上方落語についての簡単なメモ
『シェアする落語 第33回 笑福亭希光』にご予約いただいたお客様から「上方落語と言われてもよくわかんない」との声をいただきましたので、簡単に解説します。
もう、本当にざっくりと解説します。そもそも落語は落語で、別に区別しなくても楽しめるようになっているので、気にしなくてもいいんですけどね。
ただ他のエンターテインメント同様に、知識があるとより楽しめるのが落語、という面も確かにあるので、ほんとに簡単にさらっと書きます。
そもそも上方って?
落語ファンは気軽に「上方」って言っちゃうけど、考えたらそんなに使われる言葉じゃないかもしれませんね。
簡単に言っちゃうと京・大坂のことです。いまの京都と大阪ですね。江戸時代の言葉です。
江戸時代「江戸」は世界有数の巨大都市でした。しかし歴史は浅く、武士の人口が多かった。
これに対して京には帝(天皇)がいらっしゃったし、大坂は米を中心とした経済の中心地だったので、文化の中心はあくまで京・大坂でした。
京・大坂のほうが「上」だったから「上方」です。
江戸に暮らす人にとって、米・酒・飴など「上方」のものは「よいもの」として珍重されることが多かったのです。これらは「上方」から来たので、「下りもの」と呼ばれました。
下りものが良いものなので、その逆は……ということで、「くだらない」の語源はこの「下り」「下りもの」だったりします。
落語も「下りもの」
話芸の文化も、やはり「上方」が中心に発展しました。
武士より商人が多く、またイベントスペースとしての神社仏閣が多いのも有利でした。
こうして生まれた芸能の一つが「落語」です。つまり落語は上方生まれなんです。
江戸時代、徳川将軍でいうと四代家綱・五代綱吉のあたりになると、物騒だった世の中もだんだん落ち着いて、人々に娯楽を求める余裕が生まれます。
その頃登場した「職業落語家第一号」とされる人物が露の五郎兵衛という京の人です。二人目が米沢彦八、こちらは大坂の人。二人とも神社仏閣の境内や路上など人の集まりそうな屋外で演じられる「辻咄」(つじばなし)で人気を集めました。
この二人に少し遅れて、京都・大坂(どちらなのか不明)に鹿野武左衛門という人が現れ、上方から江戸に「下って」、江戸で落語を披露して、評判になっています。つまり江戸にとって落語とは、最初っから「下りもの」だったんですね。
「江戸落語の祖」武左衛門が「下りもの」として江戸で落語を披露したときに、江戸の客に合わせていろいろと工夫をしました。それが「室内でやる」ことです。
これに対して武左衛門は、より噺が聴きやすいお座敷で演じたんです。
このときに仕草を強調したので「辻咄」に対して「座敷仕方噺」と呼ばれたそうです。こんなことはまあ、覚えなくてもいい話で。
大事なことは
落語は「下りもの」として上方から江戸に来た
江戸落語は、上方落語を元にして、江戸の客に合わせて工夫した
この二つです。
落語は落語、でもちょっと違うといえば違う
その後も落語は上方から江戸に下りました。
まずネタ(演目)です。
実際、現在「東京の落語」として演じられている古典落語の多くは、もともと上方落語にあったネタです。江戸に移すときに、江戸のお客さんに合わせた工夫が加えられていることがほとんどです。
有名なところでいうと、「時そば」というネタがありますね。あればもともと上方落語の「時うどん」です。
両方聴いてみると、ほぼおんなじ噺だと言うことは誰でも気が付きます。逆に、その違いもなんとなく、わかります。
まあ、なんとなく、です。
もう一つ「名前」も上方から江戸・東京に「下って」います。
「桂文治」「桂三木助」「桂小南」どれも東京の落語会にとって大切な名前であり、きちんと継承されて当代もそれぞれ活躍していますが、もともとは上方落語の名前(名跡)です。
とはいえ、とりあえず「大阪の言葉」で演じられる落語が上方落語、くらいに思っておければいいです。そんなに不便なことはないです。
あえていうと、上方落語のほうが「賑やか」なことが多いという傾向があります。
元が「辻咄」つまりで屋外でやっていたので、他の見世物に対抗し、客を引きとめるために楽器を使って音を出し、賑やかに演じられていました。
現在でも上方落語では「見台」と呼ばれる台を前に置き「小拍子」で叩いて音を出す演出が使われます。
また噺の最中に三味線や太鼓の音を入れる「はめもの」という演出が多いのも、上方落語の特徴と言えます。
ですが、小拍子やはめものが必ず入るわけではないので、あくまで「傾向」ですね。はめもの入れるためには落語家の他にお囃子(下座)と呼ばれる三味線奏者と、太鼓担当(前座など他の落語家が務めることが多い)が二人必要なので、『シェアする落語』のような小さな会ではなかなかできません。
ということで、まとめ
落語は落語なのでそんなに変わらない
傾向としては「賑やか」「音(小拍子・三味線・太鼓)が話の途中に入ることがある」
東京の落語家が演じる古典落語はもともと上方落語で、江戸向けに直したものが多い。
こんな感じでしょうか。
ということで、随分端折りましたけど、それでも長くなっちゃった。
あとは実際にいろいろ聴いてみてください。
ぜひぜひ。