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家族との確執

 

予備校を辞めると、勉強もほとんどせず(やっていたのは図書館で英語の児童書を読んでいたことくらい)、心を休めることに専念していたのだけど、今までの心の傷のためか、思い出したくもないこと・思い出したくない記憶が頭の中を襲ってくる。また高校の頃に苛まれた諸々の症状が再発してくるのではないかと、不安になる。

もう今までの記憶全て消したかった。苦しみが続くと大学進学への意欲も薄れてきてしまった。

 

そこに加えて、弟の存在だった。

高校の頃から、弟との仲も険悪になっていた。弟は小さい頃から、両親に大切にされて育ってきた。何をするにも弟は自由。ぼくは親がこうしろああしろ(中学受験とか、習い事とか)をさせられた。

弟は幼少期から発達障害のようなものがあり、勉強とかあまりものを覚えられなかった。なので勉強できなくていい、という教育方針で、自由奔放に育てられた。そういった両親の弟への諦めが、ぼくに対して過度に期待を寄せる一因となった。

 

※ぼくが中学受験の勉強をしていた頃は父と母の仲が険悪で、毎日離婚するしないの言い争いをしていた。父は母の首を絞めたこともある。父から「お母さんを見返すために中学受験、合格しろよ」と言われたこともある。ぼくはどちらかの優劣をつけるための道具のようなものとされた。

そもそも中学受験自体、父が望んだものだった。

 

で、幼い頃の弟は自由奔放に育てられたこともあって、自分勝手で、誰に対しても口が悪く、とにかく自己中心的だった。その性格は高校生になっても変わらずだった。

ぼくは高校で嫌という程、自己中心的で他人をよく嘲笑う人々を目にしてきた。弟の態度を見ていると、そうした人々を思い出してしまうのだった(この症状は『強迫性障害』と呼ばれるものらしく、一度嫌な考えが頭に思い浮かんでしまうと払いのけられない強迫観念に苛まれていた)。

必死に通い続けた高校をようやく卒業できたというのに、せっかくこの心を休めて、今度こそしっかりと大学入試を受けられると思ったのに、家にいてさえもなお高校時代のように苦しめられる。

 姉もぼくのことを執拗に見下してくる高慢な人でなるべく関わりたくなかったが、それ以上に弟のことをもう目にしたくなかった。高校生活での苦しみをできる限り思い出したくなかった。

そして、弟の姿を目に入れることを一切しないようにした。弟なんていないんだと考えるようにした。

 

けれど、八月。夏休みの時期で、弟も高校が休みなため、家の中で顔を合わせてしまう時がある。

ある時、弟の傲慢な態度についに我慢できず、丸めた新聞で背中を一回パシンと叩いてしまったことがある。

強く叩いたわけではないが、弟は大袈裟にわめいて、自室に逃げていった。

今までずっと自分から逃げなければいけないと思ってきた。それを自分の手で退かせたのだ。この心を考えての、やむを得ない行動だった。本当は、もう一切関与したくなかったのに。

そういうことがあってから、食事の時間も別々にして、その姿を一切見ないようにした。

それでも鉢合わせしてしまった時は衝突した。

そんなことが三回ぐらいあっただろうか。

弟は両親を味方にして、両親は共に「お前なんて出ていけよ」「お前にはがっかりだよ。高校だって、あんな学校に入りやがって」「お前がそんなに嫌な奴だったとは思わなかった」「お前なんて、もう信じないから」罵声の嵐だった。

あの時、言われた言葉は本当に苦しかった。悔しくて、苦しくて、涙が溢れ出てきた。必死に抑えようとしても、でもやっぱり涙が零れ出てくる。今まで自分が必死に我慢して過ごしてきたことを思い出してしまって。

ぼくの言葉は一切聞こうとはしなかった。やっぱり、この家族の中では、ぼくのことは絶対に理解してもらえないんだと思った。

ずっとそうだった。何かすると、必ず蔑まされて返されてきた。理解しようとする気なんて一切なく、ただ、迷惑そうな対応をされるだけだった。向こうは一見心配していそうな素振りを見せながら、結局は蔑みの言葉を投げかけてきた。

 家族と接してきて、今まで、何度死にたい死にたいと思ってきたか分からない。自分に絶望するだけでなく、家族からも厄介者扱いされる。

言われた通り、この家から出ていって、もう小説を書くことも諦めて、死んでしまいたい、とそう思った。

でも、まだ夢を失いたくなかったので、必死に我慢した。頑張って高校卒業した意味がなくなってしまう。我慢して、自分の部屋で必死に声を上げずに泣き続けた。

自分の部屋にこもる日々が続いた。時には、一日食事をしない日もあった。それでも、親が気にかけてくれることはなかった。

あの家族は、ぼくがいなくなったって、大して変わることはない。なら、誰にも気づかれない中で、死ねばいいと思ってた。死んだ方があの家族にとっては幸せなんだろう。だから、誰にも知られずに、誰にも気づかれずに死んでしまっていたかった。死ねば全て関係なくなるんだから、何も考えなくて済むんだから、家族とも全くの無縁になれるんだから。

結局、高校を卒業しても、変わらない苦悩の日々を送っていた。死にたい……死にたい……と、自分を否定することばかりだった。

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