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臨床の行方:インプラント周囲炎への対応―現時点での有効な治療法は?

月刊『日本歯科評論』では歯科界のオピニオンリーダーに時評をご執筆いただく「HYORON FORUM」というコーナーを設け,「臨床の行方」「歯学の行方」という2本のコラムを掲載しています.
本記事では11月号に掲載した「インプラント周囲炎への対応―現時点での有効な治療法は?」を全文公開いたします(編集部)

松井孝道/松井歯科医院


編集部から“インプラント周囲炎への対応”について原稿依頼が来た.コラムということなので,今まで30年以上取り組んできたインプラント周囲炎の治療について,日ごろ感じていることを自分の主観を交えて述べてみたい.

インプラント周囲炎の定義と現状


インプラント周囲炎に関しては,筆者がインプラント治療に取り組むようになった30年以上前から最も気になっていたことである.
天然歯との組織構造学的違いや炎症に対する組織反応の違いを知れば,インプラントは易感染性であることは明白であり,まず感染した場合の対応をはっきりさせておかなければ,インプラント治療は立ち行かず,信頼も得られないと考えたからである.

治療法の模索という長い取り組みの中で「インプラント周囲炎の定義」に関してさまざまな変遷があった.
現状としては,2017年にAAP(アメリカ歯周病学会)とEFP(ヨーロッパ歯周病学会)がワークショップを開催し,2018年にコンセンサスレポートが出版されている*1.詳しい内容は同レポートを参考にしていただきたいが,そこにはインプラント周囲炎の条件の1つとして,「初期のリモデリング後のX線的骨レベルと比較して進行性の骨吸収がある」とある.

ただし,ここで注意すべきは,頬舌的な裂開状の骨吸収はX線的には判断できず,臨床的にそのような骨吸収をきたした難治性のインプラント周囲炎が存在することである.そのため,X線的に骨吸収がなくてもインプラント周囲炎である場合があり,プロービング値の変化やBOPなどの指標も参考にして総合的な判断をする必要があると思われる.
さらに,コンセンサスではあまり重要視されていないが,排膿も疾患状況を表す重要な臨床的指標であると筆者は考えている.ここで言う排膿はただの排膿ではなく,インプラント周囲粘膜を根尖側から歯冠側へ綿球で強く圧迫した際の排膿である.
インプラントは天然歯とは組織構造が異なり結合織性付着がないため,容易に周囲粘膜の圧迫による排膿が認められる.この周囲粘膜の圧迫による排膿は,インプラント周囲組織の健康度を非常に鋭敏に反映していると臨床では感じている.

このように,インプラント周囲炎を判断するうえで圧迫による排膿,プロービング値,BOP,X線的な骨の状態を総合的に判断する必要がある.


インプラント周囲炎の治療法の臨床的な課題

インプラント周囲炎の治療に関しては,世界的にもまだコンセンサスの得られた治療法はないのが現状である.
昨年リスボンで開催されたEAO(ヨーロッパインプラント学会)においても,インプラント周囲炎の治療法に関するセッションで世界的に著名な演者が「インプラント周囲炎の治療に関して,われわれはまだギャンブラーのように感じている」と述べている.世界的にトップクラスの歯科医師でも,インプラント周囲炎に対して確信をもって治療できていないのが本音なのであろう.

これまで,インプラント周囲炎の治療法に関してはさまざまな方法が提唱され,多くの取り組みがなされている.
1つには外科的な治療法の中で,汚染されたインプラント表面の除染法として生理食塩水などに浸したガーゼや綿球でこすり取るというものがある.ヨーロッパの有名大学でも行われている手法であるが,これにも落とし穴がある.この手法は,インプラント表面の汚染レベルがバイオフィルムであることが前提であり,少しでも石灰化が見られれば完全に除染することは困難になる.

また,回転切削器具となるバーを用いてインプラント汚染部を削り取るという,インプラントプラスティーも世界的に実践されている手法である.これは除染に関しては確実な手法であるが,切削によるインプラント体の疲労破折やバーの構成元素である異種元素の残留によるチタン腐食,チタン切削片の軟組織内への残留などのリスクが問題である.

この2つの治療法は両極端の方法であるが,他に有効な治療法が少なく,共にリスクを抱えながら世界的に実施されているのが現状である.

臨床の行方_202011_図


インプラント周囲炎の治療法に対する提言

インプラント周囲炎の治療法に関して世界的にコンセンサスは得られていないのが現状であるが,筆者としては18年間臨床で実践し,高い治療効果が確認されたβ-TCPパウダーによるアブレージョン法*2が最善の治療法である,と実感している.
Er:YAGレーザーによる治療法も世界的に有望な治療法として挙げられるが,操作上,取り残しのない確実な除染法としては確信がもてない.外科的治療を選択する場合は,骨欠損の形態などから除染効果を判断し,その手技の適応症となり得るかについてしっかり見極めることが重要である.

インプラント周囲炎の原因を考えた場合,清掃不良だけでなく上部構造,残留セメント,埋入位置,軟組織の状態,咬合,全身状態など多くの問題が複合してくるが,感染源の除染法に関しては以上のようなことをしっかり考慮して,火種を残さない治療法の選択が肝要かと思う.

文 献
*1 Berglundh T,Armitage G,et al:Peri-implant diseases and conditions:Consensus report of workgroup 4 of the 2017 World Workshop on the Classification of Periodontal and Peri-implant Diseases and Conditions.J Periodontol,89 Suppl 1:S313-S318,2018.
*2 松井孝道:効果的なインプラント周囲炎の外科療法を考察する-β-TCPパウダーを用いたエアーアブレージョンによるインプラント周囲炎の治療法.日本顎顔面インプラント学会誌,16(4):261-273,2017.

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