『第一大臼歯を通して考える 健全な口腔・歯列の育成と生涯を通した機能維持』より―はじめに
近年,小児の齲蝕有病者率は急激に減少し,令和4年の学校保健統計調査によれば,12 歳児の齲蝕有病者率は25.7%となり,25年前の調査に比べ半数以下になっています.
乳歯および永久歯の齲蝕は明らかに減少かつ軽症化の傾向を示しているため,小児歯科医療は治療から重症化予防・口腔機能の育成にパラダイムシフトが起きています.
そのため,健全な口腔・歯列の育成に重要な役割を担っている第一大臼歯を通して口腔機能の維持向上を図ることは大変重要だといえます.
第一大臼歯の正常な咬合関係が確立することで咬合力の増加と顎骨の成長が促され,それに伴い咀嚼筋の質的・量的変化が起こることで,成長が著しい学齢期の食力を支えることになります.
さらに,第一大臼歯は混合歯列期から永久歯列完成までの約6年間,咀嚼の主機能部位として重要な役割を演じています.
一方で,永久歯の中で最も齲蝕罹患率が高いことから齲蝕予防の重要性は言うまでもなく,エナメル質形成不全の好発部位でもあり,第一大臼歯を齲蝕から守ることは決して容易なことではありません.
とくに,幼若第一大臼歯では,齲蝕から歯髄炎への移行が早く,根尖性歯周炎を発症すると専門性の高い治療が求められます.8020推進財団の調査によれば,下顎第一大臼歯の抜歯の原因は,歯周病より齲蝕や破折の占める割合が高いことがわかっています.
人生100年時代を豊かに生きるためには,健康寿命の延伸がカギとなりますが,その基礎を作る大切な時期が小児期であることを忘れてはなりません.
さらに,口腔健康が全身の健康に寄与することがエビデンスとして蓄積され始めており,生涯を通じた口腔健康の入り口である小児期における取り組みは重要な意味を持ちます.
平成30年,「口腔機能発達不全症」が病名として保険収載されましたが,これは「食べること」「話すこと」「呼吸すること」に問題を抱える小児の口腔機能の発達支援を目的としたものであり,とくに咀嚼機能については,第一大臼歯の役割が大きいといえます.
すなわち,第一大臼歯を齲蝕から守り,正常な咬合関係を作りあげ,生涯にわたり口腔機能の維持向上を図ることは小児歯科医療の重要な役割の一つなのです.
そこで,このたび「第一大臼歯を通して考える 健全な口腔・歯列の育成と生涯を通じた機能維持」を企画いたしました.
本書は,小児歯科診療に携わる先生方に第一大臼歯を通して健全な口腔・歯列の育成を目指す必要性を包括的に理解していただくための臨床テキストです.とくに,教科書とは異なり明日の臨床に役立つ実践書として活用していただくことを念頭に置きました.
ぜひ,本書が小児歯科診療の質の向上に資することを願っております.
2024 年5月
編者 朝田芳信
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