じいの葬祭24
家についた私達は、玄関に荷物を置いて居間に向かう。
ばあは暗い中をずんずん進んで、明かりもつけずに玄関に上がっていたため、少し心配した。
にゃあにゃあと白と茶トラの子猫が軒下から出てきており、また野良猫が増えたのかと驚く。
この島には野良猫が多い。至る所に生息しているため、家でご飯をねだることは少なくないのだ。以前訪れた時は三毛猫と黒縁の猫であったが、その子供だろうか。
「ただいま……」
「おかえり」
母は私の声にそう返し、電子タバコを吸っている。
寝起きなのか、ぼんやりとした表情だ。
愛犬の間抜けな鼾が、心地いいBGMになっており、荒れていた心を落ち着かせる。
点けられたテレビの音量は小さく、面白みのないローカルニュースが流れていた。どこか、ふわふわとした高揚感を抱くのは、県を跨いだ故だろうか。
長休暇に帰省する身としては、普段見慣れない番組は特別感を実感させるのだ。
ばあはえっちらおっちらとベットに近づき、脱力したように座り込んだ。弟は、気づかぬうちにじいが使っていたベッドに座っている。
私は、ばあの後ろにまわり込み、ベッドに上がった。やはり体は重だるく、そのまま横たわってしまったが、なんとか起き上がり母と顔を合わせた。
「ハルもおかえり。来てくれてありがとうね」
「いや、来るのは当然やん。つかさ、普通休み取れるよな? 店長に許可取ってないけど帰ってきた」
「え、連絡はした?」
「うん。しかも昨日は『せめて明日からなら……』って言ってたし」
「ならいいか」
弟は続けて「クビになったら新しいバイト始める」と言い、母はそれに賛同した。
「シノ、大変だったよ。もう、サクラ泣いてたからね」
「連絡きたから知ってるよ。大丈夫ね、サクラ。なんか言われた?」
ばあの深刻な声に母は頷きながら私に尋ねる。私が答えるより先に、弟が口を開いた。
「めっちゃ言ってたよ。サクラ泣いてるのにずっと言い続けるから俺めっちゃビビった」
「え、サクラがなんか言われたの?」
「いや、サクラにお母さんのこと言ってた」
弟の言葉に、母は神妙な顔で「そう……」と相槌を打つ。私は、じわじわと熱が上がり始めた感覚を覚えながら、口を開く。
「……まあ、あれよ。お母さんが悪いって意味で言った言葉じゃないでしょ? って確認したら、『いや、シノが悪いのよー』って感じで返されて……そこからはパニックなった」
「はぁ……そうかぁ」
「私とハルに言ったからさぁ、全部お母さんが悪いって。普通子供に言わんやん、そんなこと。だって実の母で、実の子供なのに……」
「サクラたちの前で言ったわけ?」
「うん」
「はぁ……信じられんね」
母は額を手で覆いながら深くため息を吐く。
まさか、そこまで配慮のない人間だとは思わなかったのだろう。
すると、ばあが我慢ならないとばかりに声を上げた。
「シノ。全部ミヨが悪いからね。サクラ可哀想よ。もう、泣いて気分悪くしてトイレまで行ったから」
その言葉を受け、母は私に視線を移した。
「ごめんね、サクラ。体調は?」
「えー……パニック発作なったから、多分発熱と倦怠感? あと頭痛」
行儀は悪いが、寝転びながら返答する。
途端に頭を揺さぶるような眩暈が襲ってきて、ぎゅっと目を瞑った。
「多分寝不足もあるだろうね。子供の相手してたから。少し寝ときよ」
「うん」
私は母の言葉に力無く答え、そのままぼーっと横になり続けたのだった。
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