目鼻立ちが整った柳原可奈子似25歳と動物カフェデート
10月も終わりに近付いてるというのに、汗ばむくらいの陽気な日だった。日差しは強いが足取りは軽い。というのも、今日会う女性の顔面がタイプだったからだ。
どうやら私は顔がハッキリしているハーフのような顔立ちが好みのようである。今日の女性も目鼻立ちが整っており、さらにメッセージも丁寧であることから非常に好印象だった。
集合場所での衝撃
本日も例の如く30分程前に現地到着。久々の浅草に舞い上がり、路地裏などを散歩していた。集合予定の10分程前にアプリ上でメッセージが届いた。
「お店の前に到着しました。」
200mほど離れた場所まで散歩していたので、急いでお店に向かう。
歩を進める毎に前回は感じなかった緊張感と高揚感が混ざり合う。
緑色のカーディガンを着た女性が立っているのが見えた。
きっとあの女性だ。さらに歩みを早めた。
「意外と背が高いな…165くらいあるかな」
「…もっとあるぞ…170くらい…?」
「……身長だけじゃない…?」
目鼻立ちはプロフィール写真同様に整っている。整ってはいるがプロフィール写真の整い方とは異なる。想像より遥かにグラマーである。例えるなら東葉高速鉄道沿線に住む柳原可奈子である。(以降、彼女を東葉さんとする)
プロフィール写真の女性はどこだ?
私は誰とメッセージのやりとりをしていた?
疑問が次々と生まれ、答えが見つからないま脳内を漂う。
正直に言うと落胆を隠せない。しかし、会った瞬間に落胆の表情を見せるのは失礼極まりないので絶対に顔には出さないようにしていた。人間の価値は内面なのである。外見だけでその人を判断するのは愚かな行為だし、自身がされて嫌なことを他人にすべきではない。紀元前から孔子も言ってるじゃないか。思考を強制終了するとともに挨拶を交わした。
「お待たせしました。動物カフェ楽しみですね。では行きましょうか。」
ここまでわずか2秒である。
Let's 修行
今回訪れたのは”もれふる屋 カラハリ"というコツメカワウソやフェネック、ミーアキャット、ヒョウモントカゲモドキといった珍しい動物と触れ合うことができる動物カフェ。
家で犬を飼っているという東葉さんと「犬以外の動物も愛でたいですね~」という話から今日に繋がった。初対面の人と話すことも苦ではない私にとって、動物カフェは更なる話題を提供してくれるありがたい場と認識していた。そう、この日までは。
柵の中に入り、床に座るスタイルで動物と触れ合うのだが、ここで異変に気付く。
東葉が言葉を発しない。
私「コツメカワウソって可愛いですね!初めて実物をみました」
東葉「私もです」
私「ミーアキャットて案外わんぱくですね!」
東葉「そうですね」
私「トカゲとか触れます?大丈夫ですか?」
東葉「大丈夫です」
これほどまで一問一答という言葉が適切なシーンはなかなかに遭遇することはない。
気付かないうちに地雷を踏んでいたのか、はたまた動物との時間に集中したかったのか。
どんなに打ちやすいボールを送っても全てスマッシュで返される。私はラリーをしたくてゆるやかなボールを送っているのだが、東葉からは私の顔面目掛けて渾身の一撃が放たれる。
もしや私の好きな芸能人が松岡修造であることを理解しての対応だろうか。だとしたら心根は良い人ではないのか。
真意が掴めないまま、利用時間終了となる。
Let's 修行 第二幕
動物との触れ合いは堪能できたが、東葉のことを何も知ることが出来ていない。そもそもの目的は相手を知ることなのだ。
ヒョウモントカゲモドキはガッキーも飼っているとか、コツメカワウソの鳴き声は割とリアルとか、ググって分かるような情報よりも相手の情報が欲しいのだ。
私のことが気に入らない可能性もあり、確かめるためにお茶を提案した。
「はい、ぜひ行きましょう」
快諾してもらえたということは嫌われてはいないようである。
浅草で有名な古民家カフェ"Café 晴蔵"でフレンチトーストを食べた。
しかし、ここでも異変が起きた。またしても東葉が話さない。むしろ異変ではなくこれが通常運行なのだと感じた私の感覚が異常をきたしている。
仕事、趣味、家族、学生時代、好きな〇〇など、思いつく限りの切り口から質問したり、私の話をしたが何も食いつかない。
すると突然
「Perfume好きのコミュニティに入ってましたよね?」
ようやく東葉から質問がきた。彼女の得意分野はここだったのか。私はPerfumeは好きだが詳しくはないので色々聞いてみようと思った。
「Perfume好きですよ。あまり詳しくはないのですが、東葉さんはどんなところが好きなんですか?」
さあこい!語れ!熱くPerfumeを語れ!俺は受け止めるぞ!会話を広げてやる!
「…可愛いところですね」
「…そうですよね~可愛いですよね~」
終わった。
Perfumeのことを語りだすかと思いきや、全ての魅力を「可愛い」の4文字に包含されてしまった。
「他にはどんなところが良いと思いますか?」なんて採用面接のような質問しか頭に浮かばない。私のコミュニケーション力の無さを痛感した。
禅の修行道場では言葉を発しないことになっていると聞く。つまりこれは禅。禅修行だったのだ。私の力量不足を見せつけられたひとときだった。
新たなる試練
お店を出て、駅まで見送る。
東葉「今日はありがとうございました。また連絡します。」
連絡とは次の修行日のことだろうか。今日は体験?次回からが本番?
疲労困憊。この言葉とともに電車に揺られて私も家に帰れたらどんなに楽だろう。
そう、まだ帰れないのである。この日は別のご新規様と夕飯の約束がある。
待ち合わせまで3時間。ちょうど先方からも
「体調大丈夫ですか?この時勢なので無理なさらず」
と連絡があった。
修行で疲れてしまって…とは言えない。何か案は無いのか。少し空を眺めたあと、無意識にスマホに手が伸びる。
「サウナ 営業中」
私はGoogle Mapを開き、最寄りのサウナを探していた。ここで整ってから次の戦いに備えよう。夕飯には予定通り伺う旨、返信した。
次回、デート→サウナ→デートで迎えるサタデーナイトフィーバー。
ゆるゆるお待ちください。