SAVASと私のあとはこれだけ(古賀及子のエッセイ)
プロテインのSAVASを、ついに、私も飲んでいる。
粉末のを、毎朝シェイカーで水に溶かしてカッと飲み干す。運動に親しまない自分には縁のないものだと長らく思っていたのだけど、いつか、タンパク質の重要さを人に解かれ、朝の習慣に取り入れた。
こういった粉末のプロテインというのは、巨大なパッケージで売られることが多い。1日に摂取する推奨量が多いから、同じ60日分でも他の健康食品に比べて体積が大きいわけだ。
プロテインに親しむ前までは、ドラッグストアなどで見かけては、なんだあれ、やけにでかいなと、人ごとのよう通りすぎたものだ。今は袋入りが多いが、かつてはドラム缶のようなものに入ったタイプもよく見た。
それが今や、自宅には2キロのSAVASの袋がある。狭い自宅で眺めると、でかさも店で見るよりいよいよ大きい。毎日袋から計量するのは大変だから、1000mlくらいの容量の容器にいったん移して、そこから日々、すくっている。
今朝、その容器が空になった。台所のつり戸棚にしまってある2キロの袋から詰め替えようと、椅子に乗って戸棚から袋を出し、そうして、椅子から降りるのは面倒だわいと、横着をした。食器洗い洗浄機の上に容器を乗せ、椅子に乗ったまま、SAVASを容器にざらざらとあけた。
手元が狂った。ふいにどばっと出て、そこいらじゅうが、SAVASだらけになったのだ。こぼすだけならまだしも、高いところからわざわざあたりに撒いてしまった。
あわわあわわと片付ける。息子が起きてきた。
「何、この粉」
「いやさ、サバスを椅子に乗ったままで袋から容器に開けようとして、そしたらこぼしちゃって」
「何?」
「サバス」
「ああ、ザバス」
「あ、そうか、ザバスか。ザバス、ザバス」
もわもわと煙るSAVASを掃除して、この日もスプーンにひとすくい、水に溶いて飲んだ。
私が飲んでいるのはチョコレート味で、これが必要以上においしい。恐縮する。
SAVASは、知らない間に世にはびこって、気づけば人を包囲した。いまやコンビニでもスーパーでも紙パック飲料や健康食品の棚でそれは大きく幅を利かせ、パッケージに印象的に大書きされた「SAVAS」の文字でもって、いかにもご存じ! という具合で堂々としてまぶしい。
かつては、あれはなんだろうと、薄く思いながら過ごしてきた。どうやらプロテインというもののようだと知って、そもそもプロテインってなんなのかよというところも徐々に理解し、距離をつめてきた。
そうして、私のような地獄のインドア派も、ひとつ末席からプロテインに手を伸ばさせていただいて、たんぱく質を意識的に摂取しようかのう、などと、卑屈に重い腰をあげ、しかし、最初はもっと安く売られる、SAVASではない別の商品を選んで、いつしか安売りしているSAVASを見かけて買ったのだった。
あのSAVASが、まさか自宅にやってくる日が来るとは思わなかった。生きているといろいろあるなとは常々思わされるが、SAVASのようなことこそ、そうだ。
そうして調べてみると、SAVAS、1980年に発売開始されたブランドであった。40代なかばの私と完全に同世代だ。超ロングセラーではないか。
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