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令和6年度NHK新人落語大賞 優勝は桂三実さん 軽く分析

はい、今年もちらっと書いてみます。


今年も生放送

やっぱり生が良いです。NHKスタッフ・関係者の皆さんありがとうございました。いや、大変だと思いますよ。ほんと。

出演者を軽く分析


で、今年もこの表を作った。
昨年は桂慶治朗さん49点の圧勝だった。今年はどうだろうか。

令和六年度 NHK新人落語大賞 審査結果

桂三実さん48点で優勝。
2位2人に2点差つけているので完勝と言っていい。
「5人の審査員全員に評価されないと優勝できない」ここは変わらない。
ただここ数年の優勝者は49点以上だったかな。

2位の春風亭一花さんと昔昔亭昇さんの傾向は似ている。10点2・9点2・8点1。ただ10点をつけた審査員が一人も合致していないのが面白い。
一花さんに10点つけた桂文珍師匠が昇さんに8点。なかなかに激しい。

いずれにしても、唯一8点以下の点数がついていない三実さんの完勝と言える。

標準偏差を見るといずれも1未満で。昨年の春風亭昇羊さん(1.2)、三実さん(1.1)のような極端なばらつきはなかった模様。

一言でいうと「それほど意見がバラけることもなく、三実さんの完勝」ということでよいかと。

今年も審査員の傾向が面白い

さて、毎年面白い審査員の傾向。
昨年はコメント含めて金原亭馬生師匠の審査が面白かったんだけど今年はどうか。

実は過去の傾向から大きく変化した人がいる。桂文珍師匠である。
もともと文珍師は、片岡鶴太郎氏と同様に「点差をつけない審査員」だった。点数のばらつきを示す標準偏差は2年連続で0.5。
それが今回、文珍師の標準偏差は0.8、そして採点の平均は9.0で昨年からなんと0.6点低下している。
一言でいうと「昨年より厳しい採点で差をつける」ようになったのだ。傾向としては柳家権太楼師に近い。
一方で鶴太郎氏は従来通りの「点差をつけない」パターンを貫いている。

もうひとつ、今年の「評論家・タレント枠」審査員(という言い方をしているのは僕だけかも)は堀井憲一郎氏と赤江珠緒氏。2年前の東京開催のときと同じ。
堀井氏はもうおなじみ。赤江氏はたしか2回目かな。
この枠の審査員は、比較的点差をつける傾向がある。
標準偏差を見ると堀井氏0.7、赤江氏0.9とまずまず差をつけているのだが、今年は権太楼師も文珍師も0.8なので「差をつけるかどうか」については違いはなく、今年は「鶴太郎氏だけが差をつけない」結果となった。ちなみに講評で「今年は大接戦」と言っていた赤江氏ひとりだけが「7点」をつけている。

次に相関係数を使って審査員の採点傾向をみてみる。

審査員間の相関係数

相関係数は+1〜-1の間で、値が大きいと相関が大きい、つまり採点傾向が似ている、ということになる。0は相関が見られない、マイナスは逆相関であることを表す。

逆相関?
これ説明します。

文珍・鶴太郎の逆相関

文珍師と鶴太郎氏

さっきの表からお二人だけ抜いてきた。
もう一目瞭然。
どちらも2人に10点つけてるが、見事に合致していない。昔昔亭昇さんに関しては鶴太郎氏10点に対して文珍師8点。見事に逆。これが逆相関。
昨年は広瀬和生氏と金原亭馬生師の間でほぼ同じような傾向が見られた。

つまり、今年も「価値観の違う審査員全員に評価された人が優勝」という仕組みはきちんと機能していたとも言える。

だからこそ、優勝には価値があるわけで。はい、去年と同じこと言ってます。

最後に感想です。

  • 桂九ノ一『天災』(42点)……まあ出順の不利は否めない。でもエキュスキューズから入ったのは損だったのではないかと。メリハリの効いた力強い高座は良かったのに。

  • 鈴々舎美馬『死神婆』(41点)……一言でいうとコンテストなのに詰め込みすぎ。情報量が多すぎて僕は消化できない。消化できた客は楽しくてしょうがないだろう。権太楼師がおっしゃるとおり「落語なのか一人芝居なのか」つまり演劇的で、例えばキャラごとに声を作りすぎている。ただ、あの方言(鹿児島弁?)のスムースはなんだろう。もしかしたらとてつもなく耳が良いのでは。だとすると、これからますます腕を上げるはず。次回以降の優勝候補かな。

  • 春風亭一花『駆け込み寺』(46点)……これで取れないのかー。きついなー。4点も引かれる理由が僕にはわからない。昨年もそうだったが、何が足らないのかわからない。堀井先生に聞いてみたい気がする。人間の愚かさと可愛さがこんなに見事に表現された落語はそうないだろう。まだ資格あるはずだからまた挑戦してほしいけど、うーん。とりあえず僕のなかでは堂々の2位。

  • 桂三実『早口言葉が邪魔をする』(48点)……とにかく次々と早口言葉が出てくる落語をわざわざ作るかね。しかも全く噛まない。技術の高さを見せつけるために実演難易度の高い作品を創ったのか。冒頭からぐっと聴き手をつかんで畳み掛けるように拡散し、収束してサゲる構成も満点に近い。先日、上方落語家としてはじめて彩の国落語大賞を獲った兄弟子の桂三四郎師匠といい、桂文枝一門の創作落語はほんとすごい。虚構が現実を浸食してくるというSFっぽさは上方落語の伝統かもしれない。

  • 昔昔亭昇『やかんなめ』(46点)……冒頭の客いじり・アジテーションに時間かけ過ぎかな。「楽しんでいただきたい」って言ってる暇あったらすぐ楽しませてよ。汗をかきかき・力いっぱいの高座を楽しいと見るか暑苦しいとみるか、好みは分かれる。侍と可内(べくない)がなんかわちゃわちゃしているのはちょっと好き。権太楼師のおっしゃるとおり可愛さがあるし、年齢重ねるとまたいい味も出そう。2位は大健闘。

  • 笑福亭笑利『天狗裁き』(45点)……口調も鮮やかで良いテンポで心地よい。別に足らないところはないと思うけど、ハイレベルな戦いの中でちょっと埋もれた感があったかな。

いずれにしても、みなさん凄いですよ。きっちり稽古して仕上げて来てます。度胸もいい。大したものです。

今年のハイライトは春風亭一花さんの「囲碁気をつけます」でした。

ではまた来年。

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