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【書評】『歯内療法Next Step 樋状根とRadix Entomolarisへの対応―日本人に多い解剖学的形態への臨床アプローチ』

月刊『日本歯科評論』では,当社発刊本の書評を随時掲載しております.2023年5月号に掲載する「HYORON Book Review」を発刊に先がけて全文公開いたします.(編集部)

木ノ本喜史/大阪府吹田市・きのもと歯科

歯科医師なら「樋状根」と聞くと,「下顎第二大臼歯でたまに遭遇する,断面がC字型の根形態」と想像するかもしれない.
筆者(木ノ本)も根管解剖の書籍を執筆したにもかかわらず,そのように思っていたこともあった.
しかし,本書の編者である日本大学松戸歯学部の辻本恭久先生らは,日本人の下顎第二大臼歯をCTにより観察し,女性では50%以上が樋状根であると2015年に報告した.これまで英文の論文で知られていた割合の「たまに遭遇」ではないのである.

一方,Radix Entomolarisは耳慣れない用語かもしれない.
これは日本人を含むモンゴロイドにおいて高い割合(約1/4)で出現すると報告されている「下顎第一大臼歯の遠心舌側根」のことである.欧米人の場合,出現頻度が少ない上,遠心頰側根より短く,根尖で頰側に湾曲していることが多いため,Radix Entomolarisという特別な名称が付けられていると考えられる.
エビデンスとして参照される英文論文において調査対象となることが多い欧米人に比べると,これら2種類の根形態は本書の副題のように「日本人に多い解剖学的形態」であり,まれで特別な形態と考えることはできないのである.

それでは本書の内容を簡単に紹介しよう.
本書はPartⅠの樋状根とPartⅡのRadix Entomolarisに分かれている.
PartⅠでは,まず日本大学松戸歯学部の鈴木先生と茨城県開業の中澤先生により解剖学的特徴が解説されている.
実は,樋状根は下顎第二大臼歯だけに出現するのではなく,上顎大臼歯も根が癒合していることが多く,樋状根の形態を示すことがあり,それぞれ項目を分けて詳細に説明されている.
上顎と下顎での出現頻度や根の癒合の傾向,根管形態のバリエーション,偶発症が生じやすい部位などについて理解を深めるのに最適である.

その後の項目では歯内療法に精通した著者により,臨床対応が症例を提示して詳細に解説されている.
大阪大学の岡本・林先生は,下顎第二大臼歯の感染根管治療においてCBCTによる根管形態の診断およびマイクロスコープを使用した処置が有効であった症例を示している.
日本歯科大学附属病院の北村先生は,臼傍歯が頰側で癒合した樋状根の形態を持つ下顎第二大臼歯の不可逆性歯髄炎の症例を示し,治療手順を詳細に解説している.

福岡市開業の辻本真規先生は,下顎第二大臼歯の樋状根管への対応について問題点と解決法を鮮明な症例写真を用いて示している.
東京都開業の笠原先生は,下顎大臼歯の根管洗浄法と充填法について解説している.
偶発症については東京都開業の阿部先生と編者の辻本先生がそれぞれ穿孔と器具破折の注意点と対応法に関して,外科的対応については群馬大学の小川先生らと東京都開業の澤田先生,大阪大学の岡本・林先生が,支台築造については日本大学松戸歯学部の小林先生が詳細に解説している.

PartⅡでは,Radix Entomolarisについて,まず新潟県開業の菅原先生と日本歯科大学新潟病院の水橋先生が解剖学的特徴と病変について解説している.
そして,神奈川県開業の三橋先生,東京都開業の阿部先生,東京都開業の石井・林先生により,臨床対応のポイントが症例を示しながら解説されている.

元来,上下顎とも大臼歯はその位置からして器具の挿入が困難で,根管形態も複雑であり,治療は難しい.その上,欧米人に比べ複雑な形態の大臼歯が多いとなると,その治療には日本人に適した対応が必要になる.
本書にはCBCTやマイクロスコープ,その他の器具などに関しての記述も多く,明日からの臨床に参考となる内容が満載である.

まず解剖を理解して「敵」を知り,治療方法を理解して「己」を知れば,成功への道は自ずと開かれる.
本書は歯内療法の上達を目指す先生にとって必読の書であり,上梓していただいた辻本先生には心から感謝申し上げたい.


関連リンク
『歯内療法Next Step 樋状根とRadix Entomolarisへの対応―日本人に多い解剖学的形態への臨床アプローチ』(辻本恭久 編著)

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