忍殺TRPGソロリプレイ【ビジー・ライク・ラスト・デイ・オブ・サマー・バケーション】
◇前置きな◇
まず、今回はラブサバイブ=サンの自作ソロシナリオ【ニンジャの一日】に挑戦させていただく。
ミッションを溜め込んでしまったサンシタが、それを一日で片付けるべく奔走する……ざっくり言えばそういうシナリオだ。
だがここで私は思った。これはチームで分担しても楽しめるのではないか? と。
そういうわけで、このソロシナリオをディスグレイス一味のリレー形式で挑んでいこうと思う。ヨロシクオネガイシマス。
◇オープニングな◇
とある日の早朝。マンション「さなまし」の一室にて、ミコーめいた出で立ちの女ニンジャが三人の同居人を見渡した。
「いいですか、皆さん。時間こそありませんが、個々のミッションはそこまで複雑なものでもありません。そのため分担して遂行します。いいですね?」
全員が頷くのを確認してから、女ニンジャ……ディスグレイスは言葉を続ける。
「まずブラッディサメ・ヤクザクランのオヤブン暗殺。これはフィアーレス=サンにお願いします」
「わかった」
頷いたのは長身痩躯の少女。二挺のチャカガンをホルスターに収め、立ち上がる。彼女はもともと暗黒非合法アサシン養成施設であるアシサノ私塾の出身者であり、こうした仕事は得意分野だろう。
「キールバック=サンはハッカーの探索を。ジツも含め、あなたが最適でしょうし」
「お任せください、お姉さま。必ず成功させてみせます」
並々ならぬ決意とともに返事をしたのはキールバック。この中では最年少であり、カラテには乏しいものの、ニンジャ俊敏性とニンジャ器用さには秀でている。問題あるまい。
ディスグレイスは睨むように残る一人を見た。セーラー服姿のシャープキラーは、アトモスフィアにそぐわぬ笑顔で手を上げる。
「ハイ! 私、オムラのとこのモーター兵器のテスターやりたい!」
キールバックがシャープキラーを睨みつける。無理もない。そもそもこの苦境……期日間際となって初めて、方々から受けたミッションの存在を明かしたのはこの少女だ。いらぬ苦労を持ってきた、と言っていい。
しかし、その要望はディスグレイスにとってやや意外だった。なにしろオムラだ。試作機といえど、モーター兵器の相手は(物理的な意味でも)骨が折れるだろうし、自分が担当しようと考えていたのである。
まあ、本人の希望ならばかまうまい。
「……いいでしょう。では私は湾岸施設の調査に。シャープキラー=サン、絶対にこなさなければいけないのはこれだけですね?」
「ウン。一応ザイバツが潜伏してるかもしれないビルの調査ってのもあるけど、なにせ元が噂だからねー。手が空いたらやるくらいでいいんじゃない?」
「せっかくだからあなたが行けばいいんです。その分のカネは私たちによこしなさい」
「アッハ! キールバック=サンってばひっどーい」
あっさり受け流すシャープキラーに、キールバックが柳眉を逆だたせる。ディスグレイスは溜息をつき、手を振ってそれをやめさせた。先にも言ったとおり、時間がないのだ。
……かくして、四人のニンジャたちは本日期限のミッションを片付けるため、一斉にマンションを後にしたのである。
◇ミッション1:ヤクザの事務所◇
ニンジャ名:フィアーレス
【カラテ】:3
【ニューロン】:2
【ワザマエ】:5
【ジツ】:3(ヘンゲヨーカイ)
【体力】:3
【精神力】:2
【脚力】:3
【万札】:4
持ち物など:
・戦闘用バイオサイバネ→▲バイオサイバネ頭部(軽度)
○キラーマシーン教育
・チャカガン2挺
【ワザマエ】判定(難易度NORMAL)
5d6 → 2, 2, 4, 5, 6 成功
BLAM!「アバーッ!?」早朝のブラッディサメ・ヤクザクラン事務所前に、銃声と悲鳴が木霊した。崩れ落ちた見張りクローンヤクザが、額からどくどくと緑の血を流し地面を汚す。フィアーレスは短いザンシンを終え、足早に事務所ドアへと接近した。
【ワザマエ】判定(難易度NORMAL)
5d6 → 1, 1, 5, 5, 5 成功
BLAM! 早朝のブラッディサメ・ヤクザクラン事務所前に銃声が響く。フィアーレスがモンドムヨーでドアノブを銃撃で破壊したのだ。乱暴に扉を蹴り開けた彼女は、応接間に走りこんできた三人のヤクザを認める。
「な、なんだテメェ!?」
中央のヤクザが驚愕とともに誰何。フィアーレスは目を細める。左右に控えるのはクローンヤクザで、それはどうでもいい。この中央のヤクザこそがターゲットだ。話が早くて助かる。
「ドーモ。ソウカイヤのフィアーレスです。お前を始末しに来た」
「ザッ……ケンナコラーッ!? やれ! テメェら!」
「「スッゾコラー!」」
ヤクザオヤブンの号令に答え、左右の護衛クローンヤクザがチャカガン発砲! BLAMBLAMBLAMBLAM! 早朝のブラッディサメ・ヤクザクラン事務所に銃声が響き渡る!
【回避】判定(難易度NORMAL)
5d6 → 1, 4, 4, 5, 6 成功
反撃の【ワザマエ】判定(難易度NORMAL)
5d6 → 1, 2, 2, 3, 5 成功
フィアーレスは冷めた目で迫り来る銃弾を見やり、一歩踏み出して半身となる。それだけで銃弾の隙間を潜り抜けた。クローンヤクザの狙いは正確であり、返って回避しやすいのだ。
彼女は無表情にチャカガンを構え、 BLAM!「アバッ!?」BLAM!「アバッ!?」 BLAM! BLAM!「アバババーッ!?」無造作にクローンヤクザ二体の額に風穴を開け、オヤブンの額と心臓をぶち抜いた。ヤクザ勢当然死亡! ナムアミダブツ!
「時間があればもう少し綺麗にやれたんだけどな……」
うんざりしたように呟いたフィアーレスは、事務所にかけられた時計を見やる。突入からミッション達成まで、一時間とかかっていない。上出来ではある。
ブラッドバスとなった室内を顧みることなく、フィアーレスはブラッディサメ・ヤクザクラン事務所を後にする。ただヤクザの死体と静寂だけが残された。
【ミッション1コンプリートな】
◇ミッション2:カツオ・ストリート◇
ニンジャ名:キールバック
【カラテ】:2
【ニューロン】:5
【ワザマエ】:6
【ジツ】:1(カナシバリ)
【体力】:2
【精神力】:5
【脚力】:3
【DKK】:7
【万札】:3
装備:
・ウイルス入りフロッピー
・バイオサイバネ→▲バイオサイバネヘッド(軽度)
○信心深い
時間カウンター:0→1
まだ人通りの少ない早朝のカツオ・ストリート。ストリートの入り口で立ち止まったキールバックは、後方に続いていたクローンヤクザ2名へと振り返った。
「じゃ、ここで待っててください。仮にハッカーが逃げてもこちらに追い込むようにしますから、そうしたらちゃんと捕まえてくださいね。じゃないとひどいですよ」
「「ハイヨロコンデー」」
仏頂面で答えるクローンヤクザたちに溜息をつきつつ、キールバックはしめやかにカツオストリートへエントリーした。ハッカーを捕らえていちいちトコロザワピラーに戻るのも時間の無駄。そう考えた彼女は近隣のソウカイヤ傘下ヤクザクランよりクローンヤクザを借りてきたのだ。もっとも、仕事自体は自分のものであることには変わりない。
「お姉さまが私に任せてくださったミッション……絶対にやり遂げてみせます」
誰にともなく呟いたキールバックは「イヤーッ!」近場のネオン看板の上へと跳躍。ストリートを一望して思案する。ソウカイヤへ背信行為を働いているハッカーがここに潜伏していることは間違いない。しかし、具体的な場所は自分で見つけ出す必要があるのだ。
カラテでここの住人にインタビューするか。ハッキングであぶり出すか。手段はいくらでも考えられるが……
【ワザマエ】判定(難易度HARD)
6d6 → 2, 2, 3, 5, 5, 6 成功!
「……ターゲットがこのストリートに潜伏したという情報が入ってから、今日で……ええと、1週間? まったくあの女、いつから依頼を……まあいいです」
思考整理のために独り言を呟きつつも、キールバックはネオン看板を飛び渡る。長い間追っ手のかからなかったハッカーからすれば、油断するにはちょうどいい期間だ。警戒心も薄れ、このストリートにも多少馴染んできたとなれば……人目を避けられる時間帯に外出する可能性もある。ハッカーであろうが所詮モータル、何日もぶっ続けでUNIXとニラメッコできるわけもなし。
そう、たとえばこの時間帯であれば……なんらかのハッキング作業の休憩がてら、自動販売機にザゼンドリンクでも買いに来るのではないか? キールバックは己のニンジャ第六感を信じ、自販機密集地域へと移動。そして。
「……ブルズアイ」
ニィ、と口元を歪める。件のハッカーがちょうど、自販機の一つの前でトークンを取り出そうとしているところ。
キールバックは音もなくハッカーの背後へ着地。威圧のため、敢えてアイサツを繰り出した。
「ドーモ。こそこそ逃げ回るネズミ=サン。ソウカイヤのキールバックです」
「アイエッ!?」
ハッカーが驚愕とともに振り向く。キールバックはスリケンを取り出した。実際に投げるつもりはない。だがこの距離、どう逃げようと彼女のスリケンのほうがハヤイ。ハッカーもそれを悟るだろう。逃亡防止の牽制だ!
「今ごろソウカイヤナンデ!? ち、ちくしょう! 連れて行かれてたまるかよ!」
なんたるヤバレカバレか、ハッカーはLAN直結ハンドガンを取り出し、キールバックへと向ける! キールバックは……ただ、溜息をついた。
「あのですね。そういうの……」「ウオオーッ!」 BLAMBLAMBLAM!モンドムヨーの銃撃だ!
【回避】判定
6d6 → 1, 4, 4, 5, 6, 6 成功!
「イヤーッ!」キールバックの姿が搔き消える! ……そのようにハッカーの目には映っただろう。実際の彼女は身を低くし弾丸を回避。そのままジグザグに走行しワン・インチ距離へ迫っていたのだ。「イヤーッ!」「ゴボボーッ!?」腹に掌底! ハッカー嘔吐! キールバックは端正な顔を歪める。
「ウワッ、汚い……手間を焼かせるばかりか、私の服まで汚す気です? 不潔です! イヤーッ!」
「ゴボボーッ!」
蹲るハッカーの脳天に、キールバックは容赦ないカカト落とし! ハッカーの顔が今さっき嘔吐されたばかりの吐瀉物に叩き込まれる! 無惨!
キールバックは舌打ちし、至極嫌そうに気絶したハッカーの脚を掴んで引きずり始める。
「そのゲロまみれの顔、ちゃんと道路で拭いておいてくださいね。……ああ、もう! 重い!」
悪態をつきながらも、キールバックの顔は晴れやかだ。携帯IRC端末の時計が狂っていないのならば、ハッカー発見から確保まで1時間もかかっていない。この手際の良さなら、きっと『お姉さま』も褒めてくださるだろう。
……その後、見つけた以上の時間をハッカーの移動に費やしてしまったキールバックは、憮然とした顔で待機クローンヤクザへハッカーの身柄を引き渡したのだった。
【ミッション2コンプリートな】
◇ミッション3:オムラ・インダストリ研究所◇
ニンジャ名:シャープキラー
【カラテ】:6
【ニューロン】: 3
【ワザマエ】:4
【ジツ】:1(カラテミサイル)
【体力】:6
【精神力】:3
【脚力】:3
【万札】:0
【名声】:1
持ち物など:
・カタナ
▶︎ヒキャク
▷ブースターカラテ・ユニット
○キラーマシーン教育
時間カウンター:1→2
「ドーモドーモ、ソウカイヤのシャープキラーです! モーター兵器の試験やりにきたよ!」
「エッ!? 今ごろいらしたんですか!?」
「ウン! なにか文句ある?」
「アッ……いえ……その、スミマセン」
テスト結果納品スケジュールぎりぎりになってやってきたソウカイニンジャに、しかしオムラ研究員は慌てて目を逸らした。セーラー服の少女というニンジャらしからぬ出で立ちに朗らかな笑顔。しかし、どこか不気味な威圧感を感じ取ったのだ。
目を逸らした研究員はふと女子高生ニンジャの脚に惹きつけられる。生身ではない。サイバネティクスだ。この年頃の少女にしては珍しく、オモチ・シリコンのカバーすらない。
「アッ、弊社のサイバネティクスですね。ご愛顧アリガトゴザイマス! ……しかしそのカスタム……フゥーム……」
「年ごろの女の子の脚、そんなにマジマジと見ないで欲しいなあ。ヘンタイ=サンなの?」
「アイエッ、そんなつもりは! 申し訳ありません!」
「アッハ! 冗談、冗談! じゃ、さっさとテストやろうか」
「アッハイ。こちらへどうぞ」
……数分後。テスト室にて、シャープキラーは一体のロボニンジャと向かい合っていた。歪な人型のシルエット。両肩にはそれぞれ「トラ」「試し作りな」の文言が踊る。テスト室隅のスピーカーから、オムラ研究員の声が流れてくる。
『それが我が社が鋭意を持って製作中のロボニンジャ、モータートラです! 将来的にはバイク形態への変形機構も備え、ニンジャの皆さんの補助も行えます。今回は戦闘試験ですので、披露できないのが残念です。……決して! 変形機構の開発が遅れているわけでは』
「そういうのいいから。はやくやろ」
『アッハイ。では、テスト開始!』
ブウウーン。ロボニンジャのカメラアイに光が灯る。「ドーモ!モータートラです!」アイサツ機構も完璧だ。だがシャープキラーは応じず、身を低く沈めて腰のカタナに手をかけた。
戦闘スタイル【強烈なイアイドー斬撃】
【カラテ】判定(難易度NORMAL)
3d6 → 3, 5, 6 成功
モータートラ【体力】5→3
【回避】判定(難易度NORMAL)
7d6 → 1, 1, 1, 2, 2, 4, 5 成功
キュイイイン……シャープキラーのサイバネ脚が静かな駆動音を立て始める。「データ収集開始! データ収集開始な!」モータートラが両腕のマシンガンの照準をニンジャへと合わせた、そのとき! ドウ! シャープキラーの踵が火を噴いた! ブースターである!
「イヤッハーッ!」「ピガッ!?」
SLASH! モータートラの脚部に浅からぬ傷が刻まれた。すれ違いざまの強烈なイアイ斬撃である! BLATATATATATA! しかしモータートラは見事なバランス感覚で方向転換、遠ざかるシャープシューターの背へ銃火を見舞う。しかし……追いつけない!
戦闘スタイル【強烈なイアイドー斬撃】
【カラテ】判定(難易度NORMAL)
3d6 → 4, 5, 6 成功
モータートラ【体力】3→1
【回避】判定(難易度NORMAL)
7d6 → 1, 2, 2, 2, 4, 4, 6 成功
シャープキラーは大きくカーブを描いて方向転換、再びモータートラへと迫る。そのカタナはすでに納刀済み。イアイの構え! モータートラのカメラアイに、イクサにそぐわない少女の笑みが写り込んだ。次の瞬間! 「イヤッハー!」「ピガーッ!」SLASH! 無傷だった脚部にまたも強烈な斬撃! モータートラがよろめく!
BLATATATATA! 「アハハハハハ!」迫り来る銃火を背後に感じ、シャープキラーはさらに笑った。ブースターカラテ・ユニット。成る程、なかなか面白い。彼女には似合いの機構だ。壁を蹴り、ブースターを点火し、天井を蹴って方向転換。モータートラを翻弄する!
モータートラの弾幕がついに途切れる。シャープキラーはやや離れた位置に着地し、構えを変えた。イアイではない。カラテだ。(テストしたかったのはこっちも同じなんだよね)彼女はニューロンを研ぎ澄ませ……「イヤーッ!」セイケンヅキ! 背中から二つの光球が飛び、モータートラを狙う!
【ジツ】判定
【精神力】3 → 2
4d6 → 1, 3, 3, 4 成功
モータートラ【体力】1 → 0 撃破
脚部を損傷したモータートラが、このカラテミサイルを避けられるはずもない! KABOOM! KABOOM!「ピガガガーッ!?」『アアーッ!?』スピーカーから研究員の狼狽の声! 彼らとしてもここまで早く撃破されるのは想定外の事態なのだ!
シャープキラーはそんな混乱など知ったことではない。携帯IRC端末を取り出し時間を確認。多少時間を取られたか。
「ま、ロボニンジャが相手ならこれで充分でしょ。だいたいみんなもミッション終えてるし」
それとなく着信していたメッセージを確認しつつ、シャープキラーは笑う。なんにせよ、実に楽しい仕事だった。
時間カウンター:2 → 4
【ミッション3コンプリートな】
◇ミッション4:湾岸施設調査◇
ニンジャ名:ディスグレイス
【カラテ】:5
【ニューロン】:5
【ワザマエ】:4
【ジツ】:3(カナシバリ・ジツ)
【体力】:5
【精神力】:4
【脚力】:3
【万札】:0
【名声】:5
持ち物など:
オーガニック・スシ
戦闘用バイオサイバネ→▲バイオサイバネ腕(片腕)
▽吸血バイオ器官
○信心深い
時間カウンター:4 → 5
『暗殺完了』『引き渡し済み』ピポッ。『テスト今終わった』続々と携帯IRC端末に舞い込んでくるメッセージを確認してから、改造ミコー装束の女ニンジャ、ディスグレイスはひとまず安堵の息をついた。これであとは自分がこの仕事を終わらせれば、最低限のメンツは保てるだろう。
「まったく、何を思ってこんな無茶な仕事を……」
ことの発端であるシャープキラーの顔を思い出し、ディスグレイスはぶつぶつと呟いた。あれはあれで中性的美貌の持ち主であり、想像の中で黙らせておきさえすれば多少の慰めになる。実物はいつも笑みと軽口を絶やさないのでダメだ。
ともあれ、彼女は自分の担当となったミッションの内容を改めて確認する。この湾岸施設帯付近で行方不明事件が多発している。……性格には行方不明ではない、ふらりと姿を消した者たちは思い出したように戻ってくる。が、どいつもこいつも皆様子がおかしい。行方不明になったままのほうがまだマシかもしれない。
ともあれ、その原因の調査のためディスグレイスはここを訪れたというわけだ。陰鬱な雲。陰鬱な波の音。時間に追われている状況も相まって、なんとも気が滅入ってくる。
「ヨタモノが妙なデザイナーズドラッグのカクテルでも試している、くらいならいいんですけど……」
「アイエエエ! 助けて! 殺さないで! やめてぇ!」
絹を裂くような悲鳴に、ディスグレイスは閉口した。悲鳴の主はすぐに捕捉できる。前方、壁に寄り掛かるようにしてもがく女の姿だ。そのバストは豊満である。衣装はほぼ溶け落ち、九割裸という刺激的な有様をかろうじて真っ黒なタールめいた何かで隠している……
いや、違う。ディスグレイスは目を細めた。タールめいたそれは不気味に蠢いている。そしてニンジャの頭を生み出したのだ!「スーラススス! オマエ。俺ノ新シイ身体ニナレ!」「た、助け! 助けてェ! アイエエエエ!」 女は失禁し、泣き叫ぶ!
(バイオニンジャ、というやつですか)アメーバめいたニンジャの手足が女の装束を溶かしていく様を眺めながら、ディスグレイスは考える。成る程、こいつが行方不明事件の原因というわけだ。任務を果たすだけならばこれで充分。しばらく見物してからトコロザワピラーに報告に行けばよい。
だが、しかし。
「アー、コホン」
ディスグレイスはわざとらしく咳払いする。アメーバめいたニンジャが、訝しげにこちらを向いた。まあ、これでよかろう。ディスグレイスは微笑する。アンブッシュをかけるにしても、あれほど密着されていると女もろともトドメを刺すことになる。それは、うまくない。
「ドーモ。はじめまして。ソウカイヤのディスグレイスです」
「ス、ススス……ドーモ。ディスグレイス=サン。ブラックスライム、デス」
アメーバ身体を揺らし、ブラックスライムがオジギした。ディスグレイスがカラテを構える。その右袖がざわりと揺れた。直後!
バイオサイバネで【カラテ】判定
5d6 → 2, 3, 4, 5, 6 成功
ブラックスライム【体力】3 → 1
「イヤーッ!」「グワーッ!?」ブラックスライムの頭が大きくへしゃげる! ディスグレイスの右袖から射出されたタコめいたバイオ触手が強かに打ち据えたのだ! ディスグレイスは再攻撃のため触手を引き戻そうとし……顔をしかめる。おお、見よ! ブラックスライムの身体の一部がすでにバイオ触手へとまとわりついている! ジュウ、と嫌な臭いの煙が立った。
【回避】判定
5d6 → 2, 2, 2, 3, 3 失敗
ディスグレイス【体力】5 → 4 【精神力】5 → 4
「ス、ススススス……! バカメ! オレノ、アメーバボディハ、ソノ程度ノカラテデハ破壊不能! コノママ貴様モオレノ新シイ身体重点!」
苦しげにブラックスライムが嘲笑! そのアメーバ手足がバイオ触手を伝い、ディスグレイス本体へと迫る! アブナイ! 彼女もこのままミコー装束を溶かされ、囚われた女同様に豊満なバストを晒してしまうのか!?
「スーラススス! ……? ス、スス……ス……!? グワーッ!?」
その時だ! 勝ち誇っていたブラックスライムが突如苦悶! ディスグレイスは額に脂汗を流しつつも、そのヘビめいた瞳でバイオニンジャを睨んだ。
「破壊できない? 結構! そのまま固定しておいてくださいな……吸い尽くしてあげます! イヤーッ!」
「アバーッ!? 吸血バイオ器官アバーッ!」
然り! ブラックスライムの体内に囚われたバイオ触手は、ひた隠していた中空状のトゲを吸盤から突出! ブラックスライムのアメーバ中カラテを吸収にかかったのだ! なんたる油断ならぬバイオサイバネか!
振動するブラックスライムの頭向け、ディスグレイスは無慈悲な飛び蹴りを叩き込む!
バイオサイバネで【カラテ】判定
5d6 → 3, 4, 4, 4, 6 成功
ブラックスライム【体力】1 → -1 撃破
吸血バイオ器官でディスグレイスの【体力】4 → 5
【万札】5獲得
「アバババーッ! サヨナラ!」頭部を破壊され、食い込んだ触手からアメーバ中カラテを吸い尽くされたブラックスライムは爆発四散! ディスグレイスは鼻を鳴らし、バイオ触手をふるってこびりついたアメーバを振り払った。
「まったく、手を焼かせてくれる」
「た、助かった……」
気の抜けたように呟く女に、ディスグレイスは微笑を向ける。身体にまとわりついていたアメーバも剥げ落ち、女はもはやほとんど全裸。そのバストは豊満であった。
時間カウンター:5 → 6
恥ずかしげに身体を隠しつつも、それでも女は奥ゆかしくオジギする。
「あ、ありがとうございました。本当になんとお礼を言ったらいいか」
「ウフフ! いえいえ、お互い無事でなによりでした」
ディスグレイスは言った。相手が自分のバイオ触手にどこか怯えた視線を送っているのを感じながら。
「その……ぜひともお礼を」
「あら! では早速」
次の瞬間だった。ディスグレイスの右袖から伸びた複数のバイオ触手が、女の身体に巻きついたのだ!
「ア、アイエッ!?」
「ウフフ! わたくし、少々綺麗好きでして。貴女、先ほどのクズのせいで汚れてしまっているみたいですし……少し綺麗にさせてくださいな?」
「ヒ、ヒィッ……! わ、私、イカのアカチャンなんて産めない……!」
「…………? かわいそうに、錯乱しているのですね。ジツを使わなくても大丈夫か。けれどさっきのクズ、身体がどうこう言ってましたし、ひょっとしたら気づかないうちに身体の奥まで入り込んでいるのでは? ちょっと隅々まで拝見させてもらいますね。安全確認のために」
ディスグレイスは舌なめずりをする。彼女は男性より女性が好きな性質であり、なにより相手を束縛して楽しむのを好むのだ!
「ア、ア、…………アイエエエエエッ! アッ」
その後、暗がりに連れ込まれた女がどのような目に遭ったか。それはここで語るべきことではあるまい。
時間カウンター:6 → 7
ディスグレイス【精神力】4→5
【ミッション4コンプリートな】
◇ミッション5:怪しいビル◇
ピポッ。携帯IRC端末に送られてきた『ミッション完了。野暮用できたので少し遅れる』のメッセージを目にしたシャープキラーは声もなく笑う。どうやら目論見どおり、彼女は「お楽しみ」らしい。
シャープキラーは無論把握している。湾岸施設調査の前任者で、行方不明となっている女ニンジャがいたという事実を。生死までは調べる時間がなかったが、もし生きていればディスグレイスには良いプレゼントとなるだろう。故に他の簡単そうな依頼を掻き集め、フィアーレスとキールバックの二人を別働隊として追いやった。そこまでお膳立てすれば、あとは流れだ。
「喜んでくれたら嬉しいよ、ディスグレイス。家賃みたいなもんだからさ……」
ひとりごちたセーラー服の少女はそれきり口を噤む。彼女は今、コメダ・ストリートの廃ビルの一つに潜入していた。この地域の治安の悪さは折り紙つきであり、それ故に所有者不明で放置されたビルの類が山とある。ザイバツが潜伏しているという噂が流れたのもそれ故だろう。
シャープキラーは極力音を立てぬようにビル内を進む。ビル内にはクローンヤクザの影はもちろん、電子ロックの類もない。だが、しかし……嫌に緊迫したアトモスフィアが、噂の信ぴょう性を裏付けていた。彼女のニンジャ第六感で判断するならば、『当たり』だ。
ふと少女は足を止め、壁に耳を当てる。微かな話し声を聞いたように思ったからだ。果たせるかな、壁を通して何者かの会話が漏れ聞こえる……
「……ウム、ではブラックドラゴン=サンが?」
「そのようだ。こちらにポータルで向かったとのこと。懲罰騎士殿が、果たして何用なのか……」
「どう動くかわからん者は、身内とはいえ厄介だな……」
懲罰騎士。シャープキラーの頬を汗が伝う。そのタームは予習済みだ。ザイバツ・シャドーギルドにおける特殊な役職。それを当然のように会話に出すとなれば、もはや間違いあるまい。シャープキラーは壁から身を離し……違和感に気づいた。壁の向こうの沈黙が少し、長い。
(……マズった!)「イヤーッ!」
【回避】判定(難易度HARD)
7d6 → 2, 3, 4, 5, 5, 5, 5 成功
「イヤーッ!」シャープキラーはブリッジ回避! CLAAAASH! 壁をぶち破り、その胸すれすれを錐めいて高速回転する小さな影が通過! それは反対側の壁に突き立つや否や、不規則軌道でシャープキラーの周囲を旋回し始める! ナムサン! それはコマだ!
「躱したか? 成る程、多少はできるクセモノというわけだ」
壁に開けられた穴の向こうから、油断ならぬアトモスフィアのニンジャがエントリーする。(ヤバイかな?)シャープキラーはカラテを構えて、彼我のカラテ差を測る。残念ながらどう見積もっても向こうが上だ。
「このような場所にわざわざ出向くフリーランスもおるまい。貴様、ソウカイヤだな?」
そして、おお、ナムアミダブツ……壁の向こうからもう一人のニンジャが現れる。柿色装束。手には金属質のボー……否、三節棍! (あ、無理だコレ)シャープキラーは早々に結論した。あろうことか、こちらもまた油断ならぬカラテの持ち主。
並んだザイバツニンジャたちは、オジギを繰り出す。
「ドーモ。ワイルドハントです」
「ドーモ。ボーツカイです」
「……ドーモ。ワイルドハント=サン。ボーツカイ=サン。シャープキラーです」
シャープキラーはアイサツを返した。軽口を叩く余裕も猶予もなし! 「「イヤーッ!」」ザイバツニンジャたちが踏み込む!
「イヤーッ!」シャープキラーは連続側転し、柿色のボーツカイが繰り出した三節棍を回避! 間違っても受け止めるつもりにはなれない。あんな曲がりくねる武器をウカツに受け止めれば、どのような方向から攻撃を受けるかわかったものではない!
シャープキラーに追随するように迫るのは、三つに増えた小型のコマ。おそらくワイルドハントのジツか。これがまた輪をかけて厄介だ……逃げるルートを確実に絞り込みに来ている。わかる。だがそこしか逃げ場がないのも事実なのだ!
「……アッハハハハ!」
シャープキラーは笑った。面白いほどに追い詰められている。この自分が!
【脚力】判定(難易度HARD)
4d6 → 1, 3, 3, 5 成功!
ニンジャアドレナリンが噴き出し、体感時間を泥めいて遅らせる。シャープキラーは色つきの風めいて迫るボーツカイを見た。その恐るべき三節棍。こちらに向かってまっすぐに伸びてくる……
「イヤーッ!」
ドウ! サイバネ脚の踵が火を噴き、わずかに退避軌道を変化させた。BLAM! 三節棍の先端から放たれた銃弾が身体を掠める。やはり仕込み武器。アブナイだった。
無論のこと、まだシャープキラーは逃げられていない。見よ。追随していたコマが肉薄する……!「イイイイ……」シャープキラーは身体を捻る。ドウ! ブースター再点火! フィギュアスケーターめいて回転し、SLASH! コマを断ち切る!
ワイルドハントがわずかに眉間にシワを寄せた。彼の卓越したニンジャ動体視力は捉えている。ソウカイヤの女ニンジャのサイバネ脚。その膝から飛び出した仕込みサイバネ刃を。「イヤッハー!」女ニンジャは笑っている。彼女は二段目のコマを蹴りつけ、破壊! その反動と三度目のブースター点火を組み合わせ、急加速!
「ハ、ハ、ハ、ハ! オタッシャデー!」
加速を殺さず連続バク転へと移行したシャープキラーは、CRAAAAASH! 窓ガラスを粉砕しそのままネオサイタマの闇へと消えていった。
「ヌゥーッ……! すまん、ワイルドハント=サン。オヌシの援護がありながら……!」
「……気にする必要はあるまい。いずれ知れる頃合いだった。退くぞ。まだイクサのときではない」
ザイバツニンジャの二人もまた、追跡を断念し闇へ溶け込むようにして消えた。あとにはただ、静寂が残される。
◇◆◇◆◇
「イヤッハー!」
ドウ! ブースターを煌めかせ、ネオン看板やビル屋上を風めいて飛び伝うシャープキラーの顔から笑みが消えることはない。今回はかなりのアブナイであり、タノシイだった。今は勝てぬニンジャ二人の手の内を見た。生きてディスグレイスの元へ戻れる。収穫だ。
あの狭苦しいアシサノ私塾。外はなんと刺激的でタノシイが溢れていることか! これならしばらくは死ぬ気も起こらないだろう。コトホギだ!
「イヤッハー!」
シャープキラーは全速力でトコロザワピラーへ向かう。自分をアシサノの外に連れ出した、親愛なる人の元へ。
【ミッション5コンプリートな】
◇エンディング◇
……深夜! トコロザワピラー!
「お待たせしてスミマセン、ソニックブーム=サン。報告書が完成しました」
「おう。ゴクロウ」
ディスグレイスは椅子にもたれかかる金糸装束のニンジャに5枚の報告書を渡す。ミッションを完了させたからといって、それで終わりではない。その成果を簡潔にまとめ、提出するまでがミッションだ。この時間まで、ディスグレイスはフィアーレスとキールバックの分のレポートをまとめ、シャープキラーが書いて寄越した報告書の添削を行なっていたのだ。
パラパラと気のない様子で報告書を眺めていたソニックブームは、思い出したように笑う。
「しかし、アレだな。テメェにしては珍しくアクセクしたじゃねェか。エエッ?」
「お恥ずかしい限りです……!」
「ハッ! ま、オレ様はテメェらがマジメにやってりゃそれでいい。そこの小娘から事情は聞いてる。今度はコウハイどもの管理を徹底するんだな」
本気で恥じ入って頭を下げていたディスグレイスは、恨みがましい目で部屋の隅を見やる。壁に寄りかかってこちらを見ていたシャープキラーが、まったく悪びれる様子もなく笑っていた。
「ま、そこのガキはアホだが多少は見込みがある。ザイバツとやり合って無傷で戻ってくるたァな」
「エヘヘ! 死ぬかと思った!」
「そのまま死ねばよかったのに……」
「エエーッ? ディスグレイス=サンってばそういうこと言っちゃう? 本気で?」
ニヤリと口元を歪めるシャープキラーに、ディスグレイスは怒鳴りかけた自分を必死で抑える。どういうわけかこいつは知っている。あと少しでも帰りが遅ければ、連れて帰ってきた女ハッカーニンジャもともにドゲザしてでもソニックブームを連れ出して救援に向かおうと考えていたことを!
「アァ、そうだ。テメェのとこのキールバック=サンにボーナスが出てる。あとで本人に確認しとけ」
「ハイ? なんでまた」
「前回のミッションでの話がようやくラオモト=サンに伝わっただけだ。詳しくは本人に聞いとけ」
一方的に会話を打ち切ったソニックブームは、レポートに押印した。晴れてミッション完了だ。
シャープキラー
【名声】1→3 (ザイバツニンジャの情報を持ち帰ったため)
キールバック
【DKK】を7消費してカルマロンダリング
1d6 → 3 +1 → 4
【万札】10獲得
チームディスグレイス
【万札】20獲得。余暇前に分配予定。
【余暇】3獲得
……トコロザワピラーを離れるからには、既に日が変わった頃合い。ディスグレイスは大きく息をつく。なんとか四人、全員無事で日を越すことができた。これは素直に喜んでおくべきだろう。
「やー、今日は大変だったねー」
「本当にね。誰のせいだと思ってるんですか」
前を行くシャープキラーを睨みつける。重そうな袋をぶら下げた彼女は朗らかに笑う。袋の中身はスシパックだ。すでにマンションに戻っているキールバックらの分もある。
「アッハッハ! ゴメンゴメン! でもさぁ」
「……?」
「『楽しかった』でしょ? 今日は」
シャープキラーが不意にこちらへ振り返る。悪戯っぽい笑みがネオンに照らされた。ディスグレイスは呆然とし……すぐに渋い顔をした。意味を悟ったのだ。
「余計な気を回して! そこまで嗅ぎ回るなら、彼女の身内のことも調べておきなさい!」
「ウン? なんかあったっけ」
「親密な同性のルームメイトがいると聞きました。そうと知っていれば手を出しませんでしたよ」
「…………そっか。そういうとこセンシティブなんだね。覚えとくよ」
ひどく意外そうな顔をされ、ディスグレイスは眉間のしわを深くする。こいつは自分をなんだと思っているのか!
シャープキラーはすぐに笑みを取り戻し、ディスグレイスの横に並ぶ。
「ま、小銭も入ったし、休みももらえたし。少しの間はゆっくりできるんじゃない?」
「…………そうですね。貴女に同意するのもすごく不本意ですけど」
仏頂面で言い捨て、ディスグレイスは我が家へと向かう。彼女らの休みは、始まったばかりだ。
【終わり】