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【書評】萌出障害―先天欠如,歯胚位置異常,萌出遅延,過剰歯,捻転歯 臨床対応CASEBOOK

月刊『日本歯科評論』では,当社発刊本の書評を随時掲載しております.2022年11月号に掲載する「HYORON Book Review」を発刊に先がけて全文公開いたします.(編集部)

土岐志麻/青森市・とき歯科

萌出障害とは

日々の診療で,萌出障害を経験したことがないという方はほとんどいないだろう.
たとえば,2018年に日本小児歯科学会が発表した先天欠如の出現頻度は10.1%,著者の調査でも11.7%に見られたということである.

目の前の患者,10人に1人,先天欠如があると考えられる.しかし,それはパノラマエックス線写真を撮影しなければわからない.
だから著者は,前歯交換期終了までに1度はパノラマエックス線写真を撮影するように勧めている.まったくその通りだと思う.

そうやって撮影された数1,000例以上.その中から,臨床に必要と思われる選び抜かれた症例の数とその種類の多さには本当に驚く.
ページを開くと多くのエックス線写真と一緒にカラーの口腔内写真が豊富に掲載され,最初に感じたことは「見やすい!」ということだ.

さらに,エックス線写真の診方・見方がわかりやすく写真に添えられている.
先天欠如は歯胚がないのでエックス線写真上でも欠如がわかりやすいが,歯胚の位置異常や顎骨内での捻転した歯胚の画像は,見慣れていないとわかりにくい.
そのような症例も多く掲載され,それらを並べてみると臨床でも理解しやすい.

また,萌出遅延の項では,歯胚の発育が遅い歯を数年にわたりパノラマエックス線写真で追い,根尖の完成状況の確認を行っている.

症例集として

著者が  “この本は「症例集」として使用して欲しい”  と記載している.それほど症例の数が多いということだ.
それぞれの診断について記載された上,治療方法についてもこちらもカラー写真で示され,術式や治療途中の変化が詳しく載っている.

しかし,この書籍が素晴らしいと感じたのはそこだけではない.
この書籍には,ただ単に治療の技術的な方法だけではなく,治療に際し患者本人の気持ちに寄り添う治療方法が選択され,その理由・方法が記載されている.
臨床を行う上でもっとも重要なことだ.

「理想的ではないが......」と,所々に出てくる著者の言葉から,「歯科的には理想的ではないかもしれないが,患者本人にとっては最良の治療である」という思いがくみ取れる.

パノラマエックス線写真の必要性

私(筆者)には苦い経験がある.
上顎側切歯2本が抜けそうだと来院した9歳の子は,エックス線写真を確認するとすでに側切歯の根が3分の2,犬歯の異所萌出により吸収し保存不可能であった.
もっと早くに犬歯萌出の向きを変えることができたなら,2本も永久歯を失うことはなかっただろう.

著者が勧めるように,特に症状がなくても小学校低学年のうちに1度パノラマエックス線写真の撮影は必要であり,撮影したなら何か異常がないか,ぜひこの書籍の写真と見比べていただきたい.気づきさえすれば,早期に対応できる私たち歯科医師には,必要な一冊である.

関連リンク
『萌出障害―先天欠如,歯胚位置異常,萌出遅延,過剰歯,捻転歯 臨床対応CASEBOOK』(河井 聡 著)
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