令和4年度NHK新人落語大賞 立川吉笑さんが受賞
(写真左:2022年11月『立川吉笑真打計画』のポスター 写真右:2012年『あかぎ寄席』出演後に撮影)
いやあ、めでたいですね。
今年のNHK新人落語大賞は、立川吉笑さんが獲った。
わん丈さん100点 吉笑さん120点
およそ10年くらい前、まだ前座だった頃から吉笑さんが好きだったので、感慨深い。↓証拠ね
1年かけて磨いた自作の傑作『ぷるぷる』を完璧なパフォーマンスで披露し、5人の審査員が全員10点をつける、なんと50点満点の完全優勝。
2位の三遊亭わん丈さんは惜しかった!
48点は優勝してもおかしくないレベル。まくらと連動するクスグリは素晴らしい工夫で、人物造形といい、語りのテンポといい、あの尺の古典落語としては最高、というかやはり完璧な『星野屋』だった。
個人的にはわん丈さん100点、吉笑さん120点という感じでございました。どちらも僕が主宰する落語会『シェアする落語』に出演いただいたことがあり、わん丈さんは次回12月4日のシェアする落語 第30回に2回目のご出演ということで、今から楽しみなわけですよ。
ちょっと計算してみる
NHKの新人落語大賞は、5人の審査員が10点満点で評価し、合計得点が一番多い人が優勝となる。
今年の審査員は、
桂文珍
三遊亭小遊三
片岡鶴太郎
赤江珠緒
堀井憲一郎
というメンバー。小遊三師匠は体調不良で出演できなくなった柳家権太楼師匠の「代演」。
当然、評価は審査員によって割れる。どんな感じかみてみてよう。
まず、審査員でもっとも点数が辛い、つまり点数を低くつけたのが堀井憲一郎氏(平均8.7)。一番高い点を付けた桂文珍師(平均9.7)とは実に1点の差がある。
ただ、演者によって差をつけているのは赤江珠緒氏で、10点2人・9点2人・8点2人をつけて、数値のばらつきを表す標準偏差は0.8。これに対して桂文珍師と片岡鶴太郎氏は0.5であまり差をつけていない。
演者側から見ると、審査員ごとの評価が最も分かれたのは、露の紫さんで標準偏差は0.8。10点も取りつつ、2人から8点をもらっており、ばらつきが比較的大きい。
また、総得点の平均は45.5で、これを超えたのは優勝の吉笑さんと2位のわん丈さんだけ。事実上この二人のマッチレースだったわけで「わん丈さん100点 吉笑さん120点」がまんざら間違いでもないことがわかる。
さらに前回・昨年の採点と比べてみよう。
審査員を見ると広瀬和生氏の採点が個性的で、平均8.7・最高10点最低7点・標準偏差1.1できっちり差をつけていることがわかる。
一方で、今年の標準偏差0.5と「差をつけなかった」片岡鶴太郎氏と桂文珍師は平均9.3・最高10点最低9点・標準偏差やはり0.5で「差をつけない方針」は2年連続のようだ。
ただ文珍師は今年の平均点9.7、昨年より0.4アップしている。
演者で見ると優勝の桂二葉さん50点満点(女性落語家として初優勝)、2位の笑福亭生寿さん48点。つまり今年と同じ。
点が割れたのは三遊亭好志郎さんで0.8。7点から9点まで幅がある。
平均を超えたのは3位の春風亭昇也さんまで。
不思議なもので、こうして計算してみると、自分の印象とそんなに差がないのが面白い。
審査員には「点に差をつける」「つけない」2タイプがいて「差をつける」人の意志が最終的に結果につながる。前回は広瀬和生氏、今回は赤江珠緒氏、前回も今回も比較的差をつけているのが堀井憲一郎氏、ということになる。
……という傾向をつかんだところで、賞なんて取れるもんじゃないですけどね。ただの野次馬の分析でした。
最後に3位以下の方についての感想と、要望
3位 林家つる子さん(45)『反対俥』 やりたいことをやりきった感はある。ただ観客を煽って巻き込んでいく手法を使いすぎた。もう一回「賞を取るための落語」を作り直せば行ける気がする。ただ、この「やりきった感」は嫌いじゃない。
4位 桂源太さん(44)『元犬』 芸歴浅いのに、まあ滑らかな語り口。将来性充分。
5位 桂天吾さん(43)『強情灸』 こちらはさらに芸歴浅いのに勢いとメリハリが素晴らしい。将来性充分。
5位 露の紫(43)『看板の一』 なんでこのネタにしたのかなあ。おやっさんに年齢を全く感じないので、オウム返しが全くはまらない。実力あるひとなのに、これはミスではないだろうか。残念。
こんなところです。わん丈さん・つる子さん・源太さん・天吾さんは来年決勝に出ても全然おかしくないし、若手にはまだまだ実力ある落語家がいるので、この企画は当分楽しいと思います。
ただ、この大会、開催されたのは10/31で、結果発表は番組放送時すなわち11/23。実に20日間以上の「箝口令」が引かれている。
この間に僕は吉笑さんとわん丈さんの高座を聴いたけど、秘密保持を逆手に取って笑いを取りつつも、やっぱりしんどそうだった。
この箝口令期間、せめて1週間に短縮できないもんでしょうか。
NHKさん、ご一考をお願いいたします。
サポート?奇特な方ですね。そうですね。落語会開催・落語鑑賞・有料コンテンツ鑑賞などに使わせていただきます。くれぐれもご無理なきよう。