Special Interview:「歯内療法 成功への道」シリーズの完結を迎えて
木ノ本喜史(きのもと よしふみ)
編集部 このたび,歯科界において好評を博している「歯内療法 成功への道」シリーズの第7弾となる『CT時代の臨床根管解剖―三次元で捉える解剖学的情報と病態』が発刊となり,加えてシリーズの一応の完結を迎えることになりました.編著者として携わってこられた木ノ本喜史先生と共に,本シリーズについて振り返りながら,歯内療法,そして歯科医療のこれからについて考えてみたいと思います.
2009年4月開催の日本歯内療法学会第30回学術大会でのデンツプライ賞(当時)受賞講演「効率的な感染根管の攻略法―感染源はどこにある―」を拝聴して,原稿ご執筆を依頼したのが本シリーズのスタートとなりますが,まずは最新刊『CT時代の臨床根管解剖』の発刊を迎えて,率直な感想をお聞かせください.
木ノ本 最初の『臨床根管解剖』は月刊『日本歯科評論』(以下,本誌)での連載を2009年12月号からスタートし書籍になったのが2013年で,同時発刊となった『根尖病変』も含めて,シリーズ完結となる7冊目の『CT時代の臨床根管解剖』まで約10年かかりました.1人で執筆すれば50年はかかりそうな内容でしたので,多くの先生方にご協力いただいたことで,10年で完結を迎えることができ,大変感謝しているところです.
臨床の教科書を目指して
編集部 シリーズ第1弾となる『臨床根管解剖』において,「いわゆる“臨床歯内療法学”の教科書」としての項目(表1)を挙げてスタートしたわけですが,改めてシリーズの完結を迎えてどのように感じていらっしゃいますか?
木ノ本 最初に編集部から声をかけていただいたとき,「臨床の教科書を作りたい」という構想をお伝えしました.それは,私が米国・テキサス大学サンアントニオ校に留学したのが1997年で,その際レジデントの講義などに参加してさまざまなレクチャーを受け,論文ベースの教育がなされていることを強く感じたことがきっかけの1つでした.どちらかというと,日本で受けた歯学教育はそれまでの治療法をまとめた内容でしたので,エビデンスに基づく臨床の教科書をまとめたいという思いが強くなったわけですね.
さらに1990年代の後半以降,インターネットの普及でエビデンスと呼ばれる論文を数多く目にするようになってきていますが,玉石混淆のような状態で,自身の意図する論文をピックアップすることも可能な状況になりつつあります.見方を変えれば,エビデンスがあるからといって,それをそのまま信用してもよいのか,都合の良いところだけを応用してもよいのか......ということを感じています.そこで,臨床に役立つエビデンスに基づいた教科書として,表1の項目を挙げてスタートしました.もっとも,その段階ではどこまで続けられるかはわかりませんでした.
本シリーズの具体的な目標としたのは成書『Pathways of the Pulp』で,臨床的な内容について各分野の専門家がエビデンスに基づいて執筆されています.そして,版を重ねるにつれて頁数が増えていき,相当なボリュームになっています.
編集部 本シリーズも7冊合計で総頁数が1,000頁を超えるボリュームとなり,『Pathways of the Pulp』と同等の頁数になりましたね.それでは,本シリーズの各書について,それぞれの読みどころや臨床に活かしてほしいポイントなどをご紹介いただきたいと思います.
臨床根管解剖
木ノ本 『臨床根管解剖』を最初にまとめたいと思ったのは,先ほど述べたように,テキサス大学に留学した際に根管解剖に関するエビデンスに触れることができたからです.たとえば,2根管が並んでいるときはエックス線像が見えにくくなるとか,今にして思えば当たり前のことなのですけれど,私が留学するまでの卒後10年間,知らなかったことでした.調べてみると,1960年代や1970年代に論文が多く出ていましたので,いつかそれをまとめてみたいと考えるようになりました.
それまでは,歯種ごとの根や根管の数については知っていても,歯種や部位における彎曲やエックス線像の見え方について意識して治療されていた一般の臨床家はそれほど多くはなかったのではないか,と感じていました.つまり,歯内療法を専門とされているような先生は別として,一般的には根管解剖と臨床が乖離した状態にあったように思われます.そこで,臨床に即した根管解剖について調べてみることにしました.
私が留学から戻ってきた2000年頃から,当時所属していた大阪大学の歯科保存学教室の抄読会などでまとめはじめ,本誌での連載でベースとなる部分を発表し,そしてトータルで約13年かけてまとめたのが,書籍『臨床根管解剖』ということになります.
編集部 木ノ本先生が学生のときにも歯の解剖に関するカリキュラムは存在していたと思うのですが,その内容が臨床とは結びついていなかったということなのでしょうか?
木ノ本 当時は,歯学教育の初期段階での解剖学の中で歯の形態や根管解剖に関する知識を学び,その数年後に臨床系の講義を受けていました.したがって,解剖学と臨床とは乖離していたように思います.おそらく,他の大学においても同じだったのではないでしょうか.
しかし最近では,私は広島大学の3年生に対する臨床系の講義において根管解剖について解説しています.状況が変わってきているのかもしれません.
編集部 『臨床根管解剖』では,解剖学的知見だけではなく,根管内に侵入してきたり,存在している細菌に対する歯内療法の原則,臨床における知識の活用など,診査・診断に結びつく内容が多く含まれています.処置を行う前にそれらの情報をよく整理して,きちんと見定めていく必要があるわけですね?
木ノ本 そのとおりです.根管解剖を把握したうえで根管治療を行うわけですが,その目的をしっかり理解しておかなければ,良好な結果は期待できません.感染が根管を経由して根尖方向へ入っていかないために根管を形成して充塡するわけですが,そのための原理原則を押さえておくことが重要です.そこで,それらを「臨床根管解剖」以降の巻で整理しようと考えました.
根尖病変
木ノ本 次に,本誌2012年4月号の特集「1つ上を目指す歯内療法へのアプローチII:根尖病変への対応を再考する」をもとに,項目を追加して書籍化したのが『根尖病変』となります.以後,本誌で特集や連載として掲載した後に再編集して書籍化する形となりますが,本書の発刊のタイミングとしては『臨床根管解剖』と同時で,2013年6月に東京国際フォーラムで開催された「世界歯内療法会議」にてお披露目となりました.
偶発症・難症例への対応
木ノ本 偶発症や難症例は,歯科の雑誌や学術大会などでよく取り上げられるテーマですが,せっかく発表されたものがそのままになっているという印象がありました.実際に,自分が同じようなケースに遭遇したときに参考にしようとしても,きちんとまとめられた資料がなかったので,本シリーズにおいてエビデンスに基づいた診断や治療法についてまとめてみたいと考えたのです. 歯内療法においては,本来の治療目的とは異なる結果を招いてしまうことがあります.術者サイドが気づかない間に生じてしまうことも少なくありません.そして,「痛み」をはじめとする臨床症状を伴うことが多いため,患者さんにとっては歯科医療に対する信頼を損なう原因となってしまうこともあります.
本書では通称として用いられる「偶発症」を使用していますが,厳密には「合併症」「併発症」「偶発症」に分けて用いることが推奨されています.私たちがよく使う「偶発症」という用語は実際には“手術や検査等の後,それらがもとになって起こる併発症”であり,医原性の要因が関与していることが少なくありません.一方で,歯根破折やエンド-ペリオ病変,歯根吸収などは診断が難しく,しかも根管への感染源の侵入の阻止も困難なので,治療が長期化したり,治癒が得られないことも多く,これらを「難症例」として「偶発症」とは分けて章立てを行いました.
さらに本書では,単に対応法やリカバリーテクニックについて述べるのではなく,偶発症や難症例の予防につながるように「なぜ,そのような事象が起きたのか?」という原因を含めて解説していただきました.たとえば,難症例においても歯根破折が起きないようにするには“どのようなメカニズムで起きるのか?”“どのように注意すべきなのか”という点を考えて処置を行うことが大事だと感じています.
編集部 偶発症の項目をみると,“痛み”に関連するものが多いです.術前・術中・術後のさまざまな不快症状を回避することは,歯内療法に対する信頼につながるように思われますが,いかがでしょうか?
木ノ本 米国歯内療法学会(AAE)でも歯内療法において痛みを取り除くことを1つの目標と定義していますし,とても重要です.急性期の痛みはもちろんですが,歯内療法に伴う不快症状への対応は大切ですね.本書においても詳しく解説していただきました.
編集部 今次診療報酬改定で「NiTiロータリーファイル加算」が導入されますが,「ファイル破折の予防策と対処法」の項目も必読と言えますね?
木ノ本 NiTiファイルが臨床で使用されるようになり約30年が経過しました.各社の製品の成熟度は非常に高くなっていますが,やはりファイルの破折は使用する側の最も危惧するところです.その原理と予防策を再度確認していただければと思います.
抜髄 Initial Treatment
木ノ本 日常臨床で感じるのは,歯内療法の再治療の割合が多いということです.はじめに行われる根管治療において長期にわたって問題が生じなければ,再治療が必要となるケースはそれほど生じないはずですが,残念ながら文献的な成功率をみても100%ではありません.厳しい見方をすれば,どこかに見落とされてしまう項目があり,それが失敗,すなわち感染根管治療につながると考えられるわけです.そこで,抜髄処置を究めて,感染根管治療を撲滅することを目標に,「抜髄」についてまとめる本書を企画しました.
『抜髄Initial Treatment』というタイトルにはさまざまな意見があると思いますが,初回に根管にファイルを挿入する処置,つまり抜髄と歯髄壊死の症例を「Initial Treatment」と呼び,再治療である「Retreatment」と区別しました.そこで本書では抜髄処置だけでなく,いわゆる初回治療を成功に導くことを目標としたため,本来は同意語ではないのですが,『抜髄Initial Treatment』という和洋折衷のメインタイトルにしました.
これまでシリーズ3冊の執筆・編集に携わってきた経験を踏まえて項目を厳選して取り組みましたが,実際の臨床に即した内容,なおかつ理論的裏付けのある内容,エビデンスを示せる場合はその内容,そして,なるべく平易で理解しやすい内容という,臨床家にとって欲張りな希望を叶える構成を行ったところ,全23章・400頁というボリュームになってしまいました.とはいえ,確実に「抜髄 Initial Treatment」を成功させるために必要な項目・頁数だったと考えています.
実際に読み始めると,丸1日かけても読み切れません(笑).「どこが大事ですか?」「どこから読めばいいですか?」という質問をいただくのですが,それぞれの章が独立して完結していますので,先生方が不得手としていたり,よくわからないと感じる項目から読んでいただければ......と考えています.先ほど保険導入の話がありましたが,「ニッケルチタン製ファイルの特徴と根管形成」の章から読み始めてもいいと思います.
編集部 木ノ本先生ご自身で新たな発見となったり,ぜひ注目してほしい項目はありますか?
木ノ本 もちろん,すべてが重要な項目ではありますが,たとえば髄室開拡に関して加藤広之先生が解説されている方法は,私も実践してみて理にかなっていると感じました.また,う蝕除去に関しても,阿部 修先生が解説したう蝕検知液を活用する方法は,歯内療法の学生教育ではう蝕除去は出てきませんので,見落とされがちではあるものの大変重要です.ファイルを根尖まで到達させ形成することだけが根管治療ではなく,その準備となる処置を含めて根管治療なのだと思います.
個人的には,麻酔科のエキスパートである松浦信幸先生と抜髄処置後の痛みについて共同執筆できたことで,改めて勉強になりました.また,知っておいてほしい豆知識的な内容として,本書からTIPsというミニコラムを掲載できたことも,充実した内容につながったものと感じています.
感染根管治療 Retreatment
木ノ本 「抜髄」の次のステップとしてまとめることを考えたのが『感染根管治療Retreatment』で,日常の歯内療法において最も頻度の高い処置です.
『臨床根管解剖』でも触れていますが,歯そのものが感染している状態から始める治療ですので,感染している根管から“いかに感染を除去するか”がポイントとなります.根管形成法のクラウンダウンのように歯冠上部から感染を取り除いていくというコンセプトが臨床的に大切です.とはいえ,単にファイルを入れて感染を除去する方法だけでなく,根管の現状を知るための象牙質の解剖学的な知識,細菌やカンジダ,ウイルスによる感染根管の実態,画像診断のポイントなどを踏まえた診断のためのディシジョンツリーによる臨床的判断などを含めて,効率的に感染源を除去するための手立てを示していただきました.
また,治療中の再感染を防ぐためのラバーダム防湿法であったり,残存歯質が菲薄にならないようにダメージの少ない補綴装置の除去法や適切な洗浄・貼薬など,ぜひ知っておいてほしい項目について記載されています.特に「根管洗浄と根管貼薬」の章では,国内での使用が認可されているほぼすべての薬剤が詳細にまとめられていますので,ご自身の臨床で使用している薬剤の性質を知る一助になると思われます.
そして,臨床で遭遇する機会の多い根尖孔が破壊され広く開いている症例に対して,水酸化カルシウム製剤やMTAを用いたアプローチについても述べられています.さらに,病理学的・細菌学的検査法や歯科用レーザー,光殺菌治療,電磁波根尖療法(EMAT),歯冠から根管内経由で行う歯根尖切除術であるInternal Apicoectomy など,最新の治療方法についても解説していただきました.特に富永敏彦先生らにご紹介いただいたEMATが2021年にRoot ZX3(モリタ製作所)の高周波モジュールとして発売され,臨床における選択肢が広がったように感じています.
編集部 木ノ本先生が本書の序文でも述べられているように,野球にたとえて負けている状況での中継ぎ投手の位置づけを挙げています.生体による治癒機転を期待しての登板ということで,かなり不利な状況での闘いになりますね?
木ノ本 ええ,大変厳しく不利な状況からのスタートです.ただ,残存歯質の量があって,破折していなければ,治癒が見込めると考えています.もちろん,歯質が少なければ咬合させた場合に破折してしまうこともあります.それに,感染歯質は取らざるを得ないので,形成すればするほど厳しい状況になります.実際の臨床では感染をゼロにすることはできないのですから,entombment(埋葬)により栄養が供給されない状態を維持することが重要です.そのため,歯冠側からの漏洩,いわゆるコロナルリーケージを防ぐための支台築造や補綴処置を含めたアプローチが大事だと考えています.中継ぎだけでなく,代打や抑えなどの活躍も求められる総力戦といえるでしょう.
治癒に導くエンドの秘訣
木ノ本 本シリーズも「抜髄」「感染根管治療」と来て,主な処置についてはほぼ網羅できましたので,次は実際にそれらの知見をどのように臨床で適用しているのか,すなわち実践編を考えるようになりました.歯内療法の教育に関しては,大学によって指導内容に違いがありましたので,編者として大学関係者から東京医科歯科大学の興地隆史先生と愛知学院大学の中田和彦先生,開業医から阿部 修先生と私の計4名で担当させていただくことになりました.また,ご執筆の先生方も同様に,出身大学や地域などに偏りが出ないよう歯内療法分野で活躍されている皆様にお願いして,『治癒に導くエンドの秘訣』という症例集を企画いたしました.
「症例集」という性格上,基本的なフォーマットを設定してご執筆いただきました.診断や処置内容も重要ですが,「症例の概要」の中でお示しいただいた「患者へ説明した成功する確率(見込み,%)とフォローの処置」という項目は,エビデンスを述べるだけでなく,それを目の前の患者さんにどのように適用し,説明しているかを示すもので,とても参考になるものだと思います.また,術者が得意としている処置法や器具の活用法などについても「My favorite materials & techniques」という項目でご紹介いただきましたが,先生ごとの工夫の一端が垣間見えたように感じています.限られた4頁というスペースとあって,先生方には大変お手間をおかけしたと思いますが,40症例という充実した症例集に仕上がったと考えています.
ご紹介いただいた症例は,いわゆる難症例とされるものがほとんどですが,読者の先生方にとっても似たケースに遭遇する機会があると思われますので,臨床のヒントとして参考にしていただきたいです.また,症例の原因別に章立てしてあり,そこに至るまでの病態やメカニズムについて解説されていますので,難症例をいかに予防するかという視点でも読み解くことができると考えています.
編集部 本誌掲載時における企画段階でも,なるべくコンベンショナルな処置を中心に執筆のオファーをしていましたが,そのような点からも読者の先生方にも参考となるケースが多いように思われます.
木ノ本 そうですね.外科的対応はいわば“最後の砦”のような手段ですので,なるべく歯冠部からのアプローチで「ここまで治せるのか」という症例をご呈示いただきました.また,CBCTを用いずとも正放線投影と偏心投影によるデンタルエックス線写真で病態を把握したケースも多く含まれていますので,臨床のヒントとなる点は多いと思います.もちろん,CBCTによって複雑な根管系を把握できたケースもありますので,最終的には患者さんにとっての利益に結びつく選択を呈示できることが大事です.治癒に導くためのアプローチは1つだけではなく,臨床家ごとの工夫による部分も大きいので,多くの先生方に参考にしていただけると嬉しいです.
CT時代の臨床根管解剖
木ノ本 『臨床根管解剖』を発刊した翌2014年に,当院でも歯科用CBCTを導入しましたが,CTの導入によって得ることができた所見の有効性を強く感じるようになりました.また,『臨床根管解剖』はどちらかというと欧米のデータに基づくエビデンスによってまとめましたが,私の臨床におけるCBCTの使用経験が7年を超え症例数も増えてきたところ,“根管解剖には人種差が大きいのではないか?”と強く感じるようになったわけです.
特に2000年代以降,世界中からCTやCBCTを用いた論文が多く発表されるようになり,さらに2010年代以降になると,日本や韓国,中国など東アジア地域における報告が多く出てきましたので,日本人のための根管解剖についてまとめるための機が熟したと感じ,今回,『CT時代の臨床根管解剖』をまとめました.
もちろん,『臨床根管解剖』に書かれてある基本的な根管解剖の原則に変わりはありませんので,その続編,追補編として,より日本の歯内療法の参考となるデータを集めたのが本書の特徴になります.
編集部 CBCTを導入して,木ノ本先生が臨床で感じた変化は何でしょうか?
木ノ本 やはり,頰舌方向の2根はデンタルエックス線写真には写りません.また,強度の根管の彎曲や上顎洞に関係する問題,樋状根に関する所見については情報量に圧倒的な差を感じました.ただ,これはとても大事なのですが,変わらないところも多かったです.
編集部 木ノ本先生の臨床では,まずはデンタルエックス線写真で確認をするのが基本であって,CBCTは症例に応じて撮像するようにしているのでしょうか?
木ノ本 はい,そうです.被曝の問題もありますので,単なる確認のためにCBCTを撮像するということはありません.また,撮像するにしても,小さいFOV(field of view:照射野)を選択するようにしています.
本書においても1/3くらいのボリュームを割いて解説していますが,根尖部の透過像に関する見え方の違いというものを強く意識して観察するようになりました.たとえば,デンタルエックス線写真とCBCT画像における根尖部の透過像の見え方はかなり異なります.デンタルエックス線写真で見えた透過像を,どのように三次元的に解釈するのか......という視点です.
臨床ではデンタルエックス線写真が優先されますので,まず“デンタルやパノラマで写りにくい病変は何か?”を注意するようになりました.日常臨床で目にする二次元で見えている像であっても,三次元で見ると異なる像が見えてくるのではないか......ということをかなり意識しています.本書においても,処置を行う前のデンタルエックス線写真とCBCT画像をセットで掲載しているのは,そのようなイメージを持っていただくためでもあります.CBCTを持っていない先生でもそのような知識を持ってイメージすることができれば,より確かな歯内療法に結びつくことができると思います.三次元のイメージを持ちながら,二次元の像を視る目を養うことがとても大事ですね.
シリーズ全体を振り返って
編集部 さて,本シリーズでは器具・器材に関する具体的な製品についてはあまり取り上げてきませんでしたが,2000年代以降のマイクロスコープやNiTiロータリーファイル,MTA系セメントなどの開発・改良については目を見張るものがあります.この点はいかがでしょうか?
木ノ本 そうですね.エンドの器具・器材の進歩については,私の学生時代から考えると隔世の感があります.ただ,新しい製品が登場しても,過去の事例をみるまでもなく,取り扱いが終了して突然に消えてしまうこともありますので,なるべく特定の器具・器材に依存した治療法については避け,歯内療法の基本原則となるベーシックな部分を掘り下げるよう心がけました.
もちろん,各種製品のコンセプトを正しく理解して活用することは重要ですので,そのような企画主旨の下,本誌別冊2015『歯内療法の器具・器材と臨床活用テクニック』を北村和夫先生や澤田則宏先生,佐藤暢也先生と共同で編集させていただきました.また昨年,辻本恭久先生が編集された本誌増刊『最新マテリアル・ツールを活用した臨床テクニック』でもCBCTのパートを担当させていただきましたが,これらの書籍に披露されている先生方の工夫などについても参考にしていただけると嬉しいです.
編集部 器具・器材の発展などを含めて歯内療法,そして歯科医療は今後どのように進んでいくと考えていますか?
木ノ本 歯内療法は,行えば行うほど歯質は削られ,結果として歯が弱くなる治療法であると言えます.「人生100年」時代の到来を考えると,治療した歯が50年,60年にわたって口腔内で維持・機能することが求められるわけですから,初回の治療で長く維持し,なるべく再治療を回避することで,歯が弱くならないようにしていかねばならないと思います.また,社会全体の要請として,「残せるなら残していく時代」に突き進んでいくとも言え,それらを見越した治療が求められています.そのように考えると,基本的な原理・原則を見極めたうえで必要な処置を行い,短期的な目標ではなく長期的な目標を見据えた形で歯内療法を発展させていくべきだろうと思います.
編集部 さて,最後によく寄せられる質問だと思いますが,本シリーズはどこから読み始めればよいでしょうか?
木ノ本 たしかに,よく質問されますね(笑).
日常の臨床において歯を削っているわけですから,その歯や根管がどのような状態なのか把握しなければならないので,まずは『臨床根管解剖』のご一読をお勧めします.シリーズの第1弾ということもあり,歯内療法のコンセプトについても解説させていただきましたので.......そして,実際の手技については『抜髄Initial Treatment』や『感染根管治療Retreatment』を参考にしていただき,ご自身で困っていたり,治療の進め方で悩んでいるところは『根尖病変』や『偶発症・難症例への対応』『治癒に導くエンドの秘訣』などを含めて,本シリーズを辞書のように参照していただけると嬉しいですね.それこそ“臨床の教科書”としての真価が発揮されることになりますので,ご協力いただいた多くの先生方にとっても,望外の喜びだと思います.
編集部 ありがとうございました.
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