても筐体内で見えるのも良い。
ですが、そもそものテーマである「年間フライトタイムの集計」という観点だと、SeeYou.Cloud の機能はもちろん十分。一発でわかります。
また、データを深堀りする場合、検索の機能である程度のドリルダウンができるため 1フライト毎に手作業で集計する必要はなく、ドリルダウンをしてデータを弄る気がある方には多機能であることが有用です。
例えば、「テイクオフ場所」で集計をして傾向をみる、あるいは「距離」で集計する、ベーシックに「月」で集計して傾向をみる等々、様々な集計が可能で、それを表計算ソフト等におとせばグラフ化することもできます。
そういう意味では極めて便利であり、会社の決算書でもなんでもそうですが、数字は弄った人だけ見えてくるものがあるものなので、SeeYou.Cloud でガリガリ絞りこんでみたら、別レベルの気づきがあるのかもしれません。
SeeYou.cloud は、フル機能を使うには SeeYou のサブスクリプション契約が必要となりますが、2024年3月現在、契約無しの FreeTrial 版でも、ダッシュボードでの集計と、「Logbook」機能を利用することが可能です。また、FreeTrial が一定期間で使えなくなる等の制限もありません。
(補足:SeeYou のサブスクリプションは、2024年3月現在 43€/年ということで、現在の為替レートで年間 ¥7,000強です。)
必ずデバイスをオンラインな状態にしてログをアップロードをする必要はありますが、自動にはできて、まあハックで極めて高機能。
そして、何も一体型 GPSバリオを購入しなくても、iPhone も含めてスマートフォンに SeeYou Navigator アプリをインストールすれば実現でき、SeeYou.Cloud も Web デザインがレスポンシブ対応しアクセスしたデバイスの画面サイズでレイアウトが自動的に変わるため、仮に PC が無くても閲覧や絞り込み、そしてフライト解析をすることができます。
良いとおもいます。特に、フライトログのファイルをきっちりと管理して、深くフライトの解析をしたい方に SeeYou.Cloud はオススメです。
(3) オススメは Omni
上述の通り、SeeYou Navigator はスマートフォンアプリとしても提供されているため、必ずしも一体型 GPSバリオ製品を買わずに、 SeeYou.Cloud との連携も含めてスマホアプリ版を利用してフライトタイムの集計をすることが可能です。
ではございますが、スマートフォンアプリの利用は「iPhone ユーザーの為の XCTrack 代替マニュアル」にも記載した通り、実際に試してみた方でないと想像できない手間とコストがかかります。
このため、一番の推奨はミッドレンジ機である Omni を購入して SeeYou.Cloud との連携も含めて利用することです。
いや、まだ完全に推奨することはできません。国内での販売価格を正式にきいておらず、また、手元で触ったこともありません。もう少し待ちましょう。
でも、公式 HPに記載された機能からは、現在欲しいと思う機能がほぼ全て網羅しており、かつ € での販売価格も決して「ハイエンド」ではありません。フライトタイムを集計するための用途のみでなく、純粋な一体型GPSバリオとして期待大の一台なのです。
(4) Hyper だけはやめておこう
既に販売終了となったようですが、Naviter は Hyper というミッドレンジのパラグライダー用 GPSバリオ製品を直近まで販売していました。控えめに言っても、この製品は全くお勧めできません。
SeeYou.Cloud との連携ができないだけでなく、バリオの標準的な機能も、デフォルトのサウンドも、スピーカーの性能も、ウェイポイントファイルの取り扱いも、タスクの組み方も、一目で Windows ベースとわかる画面のルック&フィールも、面圧ディスプレイの反応も、販売時期と価格の割に全てがまったく評価できません。良いことは、ファームウェアのアップデートで Bluetooth に対応したことくらい。
中古で安くても買うべきではないし、この一体型 GPSバリオを普通に勧める方のこの種の製品に関する知見を信用してはいけません。ご注意ください。
あくまでも私の主観であり、輸入やお取り扱いをされている方には大変恐縮ではございますが、自腹購入をして実際に使った上での感想であり、ご理解いただければ幸いです。
3.XContest での集計
さて、最後は XContest です。
XContest をご存じない方に簡単にご紹介をすると、パラグライダーとハングライダー用のオンライン XC コンテストと呼ばれるウェブサービスです。(以下「OLC」と記載します。)つまり、フライトログのファイルをアップロードすると、XContest が勝手に集計をして、XC フライトのコンテストに参加し、日次や年次で順位が表示されます。
グローバルでみると、いくつかこの種のウェブサービスがありますが、その中で最も盛り上がっている OLC の一つが、この XContest であり、もう一方がドイツで盛んな DHV Leonald です。
「コンテスト」と聞くと、順位がつくことを懸念する方がいらっしゃるかとおもいますが、ログを非公開にすることも可能で、アップしたログが2D 地図上でみれたり、フライトの統計情報を勝手に計算してくれたり、年間で管理できる点がログ管理用途として便利です。
上で説明した、SeeYou.Cloud の「LogBook」機能が Naviter 製品に特化したログ管理サービスなら、こちらはオープンなログ管理サービスとして使えます。
元々、ご存じのパラグライダーのナビゲーション用フリーアプリ XCTrack は XContest との親和性に優れ、フライトログを自動アップロード機能がありました。昨今では、Skytraxx 2.1 も含めて、様々な一体型GPSバリオでも XContest へのフライトログを自動アップロードする機能が付加されています。
(補足:SeeYou.Cloudも、IGC ファイル等対応しているファイルフォーマットなら、自社製品ではないデバイスのログファイルもアップロード可能なので、念のため記載しておきます。「Naviter 製品に特化している」とは、「親和性が特化している」という意味です。)
また、上述した Naviter の SeeYou Navigator でも、ver 3.0 から、XContest へのログアップロード機能(自動ではなくアプリから手動で行う形式)を実装します。
SeeYou.Cloud の「LogBook」機能と一部競合となるため、営利企業のサービスとしてはやや難しい舵取りだと思われますが、「コンテスト」と「オープンなログ管理」という観点での XContest の有用性とパラグライダー・ハンググライダーのパイロットへ人気という点については、Naviter も認めて白旗をあげたということかと思われます。
私個人は、マウンテンバイクが走行禁止とされることを防ぐために「走ったトレイルの写真をオンラインで公開することも、タイヤの轍を残すことも厳禁」とされる日本の文化からすると、パラグライダーの XC フライトで「フライト軌跡やランディング場所をオンラインで公開する」という行為に、ややリスクと抵抗を感じ、長らく様子をみていましたが、グローバルでの盛り上がりや、昨今では様々なアプリやサービスと連携しパラグライダーやハングライダー用の新たなサービスのデータソースとなっている状況を鑑みて、手のひらをクルクル返して、自分自身も使い、クラブのパイロットの皆様にもできるだけ使ってみて欲しいと思っています。
特に、有志の日本人パイロットの方が行っている、XContest を日本語化し日本でのフライトコンテストに特化した XJapan は、本当に素晴らしいです。日本語だし、楽しいし、レベルの高いパイロットが飛ぶ日本でのフライトルートを参考にするにも有用です。こういうデータの蓄積こそ正にビックデータで、だからこそグローバルでは XCTrack のデータを使った新たなサービスが産まれているのだろうと実感しました。はい、手のひらクルクルです。
今回は、限られたリソースとコストで運営する目的で年毎の登録となっている XJapan に迷惑をかけないよう、年ごとの更新が必要とされない XContest を利用した「年間フライトタイム」集計の仕方を見ていきたいと思います。
なお、長くなるため、ここでは XContest のアカウント作成やログファイルのアップロードの仕方の説明は割愛します。グランボレの会員様でご興味のある方がいらっしゃれば、直接ご説明とサポートをいたしますので、スタッフまでお声がけください。
(1) XContest での見方
ずばり、ログインして右側メニューの「My flights」をクリックすると、「Basic statistics:」と書かれた欄に、アップロードされたログファイルの年間集計が表示されます。
過去の年の集計をみたければ、上部の「★Myflights::World XContest 202x」のプルダウンで表示したい年を選べば、切り替えることができます。
年間フライトタイムの集計ならこれで十分です。が、更に CSV ファイルでのダウンロードが可能なのです。
CSV ファイルをダウンロードして表計算ソフトで開くと、下記の通りアップされている各フライトログについて、XContest で計算され見ることのできる統計情報がほぼすべて網羅されたリストとなっています。
当然に、このデータを更に集計・加工すれば、自分が行いたい角度でドリルダウンした解析をすることが可能です。あとは、表計算ソフトの使い方次第。
(2) XContest へのログファイルのアップロード
SeeYou.Cloud も同様ですが、ウェブサービスである XContest へのフライトログファイルのアップロード方法は、ベーシックに GPS バリオを PC に繋げてログファイルをアップロードする方法からはじまり、多種多様にあります。
いずれの方法でアップロードをするにしても、XContest については、一点共通する大きな注意点があります。それは、アップロードのタイミングです。
XContest は、そもそもが OLC であり、「コンテスト」という性質上、アップロードが可能なフライトログは 2週間前までのフライトに限られます。OLC であるから、平等性を保つため、アップロード期日の規則を設けているのです。
このため、XContest でログ管理をするのであれば、期限以内にタイムリーにログファイルをアップロードする必要が生じます。この点は、注意をしてください。上記で説明をした、同質のサービスとして使える SeeYou.Cloud の「Logbook」 は、古いログファイルでも問題なくアップロードが可能です。
ここでは、「ハックする」というテーマに沿って、グランボレ会員様でユーザーが多い Skytraxx 2.1 からの自動アップロードの機能に絞り「こんなことができる」というご紹介のみをいたします。
〇 Skytraxx 2.1 で OLC プロファイルを設定して自動アップロード
Skytraxx 2.1 では、下記の該当機能に関するマニュアルからの抜粋の通り、WiFi を経由した OCL へのフライトログ自動アップロードの為のプロファイルが複数登録できます。プロファイルは、XContest と DHV Leonald に対応しており、アカウントのユーザー名やパスワード等の情報を正しく登録をしておくと、フライト後 WiFi 経由し OCL にログが自動アップロードされます。
このアップロードの仕方では、まず Skytraxx 2.1 を WiFi 接続する必要があります。
Skytraxx 2.1 の WiFi プロファイルは 1アクセスポイントのみの登録が可能で、かつ、原則として Skytraxx 2.1 の画面上でソフトウェアキーボードによるパスワード入力をする必要があるため、複数の WiFi アクセスポイントを切り替えての利用がやや難しい仕様となっています。(毎度違う WiFi に接続してパスワード入力するという使い方が現実的ではありません)
このため、XContest にログライルを期限以内にアップロードするにあたっては、フライト後にどの WiFi に接続をするかを検討し、事前に WiFi プロファイルの設定をしておく必要があります。
グランボレの会員様で、Skytraxx 2.1 でこれらの設定を希望するお客様がいらっしゃれば、上記の検討からサポートいたしますのでスタッフまでご相談ください。
なお、グランボレで動作確認ができているのは、上記のマニュアルにあるテストログインで XContest へのログインが成功したところまでとなります。フライト後にログファイルを実際にアップロードする確認まではできておりませんので、ご了承ください。
〇 Skytraxx 2.1 を XCTrack に Bluetooth 接続し、XCTrack で自動アプロード
皆ざまご存じのパラグライダー用のナビゲーションアプリ XCTrack は、上述の通り XContest との親和性が高く、当初からフライトログの自動アップロード機能を備えています。
設定画面では下記の項目を登録します。
この設定により、XCTrack は単独で稼働でもログを自動アップロードすることが可能です。
上記の通りではありますが、XCTrack を単独で稼働させたログの場合、スマートフォンの気圧センサーや GPS センサーは一体型GPSバリオほどの精度ではないため、往々にして特に高度情報が不安定になります。
Skytraxx 2.1 は Bluetooth BLE 4.x をサポートしているため、XCTrack に対して BLE を通じて GPS と高度情報を提供することが可能です。
マニュアルの同機能の説明箇所を下記に抜粋します。
Skytraxx 2.1 の XCTrack との BLE 接続については、この Forwading の項目を「NMEA」に設定してください。また Bluetooth をオンにしたあと、XCTrack 側で設定メニューの「接続とセンサー」で外付けセンサーの設定することによりこの機能が動作します。
なお、SeeYou Navigator についても、BLE 接続での外部デバイスからの GPS や高度情報等のデータ連携をサポートしていますが、残念ながら、現在 Skytraxx 2.1 で利用されている通信プロトコルをサポートしておらず連携ができません。提供元の Naviter の HPでは「問合せをすれば受け付ける(対応する可能性がある)」という案内になっています。
〇 その他
そもそも、GPSバリオを持っていない場合や、持っていても古く筐体内で IGC ファイルの自動生成ができず、GPSDump 等のソフトウェアによるファイル作成が必要でフライト毎のログファイルの扱いに極端に手間がかかる場合、対応策はいくつかの方法が考えられます。
最も初期コストが安価なのは、XCTrack ならびに、SeeYou Navigator や Flyskyhy 等のスマホアプリを「ログデータの取得」の目的のみで使いこなすことです。これらのアプリを使いこなせれば、稼働するのはネット接続がされるのが当たり前のスマートフォンであるため、Skytraxx 2.1 や Skytraxx 3.1 程の容易さではないものの、オンラインでのログ管理とフライトタイムの集計のハードルは極めて下がります。
スマートフォンアプリを利用した場合、上述した通り、ログデータの特に高度情報が不安定になるケースが見受けられます。この場合、STODEUS の BlueBip を利用すると、実売価格 ¥42,900(税込)と 5万円を切る価格で、BLE をサポートし、気圧情報のみとなりますが、XCTrack や SeeYou Navigator に外部センサーとしてデータ連携が可能で、より精度の高いログデータの管理を安価に実現することができます。また、単独でも音だけソーラバリオとしても機能するため、フライダウン等、気軽に飛ぶときにも便利につかえる、ミニマリストなパイロットには最適な製品です。
また、上位機種の UltraBip は、実売 ¥62,700 とはなりますが、GPSも含めてスマホアプリとのデータ連携が可能であり、単独で音だけバリオとして機能することはもちろん GPSロガーともなるため、単独利用でのフライト後に Android 携帯を接続して手動でファイルをオンラインにアップロードすることも可能です。また、加えて、フライト中に日本語での音声案内をしてくれる優れた製品でもあります。
XCTrack や SeeYou Navgator のアプリの操作については、原則としてグランボレからのサポートは受けられずご自身で習熟いただく必要があり、上述した通り、時間も含めて想像以上にコストがかかりますが、時間と自信がある方でできる限り初期コストを安価に済ませたい方は、このような方法でのチャレンジを検討ください。
STODEUS 製品については、いずれも国内ではヘリグライド様とフィールドマウンテン様が取扱いをされていますので、ご興味のある方はお問合せください。
自信のない方や、このようなやり方が手間と感じる方、トータルのコストは一体型GPSバリオの方が安いとわかる賢明な方は、Skytraxx 5 や Naviter Omni のような WiFi や BLE に対応し SIM 搭載可能な現役世代の一体型 GPSバリオのミッドレンジ機を購入することをオススメいたします。本当に、フライトタイム集計はもちろん、様々なことが楽にできます。また、搭載している Flarm / Fanet+ が国内の電波区分に対応したため、より有用に使える可能性が高まりました。どんどんハックしていきましょう。
近年発売されている一体型 GPSバリオのミッドレンジ機の多くは、BLE をサポートし XCTrack や SeeYou Navigator との連携が可能なため、柔軟な拡張が可能でもあります。Skytraxx 5 や Naviter Omni 以外の XCTrack と GPSバリオの接続情報については、こちらもあわせてご参照ください。
余談ですが
パラグライダーパイロットの世界線は、ストイックにして、めくるめく変態の世界です。
SNS で垣間見るフライト頻度や空域の広さが異常な超変態パイロット。そんな中で、飛べない日は機材のメンテやそのための技術や知識の習得に努める「休日はパラグライダーだけ?」な超変態パイロット。機材やデバイスを自作する超変態。寒い季節の寒いエリアで、長いタスクフライトをこなした後もフリーフライトにいそしみ、コンディションが許す限り延々と降りてこないマゾ的ど変態。そんな方は、大概、フライトログを管理しており、すでに年間フライトタイムの集計を自分自身でされています。
更には、今回の内容をまとめている間に、シェルスクリプト(簡易のプログラム)を組み CSV 化したフライトログを集計しエクセルにデータを落としているパイロットの方を目にしましたよ。テキストファイルならログファイルを直接読むプログラムを組んだけど、バイナリーファイル(特定のアプリケーションソフトでつくった固有のファイル)だからそれは諦めたと。
悶絶。ほんと、変態です。
近年 SNS でのパラグライダー関連の知人とのつながりが増えてきたら、時々、年末に自分のその年のフライトタイム集計と共に1年間のフライトを振り返り、反省と来年の抱負等を投稿するパイロットの方を見かけるようになりました。
あれ、スゴイ良いですよね。目にして面白いし、反応ももらえて為になる。
でも、そんなことをしている貴方は、既に十分変態なのです。
ほんと、皆様、パラグライダーに対する素晴らしい情熱。愛すべき変態でアブノーマル。その昔、偉い人が「偏愛こそ人の魅力」と言ったかどうかは忘れてしまいましたが、変態パイロットの皆様を見ている限り「偏愛こそ最上級の嗜好」であることは疑いのない所かと感じております。
シェルスクリプトの件はさておき、そんな変態パイロットの皆様は、どうやってログ管理や集計、フライトの解析をどうやってしているのだろう?
自分はそこまでの変態ではないと感じる、フライトログの管理やフライトタイムの集計やログ解析をまだしていないスタンダードなパイロットの方も、ハックしてフライトタイムの集計だけはしましょう。
そして、冷静に自分のスキルやフライト頻度や肉体や精神を改めて見つめなおし、適切なグライダーを選択したうえで、その先に進めるなら、アブノーマルな変態的情熱をもつパイロットの皆様の後を追い、新たなストイック変態になっていただけたら嬉しい限りです。
そこまでやらないという判断でも良いんです。でも、それなら EN-B スタンダードクラスまでのグライダーで楽しく飛びましょう。グライダーによっては EN-B High でも良いと思う。それも、素晴らしいパラグライダーの楽しみ方です。
情熱が尊いことはあっても、ハイクラスのグライダーに乗ったからって、ストイックだからって、ちっとも偉いことなんてありません。私は、変態パイロットの皆様とは違い、至極まっとうでスタンダードな人間であるため、本気でそう思います。
最後に、このページのヘッダー画像は、AI で生成たロボットがパラグライダーで空を飛ぶ絵です。このページのヘッダーに何故そんなものを生成しようとしたのかは、忘却の彼方です。