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書評『日本歯科評論別冊 第一大臼歯を通して考える 健全な口腔・歯列の育成と生涯を通した機能維持』

月刊『日本歯科評論』では,当社発刊本の書評を随時掲載しております.2024年8月号に掲載の「HYORON Book Review」を全文公開いたします.(編集部)

浜野美幸/東京都大田区・千葉歯科医院

本書を一目見た時,タイトルは歯種である 「第一大臼歯」 ですが,解剖の本ではなく,編著者には大学の小児歯科の錚々たる先生方のお名前が連なっています.
はて? 「第一大臼歯」をモチーフに,どのような切り口で構成されているのだろう,と思いながら書を手に取りました.

拝読して,改めて 「第一大臼歯」の存在意義を再認識しました.
生涯にわたり美味しくご飯を食べ,楽しく語らい,素敵な笑顔でいられる健康長寿のためには,第一大臼歯を齲蝕から守り,咬合の機能歯として機能を維持することが重要です.
そのためには,齲蝕の予防・治療を施し,咬合誘導や口腔機能の育成など,第一大臼歯が萌出する前から口腔の管理に携わり,成長と共に起こるさまざまな事象に適切に対応することが必要です.
本書は「第一大臼歯」という1本の歯を通して,小児歯科の基礎から臨床の勘所について書かれています.大学の先生方が執筆されたと聞くと,難しく固いイメージを持たれるかと思いますが,学生さんの講義をされている先生方の解説はわかりやすく,シンプルです.
しかも最新の情報や研究の科学的根拠に基づいた内容ですので,患者さんの説明にも応用しやすく,編著者の朝田先生が「臨床テキスト」とおっしゃるように,まさに秀逸な臨床書籍です.

まずは,第一大臼歯を齲蝕から守ることに焦点が当てられています.齲蝕感受性が高いエナメル質形成不全である MIH や幼若永久歯の臨床的対応には,頭を悩ませることが多いかと思いますが,歯冠修復や歯内療法の処置については,診断と処置法がチャートで示されています.
術式では使用薬剤についても記述があり,日常臨床で強い味方になります.
齲蝕予防については,口腔保健指導として,歯口清掃やフッ化物の応用に留まらず,栄養指導まで領域を広げ,全身の健康までを考慮しながら子どもの健康をサポートするという本書の目指す奥行きが感じられます.
また第一大臼歯の萌出途中の歯肉炎については,臨床の注意ポイントもわかりやすく,臨床に直結する内容です.

一方で,第一大臼歯は歯列を形成し,咬合を確立するための要となりますが,萌出過程でトラブルが生じることもあります.
萌出障害である異所萌出や埋伏歯については,診断と対応をフローチャートにより示されていますので,治療方針を立案する際に有用です.さらにエックス線画像を多用した事例紹介もありますので理解が深まるでしょう.
また,咬合誘導や保隙装置については,適応症のみならず製作に関する細かい注意点までをシェーマにより解説していますので,大変実践的な内容になっています.

さて,「第一大臼歯」は「6歳臼歯」とも言われます.「6歳臼歯」は,6歳頃に生える6番目の永久歯であり,親子にとって成長を感じられる瞬間であり,嬉しいイベントではないでしょうか.
その大事な「第一大臼歯」を守り,機能歯として育てるためには,一人でも多くの方に,本書を活用して知識をアップデートし,治療技術を身に付け,適切な口腔管理ができるように活用していただきたいと思います.
まずは,臨床で困っている項目や深掘りして学びたい項目からお読みいただき,ぜひとも読破されることをお勧めします.読後には小児歯科の考え方や新しい視点が理解でき,小児歯科臨床が少なからず楽しくなり,自信が持てることと思います.
私もご執筆された先生方の研究や臨床を通した子どもたちへの熱い思いを感じながら,繰り返し拝読し,習得しようと思います.

関連リンク
『第一大臼歯を通して考える 健全な口腔・歯列の育成と生涯を通した機能維持』(朝田芳信 編著)

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