忍殺TRPGソロリプレイ【ウィズアウト・ソング】評価編
◇評価タイム◇
「ムハハハハハ! ムッハハハハハ!」
高みから見下ろすネオサイタマはまるでネオンの海めいている。その中に聳え立つトコロザワ・ピラーは差し詰め灯台と言ったところか。その頂点に豪快な笑みが響いた。
ところどころ金粉の散りばめられた黒漆塗りの床の上に、ディスグレイスらは正座していた。その対面、30畳ほどの素晴らしい紫色タタミの上に鎮座する男こそラオモト・カン。ソウカイヤの首領であり、事実上のネオサイタマの支配者であった。
ディスグレイスはわずかな畏怖を微笑で隠す。彼女とて数々のイクサを乗り越え己のカラテとジツを磨いてきたソウカイニンジャだ。しかし……いや、だからこそわかる。ラオモトと自分の間のカラテに、なお埋めがたい差があることが。
あのシャープキラーでさえ畏っている。もっとも、場にそぐわない朗らかな笑みはそのままだ。それ以上に上機嫌な様子で、ラオモト・カンは無造作に水を向けた。
「ディスグレイス=サン。貴様の名はそこそこ届いておるぞ。ビホルダー=サンの護衛として有象無象のニンジャを退け、キョートに乗り込みザイバツの愚か者を暗殺した、と」
「は」
「ムッハハハハ! かつての賽銭泥棒がずいぶんと腕を上げたものだ! さて、今回の首尾を報告せよ。タイム・イズ・マネーだ」
ディスグレイスは唇を舐め、数秒間だけ呼吸を整えた。そして毅然と顔を上げる。
「件のアーチ級ソウルの憑依者……ヤモト・コキは捕らえました。それを保護していたフリーランスのニンジャ、シルバーカラスは既にジゴクへと送っております」
「ムハハハハハ! 見事! またも貴様は注文通りの仕事をこなしてみせたというわけだ!」
「ハハーッ!」
ディスグレイスは平伏! 慌ててキールバックがそれに倣う! 唯一、シャープキラーだけが顔を上げたままだ。彼女は恥ずかしげもなく胸元から一枚のフロッピーディスクを取り出す。
「あ、あと! ラオモト=サンのお役に立つかもしれないデータを回収してきました。これなんですけど」
普段とほとんど変わらぬ物言いに、ディスグレイスは平伏したまま肝を冷やした。せっかくの上機嫌が、この娘のシツレイにぶち壊されるのではないか。そのような危惧に襲われたからだ。
しかし、幸いなことにそうはならなかった。ラオモトが手をかざす。すると……見よ! シャープキラーの手からフロッピーディスクが浮かび上がり、ラオモトの元へと引き寄せられていったではないか! フシギ!
ラオモトの背後に控えていたオイランの一人が恭しくUNIXを差し出す。フロッピーディスクが差し込まれ、収められたデータをモニタへ映し出した。それを一瞥したラオモトは大笑!
「……ムッハハハハハ! 成る程! オミヤゲまで持ち込むとはなんとも奥ゆかしい!」
「アハッ! 喜んでいただけて嬉しいです!」
両者のやりとりに、ディスグレイスはそっと胸を撫で下ろす。……彼女の預かり知らぬところだが、シャープキラーが回収したのは暗黒メガコーポの機密データ。シルバーカラスが闇の生業を続けていく中で累積していった門外不出の情報なのだった。
「目敏い部下を持ったな、ディスグレイス=サン。せいぜい上手く使ってやるがよい」
「は、はぁ……」
「では顔を上げい! 褒美をとらす!」
ディスグレイスはおそるおそる顔を上げる。その前に、金髪のオイランが微笑を浮かべて待っていた。
「ドーゾドスエ」
そして……おお! その豊満な胸に挟み込まれているのは分厚い万札束! ごくりと唾を飲んだディスグレイスは、恭しくそれを拝領した。
◇リザルトな◇
前回余暇の清算し忘れ:ミニオンオイラン 1d3 → 2 【万札】2 ※
シルバーカラス撃破:【万札】5
残虐ボーナス:【万札】6
評価A+:【万札】50
合計:【万札】63獲得
※ ハウスルールにより、カロウシ防止のため1d3としています。ご了承ください。
ディスグレイス:【名声】10 → 13
キールバック:【名声】6 → 9
シャープキラー:【名声】7 → 10
「そして……キールバック=サン」
「は、ハイッ!」
ラオモトから突然声をかけられたキールバックが背筋を伸ばす! ネオサイタマの帝王はカタナめいて鋭い視線を彼女に向けた。メンポの奥に笑みを浮かべながら。
「実際にターゲットを捕獲したのは貴様だそうだな。どのようにした?」
「は……えと、その……相手がシャワーを浴びているところに、その、踏み込みまして……」
「ムッハハハハハ! 成る程! ネズミ袋に押し込んだというわけか! 理にかなっておる。よいぞ! 貴様の無慈悲さはワシを楽しませてくれる!」
「あ、アリガトゴザイマス!」
キールバックはドゲザめいてオジギ! その声には明らかに安堵の響き!
キールバック:カルマロンダリング
1d6 → 5 【名声】9→10
「そしてディスグレイス=サン。貴様にはボーナスを二つくれてやる」
「は……ボーナス、ですか?」
離れていくオイランを名残惜しげに見送っていたディスグレイスは、泡を食ったように向き直った。ラオモトは気にする風でもなく言葉を続ける。
「まず一つ。貴様にヤクザクランを作る権利をくれてやる。ソニックブーム=サンより話は聞いておるぞ……貴様を慕うニュービーがそれなりの数いるとな。事務所を持ったのだ。其奴らを集めて使いこなして見せよ」
「は……ハハーッ!」
「そしてもう一つ! 貴様が捕まえたあの女子高生をくれてやる。せいぜいソウカイヤの役に立てるよう鍛え直せ!」
「ハハーッ!」
ディスグレイスはほとんどドゲザ! ラオモト・カンの哄笑が高らかに広い室内へ響き渡るのだった。
◇タチアゲ◇
数日後! トコロザワ・ピラー、ショドー作業室!
「イヤーッ!」
裂帛のカラテシャウトとともに、広げられた紙へ荒々しい筆致のショドーが描かれた。見物していたディスグレイスたちが「おお」と静かな歓声をあげる。
「……これで、いかがでしょうか」
淑やかな女ニンジャ、ハーフペーパーは奥ゆかしく自らのショドーを掲げた。そこに記されたのは新たに誕生することになったヤクザクランの名だ。『グレアリング・オロチ』ディスグレイスは深く頷いた。
「流石ですわ、ハーフペーパー=サン。アリガトゴザイマス」
「ドーモ。ディスグレイス=サンの旅路に幸運が訪れるよう、祈らせていただきますね」
パチパチパチパチ。シャープキラーの騒々しい拍手を、キールバックが軽く肘で突いて黙らせる。彼女はふとため息をついた。
「クランの名も、ショドーも文句のつけようがありません。……ただ一点! 考案者がこの女であることを除いては!」
「アハハ! いいじゃんそれくらい。真剣に考えたんだよ?」
「……まあ、これ以上にしっくりくる案を出せなかったのも事実ですからね……」
ディスグレイスは苦笑する。なんでもクランの届け出にも書類作業が必要であるとのことで、早急にヤクザクランの名を決める必要があったのだ。妙なところで世知辛い。
いずれにせよ、自分の抱えるニュービーの何名かも所属を希望してくれている。筆頭ほどではないとはいえ、忙しくなるだろう。……新たな『じゃじゃ馬』もやってきたことだし。
今ここに、ソウカイヤ傘下の新たなヤクザクランが誕生したのだった。
【ウィズアウト・ソング】終わり
◇あとがき◇
まさかのブッダが寝ているリプレイとなってしまった。これもまた TRPGである。サツバツだね。
さてこのシナリオよく読んだら余暇がない。そのためこの三名でまたなにか別のシナリオに挑戦してみたいところだ。それと同時にニュービーたちも動かしていけるといいのではないか。
あと最後でさらりと出たハーフペーパー=サンはどくどくウール=サンのところのニンジャです。ディスグレイスとはソロシナリオで面識があったため、ちょっと出演させていただきました。いつもお世話になっております。
ともあれここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました! 気が向いたらまたやるよ!