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昔の男:未来の経理候補にしてくる人①
「ほな一緒にいこうや」
意外な誘いにだったが、夏の風物詩を楽しみたい私は、
喜んでその提案に乗っかった。
***
彼との出会いは、私が働いている居酒屋だった。
本業の傍ら、生活費を補填するために働いていた。
こじんまりとした居酒屋は、企業の多いエリアで人気で、常連さんも多かった。店長とバイト2人程度で回していたので、お客様からごちそういただくことも多かった。
彼は、そんな常連さんに連れられてやってきた。
同い年だったので、よく飲みに来るうちに仲良くなり、そのうち彼はひとりでも飲みに来るようになった。
特に下心は感じていなかったし、友達ができたような気持ちだった。
そんな日々がしばらく続いて、季節は廻り、夏が来た。
働いてばかりの私は息抜きがしたくて、
「店長~夏らしいことしたいです~!花火大会いきたい!花火!」
とカウンターの中で嘆いていた。
それを彼は聞いていたのだろう。
店長が裏で休憩をしているタイミングで、花火大会の話を持ち出してきた。
「神戸で花火大会あるらしいで」
「行く人おらんかったらいけないですもん」
「ほな、一緒にいこうや」
びっくりした。そんな夏のデートと言わんばかりのお誘いにも、彼は下心を感じさせなかった。さも、仲の良い友達を誘うかのように。
さすがに男女ふたりで花火デートとなれば、意識をする。
アラサーですもの。
浴衣着ようかな。気合い入れすぎかな。どうしようかな。
悩みながらも、すごく楽しみにしている自分がいたし、彼のことは、正直まったく好みではなかったのだけれど、夏の魔物だろうか、恋の予感がした。
しかし、当日が近づいているにもかかわらず、連絡がない。
電車の時間は?どこで待ち合わせするんだろう?そもそも何時に待ち合わせ?
さすがに前日になっても連絡がないので、こちらからLINEをした。
返事がない。そして当日だ。
朝からもやもやしている私に、お昼に彼はLINEを返してきた。
「ごめん。風邪ひいた。」
がーーーーーーーーーーん。
どうやら、ちょうどこの1週間、体調を壊してしまい、熱もでていたので、
連絡もろくにできす、当日になっても結局治らなかったというのだ。
正直なところ、
なぜもっと早くに言わなかったのか?
寝込んでるんだからむしろ連絡できただろうに?
無理してこられてもそれはそれで気を遣う。
…と不満いっぱい胸いっぱい。
文句を言っても仕方ないので、お大事にね、と連絡をやめた。
花火大会、行きたかったなぁ…と思いつつ、予定のなくなった私は、
コンビニへやけ酒を買いに向かったのだった。
***
「いらっしゃいませ~」
入口に立っていたのは、彼だった。
カウンターに通して、店員としてのやりとりだけをし、話しかけられないように忙しくしていた。
…少し、拗ねていた。私が。
彼女でもない私が、あんまり不満をぶつけるのも違うかなと思って、
ドタキャンの日から、連絡はとっていなかった。
彼は、私が賄いを食べる時間まで粘って、話しかけてきた。
「ごめん。俺もほんまにいきたかってん。代わりにおごるから。」
花火大会とビールでは、全然違うのだが。その後のお詫び飲みにいったとき、お互いめちゃくちゃ酔っぱらって、酔った勢いで私は、
「なんなん!?花火大会誘って思わせぶりちゃう!?どう思ってんの!?」
「すきやから誘ったに決まってるやろ!」
と、向こうも予定外の告白になってしまったようだったが、
なんだかんだで私たちは付き合うことになったのだった。
つづく。