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代表・水野インタビュー「日本歯科新聞社の今までとこれから」

【プロフィール】水野 純治/みずの じゅんじ
 株式会社日本歯科新聞社・代表取締役。
 1971年、茨城県生まれ。中学より東京。大学卒業後、金融機関に勤め、日本歯科新聞社に入社。2002年から現職。
 日本歯科コンピュータ協会事務局長。2008~2014年日本歯学図書出版協会会長。神田法人会所属。尊敬する人物は父親と『鬼平犯科帳』の長谷川平蔵。出張は地元ならではの料理とお酒を味わうのが楽しみの一つ。


◆50年以上の歴史を持つ専門新聞を発行


―会社の主な事業を教えてください。

水野 1965年に創刊した『日本歯科新聞』、1994年創刊の歯科医院経営・総合情報誌『アポロニア21』の発行が大きな事業の柱です。どちらも対象は歯科医療関係者です。

 さらに、主に経営をテーマとした書籍の発行や、日刊のFAX通信、「医院デザインフェア」やセミナーなどのイベント運営、業界団体の広報誌や記念誌の受託、事務局の受託なども行っており、ウェブ・SNSでの情報発信にも取り組んでいます。

 当社のような規模で、日刊・週刊・月刊・書籍というラインナップが揃っている出版社は珍しいかもしれませんね。

週刊『日本歯科新聞』と月刊『アポロニア21』

―『日本歯科新聞』とはどのような新聞でしょうか。

水野 週刊で発行している、ブランケット版(日刊紙と同じサイズ)の新聞です。

 歯科医療政策から、学術的な研究成果、歯科医療器材などの最新トピックス、歯科技工現場の取り組みなど、歯科界のできごとすべてが取材対象で、対談やインタビューなども行っています。

―読者はどのような人ですか?

水野 歯科医師会の役員を始めとした歯科医師、歯科技工士、歯科衛生士、厚生労働省などの行政関係者、商工関係者など、歯科に関わるあらゆる人が対象です。

 これから歯科業界に進出しようと思っている企業の方や、一般マスコミにも読んでいただいています。

―『アポロニア21』の雑誌の方は、歯科医院の経営に特化した雑誌なのですね。

水野 経営雑誌と聞くと、歯科医療をビジネスとして捉える雑誌のように感じる人もいるかもしれませんが、「患者さんにとって良い医院」という長期的な視点を大切にしています。

 
その上で、コミュニケーション、スタッフの教育や人材確保、デジタルツールの活用など、医療者であり、経営者でもある院長の悩みに沿うような誌面作りを心掛けています。

―出版書籍にも特徴がありますか。

水野 歯科医院の院長は経営と診療の両方の役割を担っているので、とても忙しいです。多忙な先生方に対して、短い時間で大切な情報をインプットしていただけるように、わかりやすく整理することに注力しています。

 編集の段階で情報の整理に力を入れているので、必然的に企画にも制作にも時間がかかってしまい、他社に比べて出版点数は多くありません。
 しかし、なかなか他にない、独自のラインナップになっていると思います。近年は経営関連の書籍の割合が非常に高いです。

書籍は「今までになかった」とよく言われるラインナップ



◆自由な風土で、のびのびと発信


―どんな社風ですか。

水野 厳しい上下関係や細かなルールはあまりなく、自由な雰囲気だと思います。社員からの「こんなことをやってみたい」という提案はできるだけ受け入れるようにしています。

 例えばコロナ禍での働き方も、リモート勤務を取り入れたいかどうかは、社員や部署によって意見が分かれたので、会社としての最小限のルールだけ提示して、各部署ごとに勤務体制を決めてもらいました。
 「医院デザインフェア」といったイベントや、オンラインショップの開設などは、現場の社員の提案から始まったものです。

 社員がやりたい仕事を前向きに取り組むことが、結果として業績やブランディングにつながると考えているので、売り上げ目標や出版点数などの数字目標は課していません。
 そうした社内の雰囲気を心地良いと感じてくれるのかは分かりませんが、長く勤務してくれる社員が多いですね。

―社員はどんな人が多いですか。

水野 私も含めてですが、長所・短所の凸凹の多い人が目立ちます。時々、社外で受け入れてもらえるのか気がかりになることもあるほどですが(笑)、短所をなくそうとするのではなく、その人の長所が生かされるような環境づくりを心がけています。

 また、好奇心旺盛な人、疑問に思ったことを正面からぶつけてくる人が多いですね。社内の打ち合わせでもするどい突っ込みが入って、私がたじたじとすることもあります(笑)。

◆31歳で受け継いだ「赤字」と「会社のDNA」


―ご自身は三男ということですが、どういう経緯で日本歯科新聞社を継承されたのですか?

水野 1994年に大学を卒業し、自分で起業したいという思いを持っていたので、地域密着型の金融機関で営業として中小企業、一般家庭を訪問していました。小さな商店を含めてさまざまな規模・職種の経営を目の当たりにし、顧客の「夜逃げ」も経験したりして、とても勉強になりました。

 父が日本歯科新聞社の社長でしたが、私は三男(次男は幼少期に他界)でしたので自分が継ぐと思っていませんでした。もし兄が辞めても姉が支えるものと思っていました。

 しかし、父が病気で仕事を続けることが危ぶまれた時、兄は祖父の開業した地域紙を引き継いでいましたし、先に日本歯科新聞社で編集者として働いていた姉は経営には関心がありませんでした。そこで、「会社を継がなければ」という強い気持ちが猛烈にわき上がり、父に頭を下げて入社しました。この年は、転職、結婚、娘の誕生、すべてが起きた年でした。

 入社後は、記者、総務、企画などさまざまな業務に取り組み、5年後、父の死去に伴い、31歳で社長に就任しました。


―とても若くして継承されたのですね。苦労やプレッシャーも大きかったのでは。


水野 先代の水野治雄が実質的な創業者として、ほぼゼロの状態から、『日本歯科新聞』という専門紙トップの存在を作り上げ、初の歯科医院経営誌も創刊しました。

 報道機関としての信頼を着実に築いてきたものの、借金が多かったのも事実です。先代は会社の経営よりも、ジャーナリスト精神優先のところがあり、宵越しの金は持たない典型的な江戸っ子でした。まとまったお金があれば、お客さんにごちそうしたり、社員との飲み会に使ってしまったりしていました。なにせ、会社の最重要行事は花見だったぐらいでしたから……。

 もともと金融機関にいた私は、父が亡くなり、決算書を見た瞬間、「この会社は倒産する」と追い詰められました。後から税理士さんに「いやぁ、正直つぶれると思ったけど、よくここまでやったよね」と言われるほど、財政面では本当に危機的でした。

―どのように会社を立て直したのですか。

水野 外注経費を削減するためにコンピュータ化、デジタル化に早い段階から取り組みました。社員が安心して働けるクリーンな経営を目指して、10年ほどかけてなんとか財政を立て直すことに成功した私にとっては、「ケチ」は最高の誉め言葉だと思っています(笑)。

 また、『アポロニア21』の創刊当時は、歯科界は経営環境に恵まれており、経営の数字的な悩みを持つ先生が少なく、発行部数は低迷しており、廃刊すべきという意見もありました。

 しかし、私自身がスタッフとどうコミュニケーションを図るべきなのかなど、会社運営の悩みを多数抱えていましたので、『アポロニア21』の編集企画には、自分の経営者としての悩みをぶつけていきました。
 そうした悩みを編集部が受け止めて誌面に展開したところ、徐々に支持されるようになり、発行部数が年に2、3割伸びた時もありました。

―先代から引き継いだもの、あるいは変わったものはありますか?


水野 先代は、ジャーナリストとして強い信念を持っていました。どんな立場の相手にも、「こうあるべき」という意見を正面から述べ、たとえ関係が壊れたり、嫌われたりしても自分の姿勢を崩しませんでした。誰とも慣れ合わないことで、報道としての信頼を得ていたと思いますし、その強さを尊敬しています。

 ただ、私自身は同じスタイルではありません。なるべく壁を作らず、考えの異なる人からも広く情報を集め、当社の新聞や雑誌が、歯科医療界が発展していく方法を模索する場として機能したらよいと思っています。
 
 父と私は一見真逆なようですが、歯科界で働く人、そして患者さんの幸せを願いつつ、「歯科界の健全な発展に寄与する情報発信」を目指していることに変わりはないと思います。
 
 例えば、どんなに歯科医院にとって利益の多い経営手法であっても、最終的に患者さんにとってマイナスになるような情報は掲載しないようにしています。そうした情報が持ち込まれても、社員たちも自然と「これは違うよね」と判断することが当たり前になっています。

 「読者利益とは、患者さんを含めた視点で考えるもの」ということを先代はよく言っていました。
 私たちの発行物を患者さんが目にすることはほとんどないでしょう。しかし、患者さんの利益になる情報を発信したり、歯科医院の現場の悩みをサポートしたりすることで、歯科医院にとっても患者さんにとっても長期的なプラスになる、そんな仕事をしていけたらと思います。

◆読者と双方向・多方向のつながりを目指して

2014年、秋葉原で開催した「医院デザインフェア」


―今後の課題や展望を教えてください。

水野 いわゆる活字離れというのは、歯科界においても起こっており、この流れは今後も続くものと思っています。特に紙媒体に依存していたら、今後、当社の情報発信力は落ちていくでしょう。
 しかし、活字・紙媒体でなくても、「お金を払っても有益な情報がほしい」という関係者に対して、発信できる環境づくりが今後の課題だと思っています。

 現在も日本歯科新聞のデジタル版はありますが、読者のかゆいところに手が届くシステムとしては改善余地があります。読者が欲しい情報にアクセスできる方法を模索しています。

 ただ、デジタル化で何を目指すのかというのは本当に難しいですね。
 例えば、よく「デジタル版は広告がない方がいい」と言われますが、私は読者として広告も情報の一部として受け止めているので、広告が表示されないのがメリットと言い切れるのか、疑問に感じています。
 週刊誌の発売広告なども世の中の流れを知る、意外と大切な情報だったりしますよね。私自身は、一般のニュースはデジタル版と紙版で二重チェックしているので以前より手間がかかっていると感じます。

 読者が読みたい記事にすぐたどり着けるというシステムは便利ですが、読みたい記事だけを効率的に読む環境が本当に良いのかなど、読者の情報収集における長期的なメリットという視点も忘れずに模索していきたいと思っています。

 また、今後は誌面からの一方的な発信だけでなく、展示会や講演会などのイベントを通じて、双方向、あるいは多方向のコミュニケーションにも、力を入れていきたいと考えています。

 すでにある、「医院デザインフェア」やセミナーなどがそれにあたりますが、当社と読者のコミュニケーションはもちろん、そこに集う参加者同士の横のつながりも作っていきたいですね。
 イベントを通じて、同じ課題や同じ思いを抱える人同士が交流し、「日本歯科新聞とつながっていたから、あの人ともつながれた」と思ってもらえるような場所を提供できたら嬉しいです。

2021年3月収録/小冊子「情報と人をつなげる――日本歯科新聞社」より改変

【参考】

日本歯科新聞社サイト 日本歯科新聞 (dentalnews.co.jp) 

日本歯科新聞社オンラインショップ 日本歯科新聞社オンラインBOOKストア (dentalnews.shop)


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