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【読書感想文】高原のフーダニット/有栖川有栖 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

少し長めのお話が3つ収録された、短編集より中編集に近い作品。
旅情感溢れる2作と、奇妙な味を含んだ異色の1作に浸れる新しい作品集です。


『神話の島』で名探偵の推理が炸裂【オノコロ島ラプソディ】

新しい編集者とはなんとなく気が合わない上、仕事のネタに煮詰まっていた有栖は、気分転換も兼ねて友人の火村に連絡を取ってみる。すると、火村は休暇で訪れた洲本(淡路島)で殺人事件の捜査に巻き込まれていた。しかも火村が知っている元刑事の打保が、容疑者のアリバイに関与しているかもしれないという。有栖は早速洲本へ行くことを決めた。
廃品回収業の男性が殺害されたのだが、容疑者として浮上しているのは彼に借金をしている長益という男性。しかし打保が証言するには、彼には立派なアリバイがあるし、長益の証言にも矛盾点はなさそうだった。更には被害者に借金をしている女性もいることがわかったが、こちらはアリバイも微妙なところ。だがやはり証拠としては弱く、捜査はなかなか進まなかった。しかも火村は大学に戻らなければならず、有栖は仕方なく観光をすることに。だが、それは偶然にも火村にヒントを与えることになった。果たして犯人は誰か、どうやって犯行を成立させたのか、アリバイは崩れるのか…待ち受ける驚愕必至のトリックとは。
相変わらず奇天烈な推理を披露する有栖に、それを否定しつつも取りこぼさない火村の見事なコンビネーションが楽しいお話。また舞台が淡路島ということもあり、地図もついていてなんだか有栖たちと観光しているような気分にもなれます。ただ、動機は下らないしトリックはびっくりの一言です。火村が「悪ふざけ」と吐き捨てるのも納得です。

眠る間に見る奇々怪々なシーンたち【ミステリ夢十夜】

「こんな夢を見た。」から始まる夢のお話が詰まった10編。
雪山で遭難したり、殺人事件の容疑者にされたり(これが一番多い、不憫)、福男選びに参加したり、山村で推理をしたり、精神カウンセリングを受けたり…まさに『夢の中』と言える滑稽で奇妙なストーリーが続いていく。
夢は現実的なこともありますが、大半は非現実的なもの。その中にちょっとしたミステリ要素を組み込むという、有栖川先生ならではの作品です。ロジカル推理を魅力としているので驚く方もいるかもしれませんが、実はこんなお話も時々書かれています。【世にも奇妙な物語】のような世界観が癖になります。

殺人が起こったのは爽やかな風吹く場所【高原のフーダニット】

有栖の元にかかってきた1本の電話。以前起こった事件の容疑をかけられた末に火村が無実を証明した大朔栄輔という人物からで、火村に連絡が取りたいと言う。そして火村が話を聞いたのだが、彼は双子の弟を殺害してしまったため自首すると告白したのだ。しかも詳しいことは聞かされず、一方的に切られてしまう。
続報を待っていた有栖だったが、更に驚くべき事態へと発展。栄輔までもが誰かに殺害されてしまったのだ。細かい場所は違えど、同じ兵庫県の高原内で遺体が発見された。悔やむ火村と共に、有栖は高原へと向かう。
警察と共に聞き込みをする二人だったが、芳しい情報は得られず推理も進まない。動機を持った人物もいるが確定するには弱く、容疑者も限られているのに行き詰まりを迎えていた。
しかし、あるものが見つかったことで事態は変わる。栄輔が弟を殺害したことを知った人物からの脅迫文が出てきたのだ。しかも、彼の胃袋の中から。脅迫者はどうやって殺人を知ったのか?何故脅迫した相手を殺害したのか?そして、それを行った犯人は一体誰か。
重要となるのは、ずばりタイトル通りフーダニット(犯人)です。凶器は判明しているし、動機では真相に辿り着かない。ならば真犯人を見つけ出すしかない。その犯人の特定までの過程があまりにも鮮やかすぎて、毎度のことながら恐れ入ります。犯行現場を見てきたかのように話す火村は、犯人にとって恐怖でしかないでしょう。
また火村の態度がいつもと違うので、それも面白さの一つ。有栖も驚く珍しい火村の姿、必見です。

旅の光景と摩訶不思議な世界を堪能する変化球ミステリー集

2作は王道な火村英生ミステリーですが、それぞれいつもとちょっと雰囲気が違うので読んでいて飽きません。まあ二人の車がいつダメになるのかハラハラするのは相変わらずですが。
1作はかなり異色ですが、シリーズの登場人物が多く思い浮かべながら読み進めるのが楽しい作品です。自分がこんな夢に入り込んだらどうなるか、なんて想像も掻き立てられます。
いつもと違う作風に興味がある方は是非読んでみてください。
ではでは、また次の投稿まで。

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