古賀及子の『気づいたこと、気づかないままのこと』 第2回 新宿郵便局留
新宿駅の西口、地下道を使い這うように駅前のロータリーの下をくぐりぬけ地上へあがると、地図上をヨドバシカメラが島のように点在するエリアに出る。
ヨドバシカメラとヨドバシカメラのあいまに飲み屋とかまんが喫茶とかコンビニとかスマホ屋とか雑多に店がぎゅんぎゅんに詰まり、それでも道路は広いからあっけらかんとした雰囲気があって、繁華で雑然としているわりには怖くない。
新宿郵便局はその奥、都庁に向けてビジネスビル群が並びはじまる直前にある。ざらざらした印象の他の建物にくらべておだやかでシンプルなたたずまいで、そこだけ掃いて上から置いたみたいな様子で建っている。
郵便局には、商店街の途中や住宅街に突然ある金融と郵便の窓口が1~2つあるタイプの小さいのと、その何倍もの広さ、銀行くらいの大きさで土日や夜間も郵便物を引き受けてくれる巨大なタイプがあって、新宿郵便局は後者の、多分都内の郵便局のなかでも代表的な局なんじゃないか。
私は子どもの頃、郵便局が大好きだった。
郵便好きの周辺には、切手ファンがいたり、便箋や封筒など紙もののファンがいたり、消印など郵便のシステムを愛好するファンがいたりと、さまざまな種類の愛し方がある。私は物質というよりも郵便という通信によるコミュニケーション自体に異様な熱意と感心を持つタイプのファンで、なにしろソーシャルネットワークに関心があった。
私の子ども時代というともう30年以上前だが、当時は雑誌にペンフレンドの募集欄というのがよくあった。募集する人の住所と名前が堂々と掲載されており、それを見て手紙を書いて送ったし、私の募集文も載せてほしくていろいろな雑誌に何度も応募した。
意気が高じて郵便局自体にも強い気持ちのうわずりがあった。
郵便配達のバイクを見るとそれだけでなにかが起こるようなわくわくを感じたし、ポストを見つけるとここから手紙を出すことで世界のどこにでも届くのだといてもたってもいられない気持ちになった。
育って20代の前半のころ、バイト先で知り合った年下の友人から、自分の代わりに郵便局に手紙を受け取りに行ってもらえないかと頼まれた。
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