せめて紅生姜だけでも #文脈メシ妄想選手権
(いつも一緒にいられるけど永遠に片思い、たまにしか会えないけどすでに両思い。どっちがいい?ってこれ究極の2択じゃね?)
毎日繰り返してしまう、馬鹿みたいな自問自答。
そいつなんかよりずっと、彼女と一緒にいるんだからな。彼女から恋愛相談や惚気を聞くたび、そんな意地で笑っていた。
高校生活の3年間、私は短すぎるショートカットにスカート丈は膝の真ん中。深夜、鏡で目力の鍛錬を怠らないイタいやつだった。女子校だけど、自分は女子じゃねえんだよなあって、浮いていた時期だった。規定通りの着こなしが逆に目立つ。
彼女はとてもスタイルがよく、腰に届きそうな黒髪ストレート。ちょっと離れたいたずらっぽい目。みんなが読まない本を読みみんなが聞かない音楽を聴く、大人っぽくて、蠱惑的な魅力のある人だった。
よく笑う人で、つられて私もよく笑うようになった。二人でいればいつだって笑えた。箸が転がってもおかしかったし、花が揺れてもおかしかったし、口から溢れる全ての言葉が虹色をしていた。
好きな歌手はセルジュ・ゲンズブールその他たくさん。彼女自身はジェーン・バーキンみたいな人だった。
軽音楽部でギターボーカルを担当していた彼女と文芸部にいた私は半分帰宅部みたいなもので、私は塾へ行っていたし、彼女は学外でも活動していた。
暇さえあれば喋って笑って、お弁当を一緒に食べて、部活のない日は一緒に帰る。帰り道の方向が同じで、乗り換え駅まで一緒に帰れる。
つり革につかまる私の前の椅子に座る彼女。制服のプリーツスカートから少しのぞく膝は白く骨ばって、どこか人形じみた印象を受ける。
とはいえ人間、生身も生身、高校生の放課後たるもの当然腹が減っている。
その日は、乗換駅の吉野家の2階のテーブル席へ向かった。
夕飯までのつなぎなので、牛丼・小盛。トッピングはなし。七味と紅生姜でせめてものちょい足し。
いつもどおり、ウケた授業の話や先生の話、彼女の家族の話、私の家族の話、音楽の話、それから彼との関係の話。彼女は学外でも活動していて、話はいろいろ聞きながらも、何人と付き合っているのか私にはわからなかった。
そっか、そっか、なるほどね。
え、そんなんあり!?
いや、それはそうだよな〜!!
うん、うん、うん、あはははは、まじか〜!!!(笑)
........
そいつなんかよりずっと、僕のほうが彼女と一緒にいるんだからな。彼女から恋愛相談や惚気を聞くたび、そんな意地で笑っていた。
いや、ちがうんだ。
いつも一緒にいられるけど永遠に片思いより、たまにしか会えないけどすでに両思い。の方がいいに決まってんじゃん。
なれるもんなら、そうなりたいよ。こちとら、告白したら、ぜんぶ終わっちゃうんだからな。
彼女とは、どうなることもぜったいにできないけど。
彼女の幸せが僕の幸せなんだって言い聞かせて、笑ってたよ。
胸の奥が毎日ちぎれる。それでも彼女の目線で修復されてしまう。何度だって、ちぎれる。ちぎれる側からその可愛さで修復してくるんだから、叶わない。
君と一緒にいるだけですべて楽しいし、おいしいんだけどさ、
なんつーかさ、もう、、、
せめて紅生姜だけでも、たくさん食べてやる。
※たぶん実話ですが、妄想入り混じってる可能性は否めません。
こちらの企画に参加させていだきました。文脈メシ考案の坂ルイスさん、企画のマリナさん・あきらとさん、素敵すぎな企画ありがとうございます!!
メシって文脈で(も)食ってたんだな〜 って。しみじみしちゃう。
文脈メシをこのnoteで初めて知った方がもしいらっしゃれば、ぜひタグを辿って見てください。おいしい作品ばかり。ぜひ。
池松さん、130以上?の作品読破、ほんとお疲れ様です。締め切りギリギリにすみません、読んでくださりありがとうございます!
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