歯学の行方:ポビドンヨードうがい薬は有用か -医薬品として上手に付き合うための提案・マウスホールド法
月刊『日本歯科評論』では歯科界のオピニオンリーダーに時評をご執筆いただく「HYORON FORUM」というコーナーを設け,「臨床の行方」「歯学の行方」という2本のコラムを掲載しています.
本記事では11月号に掲載した「ポビドンヨードうがい薬は有用か-医薬品として上手に付き合うための提案・マウスホールド法」を全文公開いたします(編集部)
寺井陽彦/大阪医科大学 感覚器機能形態医学講座 口腔外科学教室 専門教授
去る8月に大阪府知事が行った,新型コロナウイルス拡散に対するポビドンヨード(以下,イソジン)によるうがい推奨の記者会見に対して,多くの医療関係者から批判が集中し,また,市民の買い溜めによって薬局からイソジンをはじめとするポビドンヨードうがい液が消えた.
この騒動が契機となり,日頃から口腔カンジダ症治療の一環としてイソジンを推奨*1している筆者なりの本剤と上手に付き合ううえでの提案をしたいと思う.
イソジンうがい薬の不幸
これは,まず本剤が医師・歯科医師の処方箋が必要な医療用医薬品(イソジンガーグル)であると同時に,一般用医薬品(市販薬・イソジンうがい薬)である点が挙げられる.
医薬品であるので,使用に際して禁忌や慎重投与があるのは当然であるが,市販薬として他の一般的なうがい薬や洗口剤から見ると,やや面倒な薬である.次に,イソジンは約60年前からわが国で販売されており,安全性も高く,その優れた殺菌力についての基礎研究も膨大に蓄積されており,われわれ歯科医師にもなじみが深い.そして,これらのエビデンスを基に今でも医療現場,特に手術室での手洗いや消毒に頻用され,高く評価されている.
しかし,うがい薬としてのイソジンの地位は……低い.この一因として,有名なヨード系うがい薬に上気道感染の予防効果はないとする論文*2があるのかもしれない.筆者の見解として,本剤は薬剤としての用法・用量がアバウトであり,たとえば,うがいと言ってもガラガラ,ブクブク,クチュクチュというようにさまざまであり,単に口をすすぐものも含まれる.
添付文書では,濃度は15〜30倍希釈と幅広く,うがいを何秒するかの規定はなく,回数も「1日数回」と記載されているだけで,使用者の自由度がかなり高い.
したがって,本剤の臨床研究をするうえでは単に「うがい」とするだけでなく,用法・用量をかなり厳密に規定しなければ,正しい結果は得られないのではないだろうか.
イソジンマウスホールド法
口腔カンジダ症の治療の一環として筆者が考える本剤の使い方のポイントは,口腔に含んだ後,ガラガラもブクブクもせずに“漂わせる”,ないしはほとんど“含むだけ”にして20~30秒間維持し,吐き出した後に水によるうがいは可とする点である.
これは,いくら高い殺菌消毒力があっても菌に接触した瞬間にその能力を発揮する薬剤はなく,イソジンの基礎研究を口腔内に置き換えた場合,一般的なうがいよりも,薬剤と菌との必要な接触時間が得られやすい,と考えたからであり,一定時間口腔内に留めた後に吐き出すsilent gargleのイメージで,うがいの範疇と言える.
イソジンは0.1%濃度,15~30秒でほとんどの細菌,真菌,ウイルスに殺菌効果を持つとの基礎データが多く,イソジンガーグル液7%を30倍希釈しても0.2~0.3%であり,十分な殺菌効果を有している.萎縮性カンジダ舌炎や口角炎,義歯性カンジダ症などは歯科医院でも遭遇する機会の多い口腔カンジダ症だが,抗真菌剤は併用禁忌・併用注意の薬剤が多く,多剤内服している患者では使いづらい場合もあり,その代替薬としての使用も考えられる.
本法の注意点
イソジンガーグルの添付文書によれば,本剤の効能効果は「咽頭炎,扁桃炎,口内炎,抜歯創を含む口腔創傷の感染予防,口腔内の消毒」となっている.消毒とは「病原微生物の能力を減退させ病原性をなくすことであり,無菌にすることではない」であり,これを口腔カンジダ症に当てはめると,イソジンによって口腔内のカンジダ属を根絶やしにはできないが,病原性を持つカンジダの仮性菌糸を叩けば病原性がなくなり,口腔カンジダ症は治癒するものと考えられる.
ただし,本法はイソジンを口腔カンジダ症の治療薬として使用することをイメージしているため,以下の注意が必要である.
・ヨードアレルギー,甲状腺機能異常では禁忌.
・症状のある時だけマウスホールド法を行い,予防的に使うのは禁止.長期連用による細菌叢の変化の可能性を十分説明し,原則2~3週間以上の連続使用は効果の有無に関係なく行わない.
・100%効く薬はなく,切れ味は抗真菌剤より劣るか,無効の場合もある.
・アルコールを含有(メーカー未公表,25~30%程度と思われる)しているが,希釈して使用するので1~2%以下となる.口腔乾燥に対しては,使用後に水うがいを推奨.
・ピリピリとした刺激があるのは濃度が高すぎる可能性がある.必ず薄い紅茶かウーロン茶の濃さでの使用を指導する.一口分を作るだけなので,使用量は通常の約1/3.
最後に
読者の先生方が本稿を目にされる時には,ポビドンヨードうがい液の在庫不足は解消されていると思われる.新型コロナウイルスの拡散防止や重症化予防に本剤がどれほどの効果があるのかについては,微生物学や感染症学などの専門家による研究成果を待たねばならないが(in vitro試験において,SARS-CoV-2の99.99%抗ウイルス効果を確認との報告あり.ムンディファーマ社HP参照),口腔カンジダ症については有効なケースも多いので,上記の注意事項を参考に明日からでもお試しいただければ幸いである.
参考文献
*1 寺井陽彦,武井祐子,植野高章:口腔カンジダ症の治療戦略・イソジン含銜の有用性.日本歯科評論,72(5):101-105,2012.
*2 Satomura K,Kitamura T,et al:Prevention of upper respiratory tract infections by gargling:a randomized trial.Am J Prev Med,29(4):302-307,2005.
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