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誠実な星野くん

誠実な人間は時に不実だ。

思い出深いエピソードがある。小学校、同じクラスに星野くんという人気者がいた。優しくて、活発で、いじめをゆるさない、分け隔てなく人を笑わせるのが好きな優等生だった。

バレンタイン、星野くんは二人の女子に告白される。その二人は幼馴染で、毎日の登下校を共にする親友同士だった。星野くんは悩んだらしく、友人の私に相談してきた。「どうすればいい?」なんて聞かれても私にはどうでもいい問題で「知らない」と取り合わなかった。

後日、星野くんは私に報告した。
「横永さんと付き合うことにした」
その女子は告白した二人組のどちらでもなかった。星野くん曰く「二人には仲良いままでいて欲しいから」らしい。

私は聞いてみた。
「横永さんにも告白されたの?」
「僕がした」
「へぇ、知らなかった」
「いや、まだ好きじゃなくて。これから好きになる」
よく分からない返答だった。星野くんは好意を向けてきた二人の女子を振って、興味すらない横永さんに告白したらしい。
「なんで?」
「二人が傷付くと思って。ただ振るのって、嫌いって言うようなもんだし。それに横永さんはクラスでいつも一人だったから」

一人だったから、何だったのだろう。その後にどんな言葉が続いたとしても、私は星野くんを軽蔑したと思う。でも星野くんはそこで言葉を区切り、唇に人差し指をあて、内緒だヨと微笑んだ。

その後仲良し二人組は変わらず登下校を一緒にしていた。星野くんと横永さんの結末は知らない。少なくとも誠実な星野くんはその後もクラスの人気者だった。

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