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爆ぜる火花の火薬臭

ダラダラと夏にだらけた体たらくで過ごす日々である。外に出たついでに虫を探したり、夏を探すことはするが、結局のところ猛暑と成り果てた今年の夏を満喫するにはそれのみではリスキーなのである。熱中症にやられて台無しになる夏など求めていない。
したがって、エアコンの効いた部屋で出不精を悪化させることこそ極みなり。ああ今日も締め切った部屋のエアコンが心地良い。

鹿田です、よろしく。

エアコンの効いた部屋では反比例して読書量も減る。部屋では布団に横になる以外なにもしたくない。まるで何かのアンチテーゼのように机の右には読みかけの『蟹工船 小林多喜二』がおいてあり(「おい、地獄さいぐんだで!」までしか読んでいない)、『黒牢城』も未読である。読もうとしても、眠気という本能には逆らえないのである。

それでもなんとか読めているのは夏目漱石の『こころ』で、それは単純に仕事の合間に読んでいるからであって、それでも居眠りをしないこともないので先生はまだ手紙をよこさない。学校の国語の授業で一応の結末を知っている身としては、それもそれでありなのかもしれないと積読の兆しが光る。

今とて眠ろうと思えば眠れるのである。それでも最近は休日の惰眠はへり、10時くらいには起きるようになったので過眠による頭痛(もしくはストレスの緩和による休日頭痛が、夏により常態的に緩和しているから起こらないのか)も綺麗サッパリなくなった。

故、この休日の過ごし方を維持したい。
そんな動機で描かれる、今日も可哀想な犠牲的記事である。

しかし来週火曜日には職場の暑気払いがあるし、再来週の週末には愛しき群馬へ旅立つ手筈となっている。僕が無理やり夏をしなくても、世界が勝手に僕を夏に仕立て上げるのである。やはり夏とは四季の中で唯一洒落た季節であるな。

夏とは本当に短い。夏の素晴らしさに外の季節が嫉妬して、神になにか夏にとって不利なことを告げ口したのではないかと思えるほど短い。

今日やっと梅雨明け宣言の果たされた我が東北である。

これより鹿田にとって極楽浄土の始まりと言っても過言ではない、そういった季節が始まるのだが、それにしても遅い。
僕は確かに3月ごろから夏を感じ初めはするが、やはり感じ始める夏と、気象庁宣言による公式夏との差は月と鼻くそほどの差がある。セミも毎年几帳面に7月1日界隈からしか鳴かぬし、梅雨と梅雨明けの空気の差も、また歴然である。

これがお盆をすぎると瞬く間に秋へと急降下するのだから、本当夏とは同情に値する。僕も同情に値する。

そして蝉があまり鳴いていない。それが今度は僕に焦燥を来す。せめて公的夏の間は精一杯夏を演出してくれと切に思う。聞き耳を立ててもアブラゼミが一匹向かいの山で鳴くばかりで、あとはとぼけたようなウグイスがたまに「ほうぉぉ…けきょ♫」と虚しい効果音を演出するばかりである。あとはぴーちくぱーちくおしゃべりしている痩せスズメたちくらいで、それも時折過ぎゆく車の滑走音に打ち消されていく。

まだ、体温の蒸発した布団に再び横になり、そのひんやりとした触感に沈むほうが、夏を感じられる。
布団が勝つか、蝉が勝つか見ものではないか。

そんなんでいいのか蝉よ。
万が一にも布団に負けた時君は、人工物にも及ばない夏の風物詩に成り下がるがいいか、いいのか本当に!

蛙鳴蝉噪と言われていた、あの時代が懐かしくないのか!
夏の覇権をもう一度取り戻すのだ。蝉、お前たちならばやれる。喧しいと罵られるほどの、頭がくらくらするほどの、後生ですから鳴き止んでくだいと言われるほどの、あの時代が。

ま、鹿田もそれがいつの時代だか正確には知らぬが、とかく確かに脳裏には君たちの全盛期が宿っている。

そんな時、茹だった頭で見上げる入道雲が好きだった。

何も言葉はない、汗を流すだけ流して、木陰に足を投げ出して座り、見上げたあの巨大な積乱雲と数多の蝉の声だけがいつまでも変わらぬ僕の夏の象徴なのである。ビールなんて飲まなくても、夏を身近に感じることが出来たあの時代に、僕は夏に対し、なんど素敵なため息を吐いたかわからない。

はかはか肩で息をしながらも、蝉が鳴き猛っていても、夏には不思議な静寂があること・・・・・・・・・・・を僕は、僕たちはあの時知っていたのだ。入道雲の裏側まで続く原っぱの草原くさはらを抜けて、僕たちは夏を俯瞰していた。
町や、大人や、路地裏の寂寥、花火大会のだれもいない公園、化石みたいな古い時代の残骸、それの沈んだ池や、朽ちたダンボールの裏、あったはずのブランコの空き地、一度だけしかたどり着かなかった学校の裏山の神社、どんぐり拾いに夢中になって、顔を上げたら始めてみた〇〇。

そんなのが、そこら中に溢れていたのである。
ああ、せめて茹だった頭で夏の幻を見てみたい。
切実である。

…スンッ 鼻先よぎる懐かしい匂いがある。
三度みたび布団を脱ぎ捨てて、夏を捕まえに行く。












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