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SASORI『Hypervibes』

蠍がアスファルトに立てる爪

YouTubeで最近のロッキン系のバンドのMVを観ているうちに何かのツイートでM4の曲が今年のロッキンジャパンフェスの2月期に入賞したと聞き、手にしてみたアルバム。
M1はイントロダクションになっていて、まだ出てきたばかりの新人バンドにしてはサウンドプロダクションが構築されている。M2で既にボーカルの声に個性があり、幼くあどけないが迷うことなく歌詞を歌い切るところに好感が持てた。M4もロッキンに入賞するのも頷ける歌唱力が聴くことができる。ボーカルの小杉真咲の低音に魅力がある、しかも本人はその低音を今作で非常にセンシティブに使い分けている。M5のラップパートがある曲でもその低音の声を使い分けている。個人的に感動したのが、M1でイントロだった『FLACE/鮮度』が前置きだったことを驚かせるM6『FLASH/閃光』の歌い出しからその低音にサッと耳に爪を立てられるような奇妙な感覚、まるで蠍が都会のアスファルトの片隅で息を潜めているような恐ろしさに似た声、曲の構成がしっかりとクラシック音楽のエチュードのようにそこに這うボーカルの表現力。この最期の曲にはきっと悲しさと前を向く二つの意味があったとする、これはあくまで個人的な感想だが何度もこのM6だけを繰り返して聴いていると、自分は彼女が人目も憚らず涙で震えた時に側にいたことがあるような錯覚を覚える。不思議だ。
久しぶりに誰かに教えたくなるバンドだ。

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