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『歯科クリニックで見逃してはいけない 口腔粘膜疾患―経過観察・院内検査・専門医への紹介その判断ポイント』より―「はじめに」

『歯科クリニックで見逃してはいけない 口腔粘膜疾患―経過観察・院内検査・専門医への紹介その判断ポイント』を3月2日に発刊しました! まだご覧になっていない方々のために「はじめに」をウェブ版として公開します.ぜひ,ご一読ください.(編集部)

本書は,月刊『日本歯科評論』の2018年1月号~2021年6月号,8月号の巻頭連載「口腔病理医からみた 歯科クリニックで見逃してはいけない 口腔粘膜疾患」,および2017年9月号の特別企画「口腔がんを見逃さない!―今,新たな細胞診を臨床に―」に,統計などのデータや内容の一部に加筆・修正をしたものです.

病理診断は,臨床所見,臨床経過などを踏まえ,患者さんから採取された細胞や組織を,主に光学顕微鏡を使って診断します.病理診断によっては確定診断となることも多く,治療方針の決定や治療効果の判定にも用いられます.
一般に病理医は“狭いところ,小さなところばかり視ている”と思われているかもしれません.しかし,細胞や組織を注意深く観察していると,患者さんの症状も推察できることがあります.
たとえば,「どこから出血しているのか」「炎症はどの程度なのか」など,マクロ像がみえてくるのです.逆に,臨床像をみると顕微鏡像が頭に浮かぶこともあります.顕微鏡に乗ったガラス標本の世界から,広く臨床にフィードバックできる,さまざまな情報をもたらすことも可能です.

口腔は狭い領域ではありますが,多くの複雑な構造,形態,機能をもった組織が集中しており,特に口腔粘膜に現れる異常に対して,その症状や肉眼像から臨床診断を導き出すことは簡単ではありません.
なかには口腔がんのように患者さんの人生に大きくかかわる疾患も含まれます.

歯科クリニックから高次医療機関に紹介される患者さんには早期の疾患も多くありますが,残念ながら進行例も少なからず含まれています.
病理医は患者さんと直接かかわることは少ないので,歯がゆく思い,「口腔病理医として何かできるのではないか?」と考えていました.
そして,「最前線である歯科クリニックとのかかわりこそが,口腔粘膜疾患で悩む患者さんのためになるのではないか」と考えるようになりました.歯科クリニックとのかかわりの中で,長年病院の先生がたと築き上げた「患者さんのために病理診断をどのように使うのか?」といったことを実践できると考えています.

近年,歯科で扱う疾患は従来のう蝕や歯周病に加え,全身疾患とのかかわりも多く,多岐にわたっています.
歯科診療そのものが“口腔粘膜をみる”といった新たな変革を迫られているといっても過言ではないと思います.幸い,口腔粘膜疾患は目でみて,触ることのできる病変がほとんどです.
毎日の歯科診療時にチョット目線を変えてみるだけで,気づくことも多いのではないでしょうか? 本書がそのお手伝いとして,お役に立てればと思います.

2022年2月
田中陽一

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