ネコのうたたね
肩こりが楽になったと思えば、今度は肩甲骨がいたい。フィットボクシングの準備運動で、肩甲骨はがしをやりすぎたか?昨日も痛みがあったのだが、明日には楽になるだろうと思っていたのに今日は尚痛い。これがツケというやつか。無かったことにした空白の6日間の報いか。
取りあえず自己流の、痛むならもっと強く刺激し痛みをマックスにして、その後しばらくは対比的に楽に感じる術を使い保っている。また痛くなったら、その部位を強く指で揉むのだ。それがいいのか悪いのかは関係ない。今の痛みが引けばいい。
しかし1分に1度揉むのは面倒臭い。どこかに湿布はなかったかしら。
鹿田は猫背でもあるから、それも良くないのかもしれない。明日から晴れて、現世復帰だというのに、こんな濁りと共に復活したくはない。心から初夏の心地よさを受け入れて、スキップしながら会社に向かいたいのだ。
うん、ちょっとサロンパスか何か探してくる。あるかな、昔肩こり酷かった時使った余りが、残っているといいのだけれど。
あったあった。あったが、これが肩甲骨の下となると、なんと貼りずらいことか。もちろん鏡を見ながらやることになったのだが、鏡に映る自分の手の動きは把握しにくいし、繊細な作業が要求されるサロンパス貼り、となるとかなりの集中力がいる。
結果、鹿田は集中力が切れ、サロンパスの上部がよれよれになってしまったのだが。…スースーと気持ちがよければいいのさ!ちゃんと貼りたいところには貼れたし。気分も晴れたし!
得意のごまかしが効いたところで、さて、では集中を文章に戻すか。左肩甲骨はもう気にならない。そして昨日とは打って変わって外は快晴だ。それも雲一つない青空が広がっている。明日、とうとうその空の直下に立てるとおもうと、感涙しない訳でもない。ずび。あ、これは万年鼻炎のせい。
浮かれている。傍目にもわかるだろうが、何より自分自身がわかる。だってやっと外にでられるんだもの!
そしていま。2週間放置していた自分の車を確かめてきた。よかった、エンジンはかかる。しかし埃をたくさんかぶっていた。これは運転中、初夏の突風がさらっていってくれるかしら。
久しぶりに外に出た。天気も良く空は少し、青が濃くなった気がする。風も冷たくない。まぶしい景色に立ち尽くして、現世と体内時計を調整していると、じわっと、汗が生まれる。
おお…――――――
少し緊張を抱きながら空を見る。やつを探す。やつの顔色を窺ってやろう。久々に鹿田が下界にきてやったぞ。そしてゆっくりゆっくりと僕は、真上を向く。いた!
その瞬間眩む。くらっと眩む。地面が揺れて濃い影に覆われる。脳天が焼かれるような感触。そして少しずつ、少しずつ慣れてゆく。
深呼吸をする。体中を使って深呼吸をする。そう、僕と君とはいわば一心同体なのだ。眩光で悪戯するところも、まるで勝手に出かけてしまった主人に臍を曲げてしまう猫みたいだ。
君に臍はないけどね、太陽。しかしその黒点のゆくゆくは、僕の手に委ねられているのだよ。君は偉そうに冷たく(太陽のくせに)「僕は少し寝ようかなぁ」などと言っては人々を脅し、そして自身も本当に眠たくなってしまうような阿呆だが、果たして自身の不活発だけが、それに起因してると思っているのかい?
僕と君とは表裏一体なのさ、僕が不活発になれば君も不活発になる。そして僕は生まれてこの方活発になったことがない、そう、怠慢の権化だ。そんな僕なんかにいいように影響させられてしまうほどの、ちっぽけな存在なんだよ、お前なんてさ。ね、太陽、いいかい?そりゃあ僕は元来夏が大好きだ、理由ははわかないけれど、きっと君と一心同体なこともその理由の一つなのではと、最近は考えている。仕方ないよ、そこは僕も自制できない。理由もなく好き、ほど強い力はないからね。根拠のない自信ってあるだろ?あれと同じさ。根拠もないのにどうしようもなく惹かれるパワーには、誰も、何も叶わない。
そう、だから太陽、君は夏のひと時だけ、僕に比例して活発でいられるのさ。
え、お前が拗ねたネコの方だろうって?よく言うよ太陽。お前なんて夏以外は借りてきた猫同然じゃないか。ま、それもこれも僕の怠慢がいけないんだけれどね。それほど巨大なのに、僕みたいなちっぽけな奴と一心同体だなんて、ほんとかわいそうだなお前は。大体僕が解放される前日にわざわざ出てくる当たりが怪しいんだよあ。お前、僕に媚び売ってるだろ?売ったところでどうしょうもないんだよ、僕は僕で、ついでの君なんだから。それもさ、大の太陽様がそんなことしていてバレたらどうすんの?バレた後も君は雲がいない日は毎日、一番目立つ空の天辺に座さなくてはいけないんだよ?月も僕らの一部だから筒抜けでしょうがないけれど。きっとあいつ結構陰湿だから、明日の朝当たりけらけら笑いながら空に留まっているんじゃないかな。何黙ってんだよ、少しは言い返せよ。なんだよその不敵な笑みはさ。言い返せよ…。
あああ!!…んもう…くそー!…いいや。
ゴッホン……………「ニャー!」