デッド・アンド・アライブズ
その日は不幸続きだった。
「こっちだ! 早く!」
少年に手を引かれるがままにシノは駆ける。彼女はいまだ混乱の中にあった。どうしてこんなことになっているのだろう?
背後からは呻き声の群れが追ってくる。引き離してはいるものの、執念深くついてくるのだ。
二人は廃墟同然のビルへと駆け込んだ。それと同時に響いた銃声に、シノは身体をびくりと震わせる。
背後を見ると、追手の一人が頭を撃ち抜かれて崩れ落ちるところだった。屋上からの狙撃。他の追手たちは足を止め……動かなくなった仲間に群がり、食らいつき始める。
「……危ないところだった。あいつらに共喰いする性質がなかったら、俺たちがああなって……あ!」
ゾッとしたように呟いていた少年が、慌てたように少女の手を離した。そして勢いよく頭を下げる。
「ご、ごめんな!? その、緊急事態だったから、無理に引っ張っちゃって……!」
「え!? あ、えっと! その、平気! 気にしてない!」
ぱたぱたと手を振ったシノは、いまだ共喰いを続ける追手たちを見やる。そして覚悟を決めたかのように少年の背を押した。
掌からは彼の体温が伝わってくる。暖かい。
「それより、今のうちにあいつらの見えないところまで行こう。また襲われちゃう」
「あ、ああ……そうだな。ごめん。屋上に仲間がいるんだ。紹介するよ」
少年はバツが悪そうに頭を掻くと、階段の元へと向かう。シノは……背後で貪られていく『抜け殻』を見て首を振り、後に続く。
まったくとんでもないことだ。ただスペアの身体を漁りに来ただけなのに、まさか生者と遭遇することになるなんて。
遭遇のタイミングも悪かった。よりによって身体の記憶に引っ張られる幼体の群れを引っ張ってくるとは。シノは貪られる死骸から逃げていった幼体のことを思う。今度は安らかな場所で自我を確立できますように。
【続く】
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